リアルサウンド連載「From Editors」第29回:『ゴジラ-1.0』前に目撃! 『HOSHI 35/ホシクズ』から考える“平成特撮の意義”
徹底したリアリティの中で“怪獣との対話”が果たす役割
ちなみにこの『HOSHI 35/ホシクズ』は、小高恵美さんの俳優デビュー35周年を記念したプロジェクトの一環で制作された映画でもあります。小高さんがゴジラシリーズに初登場した『ゴジラvsビオランテ』(1989年)は平成元年に公開され、平成特撮史の幕開けを華々しく飾りました。また2021年には『ウルトラマンティガ』(1996年)が25周年を迎え、そのリブート版とも言える『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』が放送されたり、来年には、不動の人気を誇る『仮面ライダー555』(2003年)の20周年映画『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』の公開が控えていたりと、何かと平成特撮を再評価する新作が続いています。もちろん“アニバーサリーだから”という数字的な理由もあると思いますが、平成特撮作品に一貫しているテーマ性には、今こそ向き合わねばならないものが含まれているからだとも思うのです。
バブル崩壊や阪神・淡路大震災など象徴的な出来事を挙げていくだけでも、平成初期は、培われてきた価値観の変容を迫られざるを得ない時代だったことがわかります。それを受けてオルタナティブなカルチャーが続々と生まれたように、特撮の作風も変化していきました。ヒーロー作品では、主人公を“ひとりの人間”として描くことがより一層増え、特に従来の設定を一新した平成のウルトラマンシリーズには、人間的な葛藤の描写が増えていきました。また、巨大怪獣はライフラインを麻痺させ、都市機能を低下させたり、ネットワークを混乱させるものとして、より高度な設定で描かれるようになっていきます。ゴジラでもガメラでもウルトラマンでも、現代社会に怪獣が現れた場合のシミュレーション性を高めた緻密な脚本と演出は、平成特撮の特色だと言っていいでしょう。戦後まもない頃に誕生した初代ゴジラがそもそも水爆実験の産物だったことを考えると、社会を襲う未曾有の災厄として怪獣を描き直した平成特撮は、“怪獣そのもの”を再定義する流れだったのではないでしょうか。
このように、リアリティ路線の特撮をどう描くのかという視点は、東日本大震災を経てコロナ禍を経験し、それでも安寧な日々が一向に訪れない令和の時代において、再び向き合うべきものなはずです。現に、庵野秀明監督の『シン・ウルトラマン』(2022年)や『シン・仮面ライダー』(2023年)などにおいても、平成特撮の作風は大いに受け継がれているように思います。
しかし、平成ゴジラやガメラシリーズのリアリティ重視なストーリーにおいて、とりわけファンタジックに機能しているのが、『HOSHI 35/ホシクズ』でも軸になっている「怪獣との対話」という要素です。平成ゴジラシリーズで三枝未希は、超能力やテレパシーを通してゴジラの“感情”に触れていき、次第に慈しむような眼差しでゴジラを見つめるようになっていきます。平成ガメラシリーズの草薙浅黄(藤谷文子)は、登場人物で唯一ガメラと心を通わせることのできる少女でした。怪獣と対話するというと一見突拍子のないように思えますが、それがハードな物語に感情移入しやすい“隙間”を作り出し、ヒロインの成長を促していったのです。だからこそ、ピュアなジュブナイル性が用意されたのだと思うのですが、垣根を作らず、まず相手を知ろうとする姿勢は現代を生きる上でも大いに求められるものだと言えるでしょう。“コミュニケーション”をテーマにした最新ウルトラマンシリーズ『ウルトラマンブレーザー』が人気を博していることや、敵/味方の垣根が曖昧な『仮面ライダー555』が再び評価されている一因も、そこにあるはずです。『HOSHI 35/ホシクズ』もそんな対話するマインドの大切さを、真正面から捉え直した作品だと感じました。
いわゆる低予算作品ではあるので、演出や脚本にツッコミどころはありますが、少しでも平成特撮に触れた経験のある方は、『HOSHI 35/ホシクズ』を観に行って損はない……いや、ぜひ観ていただきたい作品です!
※1:http://3yfilm.co.jp/hoshi35
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