米津玄師「地球儀」の歌詞の意味は? 宮﨑駿から受け取ったものと『君たちはどう生きるか』との共鳴
また「地球儀」に欠かせないのは“喪失”への眼差しだ。2番にある〈僕が愛したあの人は 誰も知らないところへ行った/あの日のままの優しい顔で 今もどこか遠く〉はもう会えない親愛なる人物に宛てた言葉だと読める。
『君たちはどう生きるか』は主人公・眞人の亡き母親への思慕を推進力にして物語が進む。不在であるからこそ際立つ存在。これは米津がこれまでの楽曲にも描いてきた感覚である。例えば代表曲「Lemon」は亡き祖父に対して募る感情を投影した1曲だ。「地球儀」では宮﨑駿と米津玄師の間で愛しい対象を喪失することの痛み、そしてその痛みこそが今を生きる自分を突き動かす源であるという確信が共有されていると言えるだろう。
その確信は最終盤にある〈扉を今開け放つ 秘密を暴くように/手が触れ合う喜びも 手放した悲しみも/飽き足らず描いていく〉という歌詞へ結ばれていく。豊かな出会いと悲痛な別れを繰り返しながら、その全てを糧に想像と創造を続け、この世界と繋がろうとしてきた宮﨑駿、米津玄師の意思が共鳴して生まれた奇跡的なセンテンスと言えるだろう。
締めくくりにある〈地球儀を回すように〉とは心の中に広がる想像をじっと見つめながら次は何を創造しようかを考える仕草そのものと言える。回す手を止めなければ地球儀はぐるぐると回転し続けるように、その想像の循環は永遠に終わらない。果てしない創造の可能性に思いを馳せた「地球儀」というタイトルの重みが伝わってくる。
「地球儀」は言うなれば、宮﨑駿から「君たちはどう生きるか」と問われた米津玄師からの「私はこう生きます」という意思表示としての返歌だ。清廉なピアノを基調としたシンプルな楽曲だからこそ、純粋な独白として誠実に響く。稀代の表現者2人による映画と歌の往復書簡を同時代に享受することができる幸せを強く噛み締めたいと思う。
※1:https://natalie.mu/music/news/531211
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