はっぴいえんどはなぜ特別な存在になったのか 曽我部恵一、オリジナルALから紐解く伝説的バンドの足跡 

 日本の音楽界に多大な功績を残した細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂によって1969年に結成された伝説のバンド、はっぴいえんど。彼らのオリジナルアルバム3作品がCDとアナログ盤で再発売され、話題を呼んでいる。

はっぴいえんど

 リアルサウンドでは、はっぴいえんどが残した3枚のオリジナルアルバム『はっぴいえんど』『風街ろまん』『HAPPY END』を90年代に聴き、おおいに影響を受けたという曽我部恵一にインタビュー。

 50年の時を超えて、今なお世代を超えて愛聴される名盤の魅力とは。曽我部恵一の証言と共に、「日本語ロックの礎」を築いた彼らの足取りを辿っていく(佐野郷子)。

90年代前半はまだ今のような評価はされていなかった

曽我部恵一

ーー先ずは、曽我部さんがはっぴいえんどに巡り会ったきっかけを。

曽我部恵一(以下、曽我部):僕がはっぴいえんどを初めて聴いたのは、90年代にサニーデイ・サービスを結成してからです。初期のメンバーの一人がはっぴいえんどのファンで、『風街ろまん』を借りて聴いたら、ぶっ飛んでしまった。それまでは洋楽一辺倒だったので、はっぴいえんどがどんなバンドかも知らなかったし、子供の頃に大滝詠一さんの『A LONG VACATION』をラジオで耳にしていた程度で、歌謡曲以外に邦楽を聴くルートがあまりなかったんですよ。

ーーにも関わらず、はっぴいえんどに衝撃を受けてしまった。

曽我部:そう。すぐにハマってしまって、自分のバンドのサウンドもはっぴいえんどみたいな日本語のロックにしたいと思ったんです。それまでのサニーデイは、渋谷系的なネオアコやマンチェスターサウンドを標榜するようなバンドだったんですけど、今、振り返ると頑張って東京のお洒落な人たちの真似をしていたその頃の方が無理をしていたのかもしれない。

ーー1995年のサニーデイ・サービスのデビュー・シングル『御機嫌いかが? / 街へ出ようよ』はバンド名義にも関わらず、アレンジを矢野誠さんが手がけ、ギターに鈴木茂さんが参加していますが、その経緯は?

曽我部:あのシングルはミディ・レコードの社長、大蔵(博)さんの企画だったんです。大蔵さんは70年代にベルウッド・レコード(※1)にいた方なので、僕らがはっぴいえんどや70年代の日本のロック/フォークに夢中になっていると聞いて、何か閃いたらしく、鈴木茂さんはじめ名うてのミュージシャンに参加してもらってシングルを1枚作ろうと。僕らはもちろんそういう方たちの音楽を夢中になって聴いていたけど「ウーン、そういうことじゃないんだけどな~」とも思いつつ、「アルバムは好きに作っていいから」と言われて承諾した感じでした。

左から大瀧詠一、鈴木茂、細野晴臣、松本隆

ーーその後のアルバム『若者たち』で、サニーデイ・サービスははっぴいえんどに連なるバンドとして注目を浴びることになりましたが、1995年当時、はっぴいえんどを熱心に聴く若者はそれほど多くはなかったのでは?

曽我部:そうですね。僕らが聴き始めた90年代前半はまだ今のような評価はされていなかった気がします。1985年に国立競技場でのイベント『ALL TOGETHER NOW』(※2)にはっぴいえんどが出演したときのライブ盤(『THE HAPPY END』)の記事を『宝島』で見てファッションに違和感を感じたのは覚えていますけど(笑)。80年代のバンドマンが影響を受けたアルバム紹介みたいなものの中にもはっぴいえんどはあまり入っていなかったんじゃないかな。

ーーサニーデイ・サービス、キリンジ、かせきさいだぁなど当時の若手ミュージシャンが出演した1999年の『風待ミーティング』(※3)くらいからはっぴいえんどが若い世代に再認識されるようになった記憶があります。

曽我部:そうかもしれない。あのイベントでは僕らも「春よ来い」とか演奏しました。あのあたりからカバーやトリビュートアルバムが増えていった。たぶん、僕らの世代は前の世代より素直にはっぴいえんどを受け入れることができたんですよ。フォークとかロックとか日本語か英語か、とかそんなことは関係なくね。ロックが多様化した80年代を挟んで、70年代の黎明期の日本のロックが新鮮に素朴に響いたということもある。自分たちにちょうどフィットしたというか。それに、『風街ろまん』の1曲目「抱きしめたい」を初めて聴いたとき、昔の日本にこんなに乾いた太い音のレコードがあったんだ! これ、ブレイク・ビーツじゃん! って思った(笑)。

ーー日本のレア・グルーヴとしても、はっぴいえんどは見直された?

曽我部:かせきさいだぁの加藤くんなんかはそうでしたよね。そんなこともあって新しい世代との距離が縮まり、繋がったことはとても大きかったと思います。

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