『SXSW 2024』“TOKYO”を冠した2つのショーケースで世界へ プロジェクトメンバー座談会
アメリカ・テキサス州オースティンで行われる『SXSW 2024』内で、LD&KとThe Orchard Japanがプレゼンターを務める『TOKYO CALLING』、FRIENDSHIP.とSpincoaster、The Orchard Japanがプレゼンターを務める『INSPIRED BY TOKYO』といった二つのオフィシャルショーケースが開催される。
3月8日〜16日に行われる『SXSW 2024』は、音楽、映画、インタラクティブをテーマにした複合イベント。『INSPIRED BY TOKYO』は“TOKYO”というキーワードを通して日本やアジアの次世代アーティストを紹介することを目的としたショーケースライブで、The fin.、ドミコ、Helsinki Lambda Club、Wez Atlas、くだらない1日、luvisの6組が出演する。またその前日には、LD&Kが主催する日本最大級のサーキットフェス『TOKYO CALLING』のショーケースライブ 『TOKYO CALLING showcase LIVE supported by The Orchard Japan』が行われ、東京初期衝動、バックドロップシンデレラ、HALLEY、眉村ちあき、カメレオン・ライム・ウーピーパイがラインナップされている。
リアルサウンドでは、このプロジェクトの中心的な役割を担っている山崎和人(ヒップランドミュージックコーポレーション)、菅原隆文(エル・ディー・アンド・ケイ)、林潤(Spincoaster)、増田雅子(The Orchard Japan)の座談会をセッティング。『SXSW 2024』でのショーケースライブの成り立ちを軸に、日本のアーティストの海外進出の現状と課題について話を聞いた。(森朋之)
2つのショーケースが組み、日本のアーティストをより広く紹介していく場に
——3月11日、12日に『SXSW 2024』でオフィシャルショーケースライブ『TOKYO CALLING』『INSPIRED BY TOKYO』が行われます。まずはみなさんの『SXSW』との関わりについて教えていただけますか?
山崎和人(以下、山崎):初めて『SXSW』に参加したのは2011年ですね。マネジメントを担当していたアーティストのアメリカツアーの一環だったのですが、イベントの規模や内容を目にして衝撃を受けて。その後も何度か『SXSW』へ参加して、「ここでオフィシャルのショーケースライブを開催したい」と思い始めていろいろな会社と話をする中で、一つの会社だけではなく、いくつかの会社でまとまってアプローチするべきだなと感じました。じつは『INSPIRED BY TOKYO』は2020年の『SXSW』で開催する予定だったんですよ。そのときはTuneCore Japan、Spincoaster、FRIENDSHIP.の3社で共同開催することになっていたのですが、コロナ禍で中止になって。2022年にオンラインで参加したのですが、昨年の『SXSW』で『TOKYO CALLING』がショーケースを開催していたのを受けて、今年は共同で行うことになりました。“TOKYO”という名前でアピールし、日本のアーティストをより広く紹介していけたらなと。
林潤(以下、林):『SXSW』音楽部門の総責任者であるジェームズ・マイナーさんが来日したときに、ミートアップが行われて。そのときに『INSPIRED BY TOKYO』の開催が決まりました。
増田雅子(以下、増田):その場にこの4人が揃っていたんですよね。The Orchardとしてもぜひ参加したかったし、ジェームズさんとざっくばらんにお話できたのもよかったですね。
——LD&Kが主催するサーキットイベント『TOKYO CALLING』の名前を掲げて昨年の『SXSW』で初めてショーケースを開催したのは、どういう経緯だったのでしょうか?
菅原隆文(以下、菅原):そもそも『TOKYO CALLING』は、『SXSW』にインスパイアされて生まれた『MINAMI WHEEL』(1999年より大阪で行われているサーキットイベント)を目指して始まったイベントなんです。いわば『SXSW』はルーツなのですが、『TOKYO CALLING』という名前の通り、「日本の音楽を海外に発信したい」というテーマは最初からあったし、どこかのタイミングで『SXSW』でショーケースを行いたいとずっと考えていたんですよ。ジェームズとつながることができて、「『TOKYO CALLING』を『SXSW』でやりたい」と話したら、すぐにOKになって。去年初めてやってみてかなり手ごたえがありました。今年は『INSPIRED BY TOKYO』も開催するということだったので、だったら一緒にやったほうがいいなと。それぞれが“点”で戦うよりも、一丸となったほうが“線”や“面”になるはずだと思ったので。『SXSW』はアーティスト単体でもエントリーできるのですが、費用もかかるし、「参加の仕方がわからない」という声もけっこう聞いているんですよ。そのあたりの課題を含めて、『INSPIRED BY TOKYO』と『TOKYO CALLING』の2系統があれば、窓口としても機能できるのかなと。同じ“TOKYO”ですけど、ジャンルはかなり違うので。
増田:アーティストやマネジメントの方に『SXSW』の話をすると、必ずと言っていいほど「出てみたい」と言われるんです。でも、単体でエントリーするにはハードルが高い。土地勘みたいなものが必要だし、エントリーに関して相談できる場所もあまりないので、諦めてしまう方も多いようで。『INSPIRED BY TOKYO』『TOKYO CALLING』がショーケースとして定着すれば、『SXSW』に興味のあるアーティストはアクセスしやすくなるんじゃないかなと。私は去年初めて参加したのですが、他の国はかなり大きい規模で展開しているんですよ。たとえばイギリスは一つのべニュー(会場)を借り切って、自国のアーティストやカルチャーをプレゼンしていて。
菅原:“イギリスの音楽大使館”という感じですよね。
増田:そうですね。韓国のアーティストがキュレーションするアジアのアーティストを集めたショーケースだったり。そういうイベントを観ていると「日本もこういうことができたら」という思いが強くなって。
菅原:客観的に見ても、日本のアーティストは世界で勝てる可能性を持っていると確信しています。ただ、これまでは世界とつながる方法がなかったんです。まずは『SXSW』での取り組みが入口になったら、状況は大きく変わると思うんですよね。
林:2020年までは日本のアーティストが出演するオフィシャルショーケースは『ジャパン・ナイト』だけだったんです。それ以外のステージに日本のアーティストが出演することもありましたが、どうしても単発になってしまい、効果的なプロモーションにつながりづらい。そういった意味でも今回は枠が2倍になるので、海外に向けてチャレンジするアーティストの受け皿としてはかなり大きいと思います。
——これまでも毎年のように日本のアーティストが出演していましたが、誤解を恐れずに言うと「出ただけ」になってしまう場合もあるのかもしれないですね。
林:そうかもしれないです。『SXSW』はとにかく規模が大きいイベントなんですよ。東京で例えると、渋谷・原宿を一つにまとめたくらいの範囲にすごい数の会場があって。全部を把握するのは不可能なんですが、参加者それぞれが違った経験ができるというのも特徴です。
増田:音楽系のオフィシャルだけで60以上ありました。それ以外にも小さいステージがたくさんあるんですよ。
菅原:ホテルや民家の庭先などでもライブをやってますからね。アメリカ中の音楽関係者が集まっているし、『SXSW』の期間中、音楽の中心はオースティンと言ってもいいと思います。オースティン自体がすごくイケてる街なんですよ。テスラの本社、アップルの第2本社があったり、文化的にもかなり高い水準にあって。
増田:The Orchardは、毎年Happy Hourと称してネットワーキングイベントを開催していて。そこに各国のアーティストやクライアントが集まってくれるんです。開催期間の序盤に出演したアーティストが評判を集めて、後半に行われるショーにブッキングされることもあって。
——海外のアーティストやエージェントとつながることで、海外での活動がさらにやりやすくなると。
菅原:そうですね。そのためには継続が大事だと思っています。去年『TOKYO CALLING』のショーケースを行って、「これは10年やらないとダメだな」と。『SXSW』がすべてだとは思っていませんが、まずはそこでアピールすることで、「日本の音楽はイケてるよね」と伝われば、状況はもっと良くなっていくだろうと思っています。