Bring Me The Horizonが残した破格の爪痕 『NEX_FEST』から紐解く2020年代ヘヴィミュージックの在り処

 そして大トリ、BMTHのステージはまさに破格だった。まず「NeX GEn」の生態調査をしているという女性 EVEの姿が画面に映し出され、ゲームの世界に誘うかのようなオペレーション映像が流れ始めると、続けて巨大な教会の空間がLEDスクリーンに広がり、直後に1曲目「Can You Feel My Heart」が演奏されるという完璧すぎるオープニング。信仰の盲目性をモチーフにしたシニカルな批評眼が光る「NeX GEn」のテーマと言っていい「AmEN!」で業火のごとく炎が上がると、「Teardrops」「Happy Song」「MANTRA」の流れで怒涛のシンガロングが起こる。さらに、ド派手な映像演出も凄まじい。「Dear Diary,」で教会が崩れ去り、「Parasite Eve」で不気味な噴煙が街を包み込んで無に返し、ヤングブラッドを呼び込んだ「Obey」では巨大なヒューマノイドが起動するという一連の流れを通して、『Post Human: Survival Horror』で描いていたシリアスなテーマをセンセーショナルな映像表現として落とし込んでいく。その迫力に圧倒された。

(写真=©NEX_FEST All Copyrights Reserved.)

 「DiE4u」を経た「DArkSide」では、「NeX GEn」ーーすなわち個々人の物語にフォーカスするように、スクリーンにもバンドメンバーやオーディエンスの姿が映し出される。さらにオリヴァーは4thアルバム『Sempiternal』(2013年)から10周年、2ndアルバム『Suicide Season』(2008年)から15周年であることに言及し、それぞれから「Sleepwalking」「Chelsea Smile」を披露。特に、オリヴァーが薬物中毒から抜け出す前(3rdアルバム以前)の楽曲はサブスクで長らく配信停止になっていたこともあり、このタイミングでの「Chelsea Smile」の披露は貴重であった(しかも本フェス開催直前にSpotifyに復帰していたようだ)。そんな薬物中毒の経験をモチーフにして、行き場のなさや自暴自棄を狂気的なほどポップな音像に昇華した「LosT」で大合唱を巻き起こし、本編を締め括った。

(写真=Jonti Wild)

 アンコールでは、歌詞の〈angel of the blade(剣を持った天使)〉が暗闇で剣を振るう映像をバックに「Kingslayer ft. BABYMETAL」が披露され、BABYMETALと共演。それは、人々がナンバリングされて徹底的に管理され、怒りの声さえかき消されてしまう窮屈な社会から、〈another world〉へとオーディエンスを連れ出していく救世主の姿そのものだった。アグレッションが乗り移ったかのような生演奏と焦燥的なブレイクビーツ、SU-METALの芯に迫る歌唱も相まって、『Post Human: Survival Horror』の音源では少し浮いている印象もあった「Kingslayer」の認識自体が正された気がした。

(写真=Taku Fujii)

 最後は「Drown」「Throne」のアンセム2連発で、素晴らしい終幕だった。全ての楽曲がメロディアスで1つたりとも同じような瞬間がなく、絶えず変化しながら圧巻の映像演出で楽しませ、リズムバリエーションの多彩さやオリヴァーの絶好調なシャウトでも魅了した、あっという間の90分だった。

 ヘヴィな楽曲の中で己の傷口を晒し、薄っぺらい信条や、声なき声を排除する権力に中指を立て、救済への懇願を歌い続けてきたBMTH。オリヴァーは最初から世の中なんて信用していないし、誰も自分を救ってはくれないという絶望や孤独が、BMTHをエクストリームな存在へと導いてきた。だからこそ彼らの音楽はいつも、大衆という暗闇に対してではなく、地に足をつけて存在している個々人に向けて投げかけられている(オープニング映像でEVEが言っていた通り、「自分自身がどうするか?」なのである)。そんな音楽を受け取った一人ひとりの声が重なって、自然と大合唱になっていく光景はとても美しかったし、BMTHとしても日本のオーディエンスに向けてライブする手応えをしっかり掴んでくれたのではないだろうか。

 BMTHは来年で結成から20年を迎える。彼らが始動した2004年はまだまだニューメタルや初期メタルコアがシーンを席巻していた時期だったし、その余波を受けながらBMTHはデスコアバンドとして2006年にデビューしている。ちょうどその時期から本格的に勃興し始めた日本のラウドロックもそうだが、ヘヴィな音像と塊のようなアンサブル、シャウトボーカルから成る音楽性が、鬱屈とした感情の受け皿となってシーンの裾野を広げていったのだ。そこから時が経って脈々とそのDNAは受け継がれ、YOASOBIのようにボカロP経由でJ-POPとして花開いている存在もいれば、CVLTEやPaleduskのように固定概念に縛られない斬新なバンドも現れている。時代と価値観が変わっていく中で、ヘヴィミュージックの在り処も常に移ろっているが、その糸が途切れたことは一度もなかったし、ラッパーやソロシンガーにも『NEX_FEST』に共鳴し得る者がたくさんいるだろう。繰り返しにはなるが、ラインナップを広げながら、第2回、第3回……と発展していくこれからの『NEX_FEST』にも期待したい。

 そんな中で、今回のBMTHのライブは、“ロックサイド”から打たれたストレートパンチだ。これだけ音楽を発信するスタイルが多様化した今、的確な時代批評とソングライティングのスケールを研ぎ澄ませ、正真正銘ロックバンドとしてセンセーショナルであり続ける稀有な存在。コロナ禍が明けても愚行を繰り返してばかりの人類だが、『NEX_FEST』が日本で開催されたことは一筋の光のようだし、それを受け取った日本のオルタナティブな音楽シーンもますます面白くなっていってほしいと願うばかりである。

(写真=©NEX_FEST All Copyrights Reserved.)

※1:https://realsound.jp/2023/09/post-1420319.html

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