reche、カバー歌唱を通した独自の解釈 『reche cover : JUKEBOX vol.001』の制作を振り返って
EGOISTのボーカル chellyのソロプロジェクト・recheによるカバーアルバム『reche cover : JUKEBOX vol.001 × reche 1st live BD : cloud 9+1』が9月9日にリリースされた。本作は、ファンからのリクエストなどからrecheが選曲し、YouTubeやライブなどで披露してきた楽曲を集めた作品。ボカロ系からロック、J-POPまで幅広い楽曲のカバーが収録された。今回リアルサウンドでは、各曲の制作過程についてインタビュー。それらを通して得た歌への新たな解釈について聞いた。(編集部)
原曲のイメージを損なわないように“ストレートにカバーする”
――reche(リシェ)としてソロ活動をスタートし、今年で3年目を迎えました。手応えはいかがですか?
reche:一歩一歩、着実に進んで行けているんじゃないかな、と個人的には感じていて。これからも歩みを止めずに頑張って行けたらと思っています。
――満足いく形で活動ができていると。
reche:そうですね。その時々のできる限りの活動をさせていただいてると思います。
――そんなrecheさんは、今回カバーアルバム『reche cover : JUKEBOX vol.001』をリリースされます。そもそもカバー曲を出そうと思ったきっかけは?
reche:私のポートフォリオというか「こういう曲も歌っちゃいますよ」と音楽の幅を示すために、ファンの皆さんからリクエストを募って一曲一曲カバーをして「将来的にはアルバムにできたらいいよね」という感じで、1年前からYouTubeに音源を上げていました。そうして曲数を重ねていって、ようやく今作をリリースするに至りました。
――YouTubeのコメント欄で、リスナーの皆さんの反応がとても良くて。
reche:ふふ、嬉しいです。最初は受け入れてもらえるかなって、不安があったんですけど、皆さんとても喜んでくださって。「そんなそんな、ありがとうございます」と恐縮する気持ちですね。
――リクエストはどれぐらいあったんですか?
reche:今は置いていないかもしれないですけど、カラオケに歌本ってありましたよね?
――タウンページくらいある、分厚い本ですよね。
reche:それぐらい結構な数をいただきまして。その中から一曲一曲チェックして決めていきました。皆さんはリクエストする曲名だけじゃなくて、選曲理由も書いて送ってくださったので、それにも目を通して。すべてをチェックするのは結構大変だったんですけど、楽しかったです。
――カバーされた楽曲はボカロ系からロック、J-POPまで幅広いですが、どういう基準でチョイスされたんですか?
reche:その時々の私の気分も含め、「recheってこういう曲も歌うんだ」という意外性を入れたり、一方で皆さんがカバーを望んでいるだろうなって思う曲も入れたり、なるべく曲の雰囲気が偏らないように選曲していきましたね。
――意外性と言えば、今回アルバムのために新たに収録したスピッツの「みなと」、Official髭男dismの「Pretender」、凛として時雨の「abnormalize」も「お、こう来たんだ!」感がありました。
reche:ふふ、そうですね。私も歌っていてすごく新鮮でしたし、カバーのアレンジというか、自分なりの原曲に対する解釈も入れて歌うのが初めてだったので、そういう意味でもアルバムを通して新鮮さが出ているのかなって思います。
――アルバムを聴かせてただいて、recheさんの歌いやすいジャンルがどれなのか分からないぐらい、どれも原曲が持っている本来の雰囲気にも馴染んでいたし、新しいエッセンスも加わっていました。今回カバーされた楽曲の中で、ルーツに近い曲はどれですか?
reche:本当に好き嫌いなく何でも聴くタイプで、特定のジャンルは決めてないんですけど、カラオケの十八番と言えば、諫山実生さんの「月のワルツ」ですね。ああいう変拍子でちょっと変わった曲は、個人的な好みではあります。何より、ずっと好きなので歌い込み具合が他と違うという(笑)。
――「月のワルツ」で見せた浮遊感のある、ちょっと霧のかかったような歌声がサウンドとマッチしていましたね。声色もそうですし、繊細な息遣いも含めて原曲を忠実に再現している印象を受けました。
reche:「月のワルツ」を始め、どの曲も全体的に過度なアレンジはしないようにしていて。原曲のイメージを損なわないように“ストレートにカバーする”というのが一貫したテーマだったので、それが大きいのかなって思います。
――ちなみに、これまで歌ってこなかったタイプの楽曲ってあります?
reche:どれもチャレンジングではあったんですけど、wotakuさんの「マフィア」は歌唱云々というより、自分の中で新しいジャンルの楽曲ではありました。あと「abnormalize」も私があまり歌ってこなかった楽曲で、原曲の雰囲気を大事にするために苦労したカバーでもあります。
――アルバムの構成的に「abnormalize」から、急に景色が変わった感がありますよね。
reche:そうですね。アルバムというパッケージにする上で、楽曲の流れはとても意識していて。まさに、ここでガラッと変わってもらえたらと思って、6曲目に配置したのでそれが伝わってすごく嬉しいです。
――「楽曲の雰囲気が被らないように選曲した」と言っていましたけど、アルバム前半は「月のワルツ」、「幽霊東京」(Ayase)、「みなと」というミドルテンポの曲で固めて、中盤は「ビターチョコデコレーション」(syudou)「マフィア」でギアを上げていき、後半「abnormalize」、「KING」(Kanaria)で爆発力を見せつけるなど、丁寧にセクションを区切っているように感じました。あと「大丈夫」(RADWIMPS)でアルバムを締めるのは余韻があっていいですよね。
reche:ありがとうございます。一枚通して「あぁ、聴き終わった」と読後感を味わえるように聴いてもらえたら、というのがあったので、起承転結みたいなことはかなり考えていましたね。
――楽曲についてより聞いていくと、「マフィア」は原曲だとボーカルにオートチューンっぽいのがかかっている印象があったんですけど、recheさんのカバーではご自身の声を加工せず、そのまま出しているような印象がありました。
reche:基本的には歌い方もアレンジも原曲通りを意識しているんですけど、私の声に対してはそのまんまというか「この声が持ち味だから」というのをプロデューサーさんに提案してもらって、まあその通りだなと(笑)。こういう解釈の「マフィア」もアリかなというのは、大きなこだわりポイントでしたね。
――カバーでありながら「この楽曲はこんな表情もあったんだ」と強く感じたのは、カンザキイオリさんの「命に嫌われている。」。これはrecheさんの新解釈を感じました。
reche:そうですね! たくさんカバーされている名曲だと思うんですけども、動画サイトを見ていると、いろんな方が各々の解釈で歌っているので、私もそれに習って自分なりの解釈で「命に嫌われている。」を歌わせてもらいました。叫ぶよりはポツポツと気持ちを吐露するような歌い方。それが私が歌詞を読んだ時に感じた、独自の解釈でしたね。
――そのポツポツと歌うことで、言葉の怖さとか冷たさが際立って聴こえたんですよね。エモーショナルじゃなくて、むしろこの歌い方だからこそ。
reche:溜め込んで溜め込んで爆発して、という感じでいきたくて。爆発の仕方も色々あるだろうなと思って、こういったアプローチに行き着きました。
――ちなみに、今回歌われた中で特に思い出深い曲は?
reche:どの曲も思い出深いですけど、Ayase feat. 初音ミクの「幽霊東京」やRADWIMPSの「大丈夫」はライブでも歌わせていただいて。人前で歌うことによって、自分の中で曲の解釈が変わっていったんですよね。同じ曲でもシチュエーション次第でいろんな景色を見せてくれるんだな、と勉強になりました。