JUVENILE、ボーカルに初挑戦 アニメタイアップに導かれた新時代の音楽プロデューサー像
音楽プロデューサーのJUVENILEが新曲「IMMORTAL」をリリースした。
今作はTVアニメ『望まぬ不死の冒険者』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマで、同作の世界観を彷彿とさせる力強いエレクトロサウンドと疾走感のあるロックサウンドが融合した意欲作。主人公の内面に寄り添う数々のフレーズが盛り込まれた歌詞も印象的だ。
この曲でJUVENILEは初めてボーカルに挑戦している。これまでは様々なゲストボーカルを迎えて、自身は作曲や得意とするトークボックスに徹していたJUVENILE。しかし今作では一転して、自分の言葉と自分の声で、まるで自分自身を鼓舞するかのように歌い上げている。〈答えの見えない旅の途中/ありたい姿とはかけ離れても/この手で切り開く新しい自分〉とは、まさにJUVENILE自身の人生も重ね合わせていると読み取れる一曲だ。
そんな新しい一面を見せたJUVENILEに今作に込めた思いや、原作に感じたこと、歌に挑戦することへの思いなどを聞いた。トークボックスプレイヤーとしても注目されるJUVENILEに、新たな時代の音楽プロデューサー像を感じてもらいたい。(荻原梓)
さまざまな活動を経て 思いがけぬボーカルへの挑戦
ーーこれまでユニット活動や作曲家として活動してきたJUVENILEさんですが、今作ではボーカルに挑戦しています。まずはその経緯から教えてください。
JUVENILE:そもそも歌いたいとは思ってなかったんです。僕は曲を作って、歌は誰かが歌うものだと思い込んでいました。特に理由もなく、自分は歌わない人だと思ってたんですよ。トークボックスを始めたのも、たぶん自分は歌じゃないと思ったからで。今となっては「もっと早く歌っておけばよかったかな」とは思ったりするんですけどね。
ーーでは自分から歌いたいと思って決断したわけではないと。
JUVENILE:そうです。それである時、ポニーキャニオンさんから「歌に興味はありますか?」というふわっとしたジャブをいただいて、「なくはないですけど」みたいな(笑)。もともと歌はリリースしないまでも自分が作った曲に対して仮歌を録ることはあったんです。公に聴かれることはないですけど、内々で聴かれることはあったので、歌うこと自体に抵抗はなかった。そしたらだんだん「何でもやったらいいじゃない」っていう気持ちになってきて。
ーー人によっては完全に拒否しそうなところですが、最初からそこはフラットだったと。
JUVENILE:そういう人をたくさん見てきてるんですよ。そういえば、俳優の中尾明慶さんにボーカルをお願いしたことがあったんですけど(『INTERWEAVE』収録「パパだから feat. 中尾明慶」)、中尾さんには僕から「歌いませんか」って声をかけたんです。「歌いたくないのであればもちろんすいませんですけど、歌いたくなくないのであればやりませんか」って。
ーー歌いたくなくないのであれば(笑)。
JUVENILE:そうやって今まで自分が人に言ってきたことと同じことを僕自身が言われたので、そういう僕が断るのは違うなって。
ーーたしかに、そうですよね。
JUVENILE:あと僕、普段歌手じゃない人でも歌い易いような楽曲を制作する機会がわりと多くて。そういうCMソングや現場によく携わってきたんです。歌うことが本業ではないお笑い芸人さんや声優さんが、あえて歌を歌うっていう。
ーーまさにRADIO FISH「PERFECT HUMAN」がそうですよね。
JUVENILE:そういう姿勢を見て「かっこいいな」と思ってたんです。自分が一番得意なことと近いけど、その少し横にある、そこまで自信があるわけじゃない歌うということに真剣に取り組む姿を見て、素晴らしいなって。
ーーなるほど。そういった本業が歌手ではない人たちが歌う姿を見てきたJUVENILEさんだからこそ、歌うことに前向きになれたわけですね。
JUVENILE:もちろんこういう話がなければそのままだったと思います。でも考えるいいきっかけになりました。散々自分が提案してきた側なのに、いざ自分が言われてみるとギョッとするものだなと。でも、やろうと思えばやれるんですよね。
人生は自分で決めているようで意外とそうではない
ーーではそんなJUVENILEさんが新しい一面を見せた楽曲「IMMORTAL」についてです。まずは曲作りの過程から教えてください。
JUVENILE:最初にタイトルと資料をいただいて、ラノベ形式の原作小説と漫画を読んで世界観を理解した上で打ち合わせに臨みました。その打ち合わせでどういう曲にするか話させていただいた時に、あの骸骨が出てきたり勇者が街に出ていくRPGみたいな世界観は、音で表現できそうだと思ったんです。ただ、僕が僕として歌うとなると、僕にはその世界観ってないんですよ。僕は東京生まれ東京育ちで、どちらかと言うと夜型の、アウトドアなんて一切しないインドア派。そういう人生を送ってきたので、自分が歌うに値する共通点を探さなきゃいけない。そう思った時に、主人公の内面にフォーカスすると意外と誰もが共感できる部分があって。ファンタジーな世界観の中にも僕らが入り込める日常的な話があるんです。なので歌の中身はそこにフォーカスして、サウンドにファンタジー要素を入れました。
ーー主人公の内面という意味では、努力しても報われない辛さや、もどかしさが歌詞には描かれていると感じます。
JUVENILE:主人公が一度死んじゃって、気づいたら骸骨になってるんです。簡単に言うと、骸骨になったらなったで異能の力を手に入れて、これがなりたかった姿ではないけれど、この力を持って野望を成し遂げるぞっていう気持ちがきっかけとなるんですけど、僕はその手前の、主人公が人間だった頃に共感してて。うまくいかないことも多いんですけど別に鬱々としてないんですよ。そこがめっちゃ僕もそうなんです。うまくいかないことがあっても、できないからって下を向く必要はなくて。そこを気にしてても仕方ないって思うんです。しかも「こんなはずじゃねえ」って燻ってる感じでもない。その主人公の感じにシンパシーを抱いてたんです。
ーー主人公の性格に共感するポイントがあったと。
JUVENILE:まさかこういうファンタジーな世界観に共感できるところがあるとは思ってなかったんですけど、それを発見できてからは歌詞は書きやすかったですね。
ーー歌詞には〈現実のギャップ 埋まらない溝〉や〈理想とは違う夢のカタチ 追い続け〉といったフレーズが登場しますが、この曲を歌うことでJUVENILEさん自身も鼓舞してるのかなと感じました。
JUVENILE:まさにそうです。自分のやりたいことをやってそれが仕事として成り立つってすごくいいじゃないですか。この物語の主人公も勇者的な職業にそもそも就けている。それは僕自身もそうで、音楽を作ることでいろんな人に喜んでもらえる。そこには満足してるんですけど、でももっと上に行きたいという思いもある。「自分はできてる」と思うところと「いやまだまだだ」という部分がどちらもあるので、その「まだまだ」と思う自分に対して鼓舞した面もありますね。理想って基本的にそうならないから理想なのであって。基本的にギャップがあるもの。それをどうポジティブに受け取るかが重要で、理想と現実にギャップがあることをネガティブに捉えても何も生まれないですから。
ーーたしかに。
JUVENILE:なりたい自分ってみんなあると思うんですけど、そこにストレスやフラストレーションを抱えたままでもしょうがない。ないものを探すよりも、今あるものをちゃんと見たほうがいい。そこから下を向いてても何も変わらないと思うんです。前を向いていれば何か変わるんじゃないかなと常々思ってて。僕、「まだやれることはある」が座右の銘なんですよ。時間もお金も全部使って限界までいっても、「まだできることはあるんじゃない」っていつも人にも言ってるし、自分にも言い聞かせてます。
ーー〈受け入れて強くなる から変わる運命〉という歌詞も印象的です。受け入れるという点では、JUVENILEさんにとっては歌うことも受け入れたことの一つですよね。
JUVENILE:人生は自分で決めているようで意外とそうではなくて。社会人になると就職活動とか転職とか、自分でなんとかしなきゃいけないっていう気持ちになってくる。でもそうじゃないこともやっぱり多くて。突然ウイルスの感染が拡大して経済が止まったり、ライブが禁止されたり、そういう自分の力ではどうしようもできない大きな世の中の流れに飲み込まれて、自分の意志ではないところで人生が動くこともある。まさに今回、このアニメタイアップの声をかけていただいたこともその一つです。自分で進路を切り開いて舵を切ったようで、実際はそうではない。自分の人生は自分で決めていると思い込まないことですよね。だから柔軟性ってすごく大事で、常になんでも受け入れなきゃと思ってます。
ーーそう思うとJUVENILEさんの主人公へのシンパシーから、自身の人生観まで、この一曲にいろいろな思いが詰め込まれているわけですね。
JUVENILE:本当によかったと思います。この『望まぬ不死の冒険者』じゃなかったら歌うことももっと迷っていたと思いますし、たまたまこの作品のオープニングのオファーをいただけて、こういう話ですごくラッキーでした。