Bring Me The Horizonが残した破格の爪痕 『NEX_FEST』から紐解く2020年代ヘヴィミュージックの在り処

 Bring Me The Horizonのようなバンドは、やはりBring Me The Horizonだけである。11月3日、幕張メッセで開催された彼らの主催フェス『NEX_FEST 2023』に参加して最も強く感じたことだ。それはロックバンドとしての純度が高まれば高まるほど、“従来のロック”に偏るのではなく、むしろサウンドの幅、共振するアーティストの幅、リスナーの幅を大きく広げてきているから。初期からメタルコアやハードコアにとらわれない自由度を誇っていたバンドだが、リル・ウージー・ヴァートやグライムス、ヤングブラッドのようなアーティストとの共作を経ながら、これほどまでアクティブに影響力を高めているロックバンドは他に見当たらない。そして今回、『NEX_FEST』が日本国内の3会場(4公演)で成功したことにより、日本のオルタナティブな音楽が持つ越境性とBring Me The Horizon(以下、BMTH)の根幹は共振し得るということも示されたのではないだろうか。

 まず、『NEX_FEST』開催が発表された頃から話題になったのは、少なくとも10年以上前ならあり得なかったであろう、そのライナップである。メタルコアやラウドロックを継ぐバンド、国内のアンダーグラウンドシーンを担うバンド、ヒップホップがポップミュージックの主流になって以降に登場したバンド……などを網羅し、2020年代のロック/メタルの在り処を提示してみせたのが今回のタイムテーブルだ。「ジャンルの境界線がなくなった」といえばそれまでだが、かつてロックバンドやメタルバンドが鳴らしていた孤独や憂鬱の捌け口が、別のジャンル、または必ずしもバンドではない形態へと移ったことで、バンド自体の在り方も変化し、より広範なポップミュージックと共振しようとしているのが今である。

Bring Me The Horizon(写真=©NEX_FEST All Copyrights Reserved)

 また、今回のラインナップにはまだまだバンドが多かったが、例えばインターネットカルチャーやエモラップとの親和性が高いCVLTE、ラップミュージックからポップパンクへと舵を切り、BMTHの盟友としても定着したヤングブラッド、アニソンやボカロ周辺のクリエイターも巻き込みながら世界的な存在へ昇り詰めたBABYMETAL、ラウドロックやメタルコアの正統後継者でありながらダンスミュージックやアニソンもナチュラルに消化している新世代の花冷え。、ブラックメタルに電子音を掛け合わせて非現実的な亜空間を描き出しているVMO……などが集っている全体的な傾向を見れば、『NEX_FEST』はバンドのみならず、あらゆる“メタルオリエンテッドな音楽”が集う可能性を秘めたフェスだということがよくわかるだろう。

BABYMETAL(写真=Taku Fujii)

 一方のBMTHは、コロナ禍で見た人類・社会の野蛮な本性を重厚なロックで射抜いた『Post Human: Survival Horror』(2020年)以降、より“個”に回帰した「NeX GEn」というテーマ性とエモへの共振を掲げて、次作『Post Human: NeX GEn』の制作に取り掛かっている最中だ。パンデミックが決定打となって世界が“終焉”を迎え、個々人の安寧な居場所も希薄になった今、次の人類がどう生きるかを問うーーすなわち、リアルワールドから距離を取り、あらゆるバーチャル空間に“逃げ込む”ことで発展してきた近年の“メタルオリエンテッドな音楽”と再び合流可能なモードになっているのが今のBMTHである。そうなると重要なのは、NEX_STAGEのオープニングを飾ったのがYOASOBIだったことだ。

花冷え。(写真=Mei Okabe)

 Ayaseが、BMTHをはじめとするメタルコアやハードコアがルーツだと公言している通り(※1)、ヘヴィなギターとビートの応酬でカオティックに仕上げた「祝福」、イージーコアを取り込んだ「怪物」、モッシュを巻き起こしたダメ押しの「アイドル」などを炸裂させ、『NEX_FEST』の客層に大きな爪痕を残していたのは感慨深かった(BMTHと同じステージに立てる喜びを爆発させたAyaseのMCもよかった)。だが、それ以上に素晴らしかったのは、あくまでJ-POPのフィールドで闘うYOASOBIらしく、“歌”を聴かせるパフォーマンスで勝負していたこと。「ミスター」「もしも命が描けたら」「たぶん」など、ikuraの豊かな歌唱とAyaseのメロディを堪能できたことで、むしろYOASOBIがここにラインナップされていることの意味がより際立った気がする。

YOASOBI(写真=Kato Shumpei)

 メタルコアバンドで長年活動した後、ボカロPへ転向し、YOASOBIとして大ブレイクを果たしたAyaseのキャリアは、ライブハウスにルーツを持つクリエイターが、ネットシーンで新たな活動領域を切り拓いている昨今のJ-POPシーンの縮図のようでもある。メタルやロックの遺伝子が日本ではYOASOBIのような独自のスタイルで花開いており、BMTHとも共振し得るということだ。もし次の『NEX_FEST』があればラインナップの幅はさらに多彩になっているはずだが、YOASOBIはそんな垣根を越えた広がりの“架け橋”のような存在になっている。

YOASOBI(写真=Kato Shumpei)

 モダンなメタルコアバンドとしてBMTHとも肩を並べるI Prevailは、クリーンボーカルやブレイクダウンを織り交ぜながら王道に気持ちいいメタルコアを響かせた。また、BMTH「AmEN! (Feat. Lil Uzi Vert And Daryl Palumbo Of Glassjaw)」の編曲を手掛けたDaisukeがいるPaleduskのステージには、coldrainのMasatoもサプライズ登場し、日本のラウドロックから芽吹いた種が、次なるメタルシーンでしっかり花開いていることが示された。

 ヤングブラッドのステージには、BMTHに先立ってオリヴァー・サイクスがゲスト登場し、コラボ曲「Happier (feat. Oli Sykes Of Bring Me The Horizon)」を披露。淡い期待を抱いていたものの、本当にオリヴァーが早い時間帯に出てきた時は驚いたし、これを日本で観れているというのもさらに驚きである。

ヤングブラッド(写真=©NEX_FEST All Copyrights Reserved.)

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