THE BACK HORN「25年経って今が最高だと思ってる」 ライブ音源から振り返る変化と広がり
圧倒的な熱量を持つライブと心の底に刺さる楽曲を両輪に、25年を歩み続けてきたTHE BACK HORN。3月23日のパシフィコ横浜公演が発表され、結成25周年イヤーが大詰めを迎えている。その日に向けて、自分たちが刻んできた轍の記録とも言うべき素晴らしいライブ音源をコンパイルした2枚組『「25th LIVE SELECTION」Package Edition』をリリースする。昨年12月17日から配信されている「Digital Edition」と同じ内容のDisc1、新たな11曲を収録したDisc2と合わせ全25曲で構成されたものだが、通常のライブ盤ともベスト盤とも一線を画している。デビュー曲「サニー」から最新シングル曲「最後に残るもの」までシングル曲と代表曲が並ぶが、ただのベスト盤ではなく、全曲がライブ音源で構成されつつも、録音された時期も会場もバラバラという驚きのライブ・ベスト・セレクション。自分たちの全てを伝えたいというTHE BACK HORNの熱意が詰め込まれた作品なのだ。山田将司(Vo)と松田晋二(Dr)に、25年を振り返りながらこの作品への思いを語ってもらった。(今井智子)
斬新なライブ音源 ポイントは「今とつながる歴史観」
ーー1会場でのライブではなく、時期も場所も違うライブ音源をコンパイルするというアイデアは、どんな風に生まれたんでしょう?
松田晋二(以下、松田):ライブアルバム『KYO-MEIツアー ~リヴスコール~』(2013年)が、その時ツアーで回った会場の音源だったんですけど、25周年で振り返るものとして、今まで録ってきたライブからセレクトしていくというのは、やったことがないので、いいなあと。周年の時ぐらいしか振り返る機会はないので、今までやってきた道程を見返すいいタイミングだなと思って。映像じゃなくて、音だけでライブの現場を想像して聴いてもらうというのはTHE BACK HORNにぴったりだなと。それで膨大な音源から、まず俺がちょっと粗選びして、将司に「このテイクどう?」とか言いながら進めていったんです。
ーーデジタルとパッケージ、時期をずらして2形態でのリリースというのも面白いですね。しかもパッケージは、デジタルと同じ内容のDisc1と、内容が重ならないDisc2との2枚組で。
松田:Disc1の方は、THE BACK HORNにまだ触れたことのない人たちにも届けられるような14曲ということで、各アルバムから1曲ずつ選ぶという歴史観もあって、サブスクでたくさんの人に聴いてもらおうと。Disc2はボーナス感というか、Disc1に入りきらなかったシングルも入れて、他にもこんないいライブがあったんだよと。CDで自分の手元に持っておいて聴いてほしいという思いで作りました。
山田将司(以下、山田):25周年だから全部で25曲にしようと、それは最初から決めてました。
松田:アルバムから1曲という縛りがあったのがよかったなと思います。それがないと、『イキルサイノウ』(2003年)だったら「未来」もあるなあとか、『ヘッドフォンチルドレン』(2005年)だったら「夢の花」もあったなとか広がっちゃう。その中からライブ感があって熱量の高いものを意識して、相当悩んで選び抜いた楽曲たちで、このサイズ感でぴったりかな。そうじゃないと「じゃ野音のライブそのまま出せばいいじゃん」になりかねない(笑)。だから、そういう風に歴史と会場で絞ったのはよかったなと思う。アルバム曲がDisc2に入ってたりするのもよかったですし。
ーーディスコグラフィを見ると『KYO-MEIツアー ~リヴスコール~』まではCD、つまり音源でもライブ作品がリリースされていますが、翌2014年からはライブはDVDとか映像作品のみになっているんですね。それもあって今回は2014年から2023年までのライブ音源だけで構成したのかなと思ったんですが。
山田:たしかに! そこまでかっちり考えていたわけじゃないけど、「あの時の音源は出してるね」とかは話しながら選びました。
松田:遡れば2003年とかの音源もあるんですけど、「懐かしいなー」で終わらせるのはもったいないなと思ったんですよ。25年経って今が最高だと思っているので、今とつながる歴史観があるものにしたかったというか。
山田:若さに寄り過ぎないというか。あの頃はあの頃でよかった、という考え方もあるけど、今の自分たちの「いい」と思う基準で選びました。
松田:「THE BACK HORNのライブってどうなんだろう?」という人たちに、「うわっ、こんなにアツくてカッコいいんだ!」と思ってもらえる作品にしたかったというのもあるので。今ど真ん中の、めちゃ演奏も歌もアツくてカッコいいところを選んだ。それに、できるだけ今まで発表していないテイクというのも意識したし。そうしたら2014年の音源でインディーズ時代の「甦る陽」がカッコよかったりして、時代のバリエーションも出てよかったです。
ーーいろいろな会場、異なる時期の音源だと、曲ごとに音のばらつきがあると思うんですけど、それをあえて活かしていると思いました。エンジニアさんも大変だったろうなと思いますが、皆さんはどう感じてたんでしょう。
松田:基本はそのままのミックスを採用して編集していったんですけど、マスタリングでどれかに合わせようとすると、どんどん無理が出てくるんですよ。例えばホールの響きのある楽曲を、ライブハウスのストレートなものに合わせていくと、違う響きになってしまう。そこはクレジットに会場名も出るし、その会場のよさも特性も活かしながらというので、エンジニアさんとあれこれ言いながらやりました。
ーーバンドの演奏だけでなく、オーディエンスの空気感も会場によって違うのが伝わってきますね。例えば日比谷野音だと開放感があるから歓声も大きかったり、中野サンプラザとかだとじっくり聴いている感じがあったり。
山田:そうですよね。でも、中野サンプラザとか新木場STUDIO COASTとか、今はなき会場だし。歴史を感じますよね。ほんの数年ですけど。
松田:日比谷野音も改修するから、この時とは違う感じになるのかな。もう、若手のバンドとかに「STUDIO COASTってどこですか?」とか言われそう(笑)。
配信ライブやストリングスなど思い入れの深い音源も
ーーこの会場の、この曲は入れたかった、みたいなこだわりもありましたか?
松田:個人的にはすごくありました。やっぱり2017年の日比谷野音が、すごくいいライブだったから。歌の感じがすごくよくて。だからあの野音からいっぱい届けてもいいかなというのがあったり。
山田:あれはよかったねー。
松田:あとサウンドと演奏のドッシリ感で言うと、2019年の3回目の武道館も、すごくまとまりがあって、今まさにバンドが手にしているドッシリとしたビートの中で皆のテンションが炸裂しているという。必然的にそのあたりが多くなってるんですけど。それに、2016年の中野サンプラザの「閉ざされた世界」、2017年の日比谷野堂の「コワレモノ」、この2曲は歌と演奏の“カタマリ感”というのが、個人的にはすごくグッときて選んだところはあります。
山田:俺はやっぱ、2015年の渋谷公会堂の「戦う君よ」。ストリングスが入って、ちょっと特別なイントロもついたりして、これはちゃんと音源として聴かせたいなというのはありましたね。
松田:2016年の中野サンプラザの「悪人」「カラス」もストリングスが入った。
山田:全然壮大な曲じゃないのにストリングスが入ってるのが、THE BACK HORNらしくていいなと思って、ちょっと聴かせたいなと。
ーー渋谷公会堂は、ワンマンで初めてストリングスが入ったライブだったと思うんですけど、バンドもストリングスチームも手探りな感じが初々しくてよかった記憶があります。
松田:バンドと合わせづらいと言うとネガティブだけど、なかなか呼吸感が大変そうなバンドではあるじゃないですか(笑)。
山田:テンポもピッチもどんどん変わっていくから(笑)。
松田:そう、俺たちはウネっていくバンドだから。そういう意味では2021年のZepp Haneda (TOKYO)での『「KYO-MEIストリングスツアー」feat.リヴスコール』の時はマッチ感があって、ストリングスと一つのバンドだなと思えるぐらい達成感がありましたね。渋公から始まったストーリーがあった。今回収録した「ジョーカー」にストリングスは入ってないんだけど、空気感は伝わると思う。
山田:それぞれの会場の記憶はありますからね。そのライブに備えていろいろやってた記憶とか、悔しかったなと思うライブもあるし。
松田:そういう苦しみを乗り越えて、でもやりきれたライブというのも残るよね。
山田:そうそう。2020年のVICTOR STUDIOの「グローリア」とか。あれは俺の術後半年も経ってない、初ライブで。
松田:特別なバージョンだったから、これも入れたくて。コロナ禍で、初めて無観客で配信やったというのと、将司が復活して初だったので。スタジオライブだから、ライブハウスの空間とは響きが違うじゃないですか。でも俺たちは、これもライブだという感覚で。
ーーこれは配信されましたけど、すごい緊張感のあるスタジオライブでした。音源として聴くとまた違う手応えがありますね。
松田:スタジオライブだから音がとにかくいいんですよ。普通はライブって録ることを前提としていないというか、そこで響かせる音を録ってるから、録音したものから作り上げていくんですけど、VICTOR STUDIOの場合はそもそも録音スタジオでのライブ配信だったので。
山田:マイキングとかも、レコーディングと同じようにしてくれて。録音スタジオだから当たり前なんだけど(笑)。
松田:ライブの良さを数段上げてるというような(笑)。それも一つの要素ということで、この1曲を入れてます。
ーー曲順ではその後が日比谷野音の「刃」。その落差も味ですね。
松田:これも結構大変で。「グローリア」の室内のデッドな音から、壮大な野音へという。
山田:それで最後が2023年の千葉LOOK(笑)。この曲「最後に残るもの」のメッセージも相まって、本当に200人ぐらいしかいないところでやってる感が見えるのもいいなと。
松田:「最後に残るもの」は最後に入れたいというのがあったよね。
ーー日本武道館でのデビュー曲「サニー」に始まり、最新シングル曲「最後に残るもの」は、最新ツアーでの千葉LOOK。こうしたセレクトもTHE BACK HORNらしいと思いましたが、これをコンパイルして、自分たちの25年を振り返るのはどんな感じですか。
山田:うーん、刻んでますね。音としてもそうだけど、ちゃんと1個1個のライブ、命を刻んできたなという感じはある。自分でも聴いていると感情移入しちゃって、エネルギー持ってかれるところがありますね(笑)。いろいろ思い出しちゃって。あの時こういう景色が見えてたんだなとか。逆に元気もらえるところもあるし。それだけ真っ向勝負してきたものが残せたのは嬉しいですね。
松田:特にDisc1の方とか、2000年代前半に作った楽曲も多いじゃないですか。それを10年、15年以上経って演奏しているのを聴くと、特に(菅波)栄純なんかはこれがやりたかったんだなっていうか。有り余る思いで作って、思いを閉じ込めた作品というのも、その当時にしか生まれ得なかった等身大の自分たちのメッセージなんですけど。一方で音楽的な部分で見てくると、ずっとやり続けることで自分たちの中で育ってくるんだという手応えを感じてます。