帝国喫茶の音楽の根底にある“生きること”や“届けること”の意味 杉浦祐輝&疋田耀に聞くソングライターとしての信念
生きづらい世の中という感覚がもはや漠然としたものではなく、確かなフラストレーションとして個々人により重くのしかかってきている昨今。自由に自分らしく生きていくという至極シンプルなことが難しくなっている現代社会では、“愛”や“人間らしさ”といったものをつい忘れてしまいそうになる。しかし、そういったささやかだけど大切なことに向き合い、パンクやガレージロックを軸にバリエーション豊かなソングライティングで鳴らしているバンドこそ、2020年に大阪で結成された4人組・帝国喫茶である。
杉浦祐輝(Vo/Gt)、疋田耀(Ba)、杉崎拓斗(Dr)という3人のソングライターを擁し、ジャケットやグッズのデザインはアクリ(Gt)が手がけている帝国喫茶。その2ndアルバム『帝国喫茶II 季節と君のレコード』が10月4日にリリースされたが、音楽性のジャンルにおいても、各曲の言葉選びにおいても、これまで以上に間口が広がっている。と同時に、“生きること”や“届けること”の意味を深く考えさせるようなメッセージもこのアルバムの核だ。帝国喫茶の音楽観、そしてメンバー4人の絶妙なバランスについて、杉浦、疋田にじっくりと話を聞いた。(編集部)
3人のソングライターが揃うことで“人間らしさ”を形作っているのが帝国喫茶
ーー楽しく聴ける要素がたくさんありつつ、人がこの世界でどのように生きていけたらいいのか、そのために自分たちは何を歌わなくちゃいけないのかを、これまで以上に突き詰めたアルバムだと思いました。お二人はどんな手応えを感じていますか?
杉浦祐輝(以下、杉浦):1stアルバム(『帝国喫茶』)で自分たちの音楽はこういう感じだなっていうのが見えてきて。言葉で共有していたわけではないけど、今言っていただいたように人間らしさとか、人間として生きる上で大事なものを表現していくのが僕たちの音楽なのかなってわかったことで、今回はより濃い密度で作っていけたアルバムだと思いますね。
疋田耀(以下、疋田):三者三様ですけど各々(のソングライター)が「こういうことをやっていきたいんだな」って確かめて、それを楽曲で追求しつつ、真ん中には「人が生きるってどういうことなんだろう」というテーマがあるので、前作以上にアルバム感がより強まった感じがします。僕としては、朝起きてから夜眠るまでのいろんな気持ちを描くことに加えて、挑戦してみたい音楽性をちゃんと盛り込めるのが帝国喫茶の表現だと思っていて。そういう姿勢をしっかり出せたので、自分たちの人となりや人間らしさも伝わったらいいなと思います。
ーー1stアルバム以上にパンクやガレージロック、UKロックなど、リファレンスがはっきりとした音に近づいた感触もありますが、それはルーツを示すことで、人となりも伝えていきたいという意識があったのでしょうか。
疋田:というよりは、どんな場所やジャンルであっても、ちゃんと帝国喫茶の世界観を表現していきたくて。「blue star carnival」とかでは自分たちらしさを出せたなって思うんですけど、バンドの可能性をそれだけに縛りすぎないように、ちょっと変わった「ghost light」みたいな曲も残しておこうって考えてました。「帝国喫茶らしい形はここだ!」 って円で囲いつつも、その円を濃く描きすぎてしまうのではなく、点線にしておくことで、それを越えたり、いろんなジャンルに派生したりしながら音楽を作る面白みを残しておきたいなと。
ーーその円からはみ出した表現として、1分40秒ほどで爆走するパンクナンバー「clashtriker」はインパクトの強い曲でした。疋田さんが自らボーカルも担当しているそうですが、どのようにできた曲でしたか?
疋田:アルバムを作っていくにあたって、もうちょっと片破りで起爆剤みたいな曲が欲しいなという話になって。ちょうどその時、自分の中から歌詞がいっぱい出てくる時期で、A4のノートにダーッと言葉を書いていったんです。そうやって1日で1冊全部使い切るくらい、大きい文字で勢いよく書いた中から「これとこれと……」ってかいつまんでいったものが「clashtriker」にはたくさん入ってます。勢いで押し切ってしまいたいというすごくパンクな気持ちで、レコーディングでもThe Clashのサウンドに寄せていったりとか。でも、勢いで押し切った後に歌詞をよく読んでみると、わりと深いことを言ってるなと思って。
ーーそうですよね。いろんなフラストレーションがありながらも、愛の在り処を探して叫んでいるような歌に聴こえましたし、それが「ラブソング」の〈ラブソングがほらあふれてる/それじゃ愛は世界にあふれてる?〉という問題提起にもつながっていると感じました。このあたりにはご自身のどんな内面性が表れていると思いますか。
疋田:僕が書く曲には〈愛〉というワードが多いんですよね。曲ごとに雰囲気が全然違うからこそ、いろんな愛情があると思ってもらえたら良いのかもしれない。けどキャラクターを演じているつもりはなくて、全部の面が自分らしさなので、いろんな球の投げ方をしながら「愛とは何ぞや」ってことを紐解いているんだなと思っています。あと、自分の気持ちやフラストレーションを音楽に乗せるにしても、いい語呂合わせにしてみたり韻を踏んでみたりすることで、音楽的な面白みがある歌詞にしようって取り組んでいて。〈しょうみ愛 show me LOVE〉(「clashtriker」)とかはまさにそうですね。「季節すら追い抜いて」みたいな勢いが強い曲では、濁音をたくさん入れていたりとか。人間の体の構造にも音楽は作用するだろうなって考えて、〈ぶち抜いて〉みたいに気持ちが口に乗ってくるような歌詞を書いてます。
ーーちゃんと“音楽”になるように、言葉選びや響き方の部分から考え抜いているということですよね。疋田さんはいろんな思考を巡らせながら曲にアウトプットしているんだなと思ったんですけど、一方で杉浦さんの曲からは、もっとストレートに「届けたい」という想いを感じていて。杉浦さんとしては、その熱量はどうして出てくるんだと思いますか?
杉浦:やっぱりお客さん全員が見える一番前で歌ってるからかもしれないですね。実際にお客さんの前で歌って、曲がどんなふうに受け取られるのか、どんな表情で聴いてもらえるのかを直接見たことで、思ってる以上に伝えること、届けることって難しいんだなと思って。それで特に今回は「余計なことは書きたくない」「大事なことだけを書きたい」と思って、1年とか1日の中でいつ聴いてもみんなに当てはまるような言葉を選んでいきたいなと考えてました。いろんなアプローチをするみたいな話を疋田が言ってましたけど、バンドを組んだ時からそれは感じていたので、じゃあ自分の役割は何やろうって考えたら、まっすぐ歌うこと、ど直球に届けるスタイルを意識していこうと思うようになったんですよね。
ーー「君が月」を聴いても、届くまで歌い続けるんだっていう決意が強いし、「みんなへ」ではたとえ自分が死んでしまっても、大切な人に届くためにはどうすればいいのかっていう想いの込め方がすごいじゃないですか。ど直球なスタイルを選んだとはいえ、そこまで届けることに身を削るような歌になっているのはどうしてなんでしょう?
杉浦:今作まで何曲も書いてきて、僕が歌うべき相手、届けたい人のイメージがずっとあるんですよね。けど、人って落ち込んだり塞ぎ込んでいたりすると、周りの声が聞こえなくなっちゃったりするじゃないですか。昔からそういう人が僕の周りに多いから、まずは自分が裸になるくらいの気持ちで歌詞を書いて歌わないと、届かないっていう想いがずっとあって。それが出ているんだと思います。自分が聴く音楽もそういうものが好きですね。どんなジャンルであってもそういう表現をしている曲が体に入ってくるし、音楽が必要になった時に聴くのも、やっぱりそういう人たちの曲だったので。
ーー今回、〈銃、ナイフ、チェンソーの代わりにこのマイクを握るから〉(「子守唄」)というボーカリストとしての決意のようなフレーズを、杉浦さんではなく杉崎さんが書いていますよね。そうやって互いを補い合いながらメッセージを書いていくところも帝国喫茶の面白さだと思いました。
杉浦:これまで(杉崎が)書いてきた歌詞と違ったのでびっくりしましたし、自分からは出てこない歌詞だと思いました。この二人(杉浦・疋田)と杉崎が書く歌詞は大きく違うっていうイメージだったんですけど、少しこちら側に寄ってきている気もしたので、一番近くで聴いてるメンバーにも何か伝わることがあったのかなって思うと嬉しかったですね。けど、ちゃんと杉崎っぽさも感じたんですよ。この曲がアルバムに入って、帝国喫茶としてのまとまりがより出てきたなって感じました。
ーーお二人から見て杉崎さんはどういうソングライターだと感じていますか。
杉浦:杉崎はわりと日常を切り取っている感じがするんですよね。みんなに当てはまることとか、大事なものだけを書きたいのが僕なんですよ。でも、もっと日常の中にも大事なものはあるし、僕が選んでいない部分を書いてくれる人だなって思います。具体的な歌詞の方が心に刺さりやすい人もいると思うので、そういう人は杉崎の曲を入り口に僕や疋田の曲も聴いてくれれば、帝国喫茶の聴き方として面白いのかなって思いました。
疋田:僕と杉浦くんは、人が生きていく上での光と闇みたいな結構重いテーマを扱いがちなんですけど、朝起きていきなり「人生とは?」って考えるような人はあまりいないじゃないですか(笑)。起きたら顔を洗って、朝食を食べて、自転車に乗って出かけたり散歩したりするっていうのも人間らしさなんですよね。そういう日常の景色から感じた気持ちをちゃんと曲に乗せてくれるのが杉崎くんなので、3人揃って“人間らしさ”を形作ってるんやなって思います。12曲を通して、悲しい気持ちや切ない気持ちになったり、ちゃんと楽しい気持ちにもなったりして、その全部が人生だし。3人で曲を書くことで、生きていくことへの解像度が上がっている感覚はありますね。