リアルサウンド連載「From Editors」第29回:『ゴジラ-1.0』前に目撃! 『HOSHI 35/ホシクズ』から考える“平成特撮の意義”

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

 第29回は、特撮とメタルが好きな信太が担当します。

『HOSHI 35/ホシクズ』はまるで平成特撮の同窓会

 いよいよ、筆者が今年最も楽しみにしている映画『ゴジラ-1.0』の公開が11月3日に迫ってきました。しかも、11月17日にはApple TV+にて、ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(2014年)から始まった「モンスター・ヴァース」をベースにした新作ドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』の配信も開始されます。11月は初代『ゴジラ』(1954年)の公開月ということもあってか、日米でゴジラ関連の新作が大いに盛り上がる1カ月となりそうです。

【最新予告】映画『ゴジラ-1.0』《2023年11月3日劇場公開》

 さて、そんな“ゴジラ祭り”を目前に、筆者は『HOSHI 35/ホシクズ』という新作特撮映画を観に行ってきました。

 本作は「平成の時代の価値観や文化を徹底的にリスペクトし、新しい時代への架け橋になるような特撮映画を目指す」(※1)というコンセプトのもとで、『ネズラ1964』(2020年)の横川寛人さんが監督・脚本を担当。驚くべきはそのキャスト陣で、平成ゴジラシリーズでヒロイン(三枝未希)を演じた小高恵美さんを筆頭に、平成モスラシリーズでエリアス3姉妹のモルを演じた小林恵さん、『ゴジラvsデストロイア』(1995年)でヒロイン(山根ゆかり)を演じたいしのようこさん、平成ウルトラマンシリーズ常連の斉藤麻衣さん、『ゴジラvsメカゴジラ』(1993年)でメカゴジラの指揮官(佐々木拓也)を演じた原田大二郎さん、『ゴジラvsスペースゴジラ』(1994年)主演の橋爪淳さん、平成ガメラシリーズや『牙狼〈GARO〉』など平成特撮には欠かせない螢雪次朗さん……など、まるで平成特撮の同窓会のような豪華キャストが一堂に会したすごい作品なのです。螢雪次朗さんが“カミヤ”という役名になっていて、『ゼイラム』ファンとしては思わずグッときてしまいましたし、長らく俳優業を休業していた小高恵美さんや小林恵さんがこうしてまた怪獣映画に出演してくれるだけで、平成怪獣シリーズに育てられた自分には感極まるものがありました。

『HOSHI 35/ホシクズ』劇場パンフレットとポストカード

 公開されたばかりなので詳細なネタバレは避けますが、『HOSHI 35/ホシクズ』にはサスペンスやホラー的なエッセンスもあり、思いのほかシリアスな作風だったことに驚きました。しかし主軸となっているのは人と人との絆であり、平成のゴジラやガメラシリーズが打ち出していたような怪獣との対話です。前述の通り、平成へのリスペクトを追求したコンセプトでしたが、むしろ過去にしがみつくのではなく、固定概念を打破し、対話を重ねながら前へ進んでいくことを肯定する作品になっていたのは好印象でした。それを象徴するセリフを橋爪淳さん演じる“ミズノ”が言うシーンには、特に力強い意志が込められていたように感じます。

映画『HOSHI 35/ホシクズ』予告編

 また、登場怪獣 ホシクズと主人公 アキが心を通わせていく様子には、小高さんが平成ゴジラシリーズで演じてきた三枝未希の姿が重なりつつ、平成以降のウルトラマンシリーズで描かれてきたファンタジックなシーンも彷彿とさせました。例えば、幼い頃に目撃した幻獣 ユニジンを何十年も追い続け、周囲から馬鹿にされながらも、再会の夢を諦めない老人の姿を描いた『ウルトラマンマックス』第26話「クリスマスのエリー」(2005年)だったり、幼い頃に交流があったけど、村人たちの手によって引き剥がされてしまった海底原人 ラゴンと老婆の絆を描いた『ウルトラマンデッカー』第20話「らごんさま」(2022年)などは、まさに同系統なストーリーと言えるでしょう。怪獣を怪奇なものとしてだけでなく、少年少女にとっての友達として描いてみせたり、周囲の人々がそこに歩み寄って理解することの大切さを描いてきた点も、特撮の醍醐味だと言えます。

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