キタニタツヤ、『呪術廻戦』OPテーマ「青のすみか」で救う青春時代の記憶 “届ける”ために芽生えた変化も明かす
キタニタツヤがニューシングル『青のすみか』を7月19日にリリースした。
表題曲は現在放送中のテレビアニメ『呪術廻戦』の第2期「懐玉・玉折」(TBS系)オープニングテーマで、キタニらしさとアニメの世界観とが見事な融合を果たした1曲。疾走感のある激しいギターロックチューンだが、その中に耳を澄ませば様々な音が鳴るテクニカルな一面も併せ持っている。
もともと原作漫画のファンで「好きな言葉や雰囲気の質感が似てる」と本人が話す通り、『呪術廻戦』には自身の楽曲との共通点も多いというキタニ。まさに相性抜群の両者が邂逅したこの「青のすみか」という曲が、どのように生まれたのか。制作の流れをはじめ、同じく『呪術廻戦』のオープニングテーマで大ヒットを記録したEveに対するシンパシー、そして楽曲に込めた思いなどについて語ってもらった。(荻原梓)
『呪術廻戦』「懐玉・玉折」は一番好きだった
ーー「青のすみか」はどのように方向性を決めていったのでしょうか?
キタニタツヤ(以下、キタニ):まずアニメ制作側からは「青春時代をテーマにして、パッと聴いた印象では爽やかな印象になってほしい」という話がありました。でも『呪術廻戦』は全体的にはダークファンタジーだし、重たいテーマを扱っているので、そのバランスが難しくて。歌詞のテーマ的にはどうしようもない別れが中心にあります。それも青春時代だからこそどうにもならなかったこと。もし大人だったらそうならなかったかもしれない、けれども子供の力ではどうしようもない、みたいな青春時代特有の別れがこの作品の中では描かれているから、自分もそこに寄せて、昔の自分を思い出せるような曲にしたかった。今思えば美しい思い出だと捉えられる青春時代のことも、その当時はものすごく大きな悩みであり絶望なんですよね。でも、そういうものって大人になってから思い返すと、ぼやっと青くて美しかったりする。それは言い方を変えれば、そういう辛い時期もいずれは自分の支えになるから、必要な時間だし大丈夫だぜっていうメッセージでもあるんです。そういうことをコンセプトにして歌にしていこうというのは、最初に決めて制作を始めました。
ーー『呪術廻戦』という作品についてはどんな印象を持ってましたか?
キタニ:ダークファンタジーなんですけど、実は普遍的なことを扱っていますよね。人間関係のうまくいかないことの中で、時々出てくる名言にハッとさせられる瞬間があったりして。全体としてはバトル漫画に見えるけど、実際は人間関係の教科書みたいになってるのが僕は好きで。だからこそ、自分のところにオファーが来たら、それに向けて自分は音楽を作りやすいタイプだと思ってたし、シンパシーを感じられる領域が広くある作品だから、いつか仕事ができたらなあとは思ってました。特に「懐玉・玉折」は一番好きなので、ここだったらもう「バッチ来いや!」って感じでしたね。
ーー偶然だとは思いますが、「PINK」の歌詞の中に〈百鬼夜行〉という言葉が出てきますよね。『呪術廻戦』にも登場する言葉なので、今回の話を聞いた時に少し驚いたんです。
キタニ:全然偶然ですけど、好きな言葉とか雰囲気の質感が似ているんでしょうね。関係ない時からそれこそ“呪い”っていうキーワードをよく使ってたし、他にも探せば色々出てくるかもしれないです。僕は意図してないですけど、自分のファンで『呪術廻戦』も好きな人が「この曲めっちゃ呪術っぽいよね」って言ってる人がたくさんいて、もともと共通点が多い作品なんだろうなと個人的には思ってます。
「ちゃんと伝わるように考えることからは一生逃げられない」
ーーデモはすぐにできましたか?
キタニ:「青のすみか」の最初のタネみたいなものはすぐにできたんですけど、その後が大変でした。実はこの曲の最初のアレンジは全然違っていて、BPMが遅くて、切ない要素がもっと多くて、クラブミュージックっぽいビートにちょっとギターがあるような感じでした。でも『呪術廻戦』はダークでシリアスなので、そこに寄せたバージョンも作ってみようとしてできたのがBPMの速い疾走感のあるギターロック寄りのもの。その2つを監督に聴いてもらったら「この真ん中ぐらい。ここの部分はこっちで、ここの部分はこっちだと理想なんです」って言っていただけて「言いたいことは分かるけど、超大変!」みたいな(笑)。結局メロと歌詞が同じなだけで、別の曲みたいなものだから。
ーー2つの案を合体させるって、他人からしたら簡単に見えますが、作り手からしたら大変なことですからね。
キタニ:でもそうやって簡単そうに言ってくれた方がフレッシュな案が出るから、言う側は簡単そうに言ってくれて全然良いんです。そうすれば良くなるというのは確かに分かってたので。
ーーということはブラッシュアップの過程にかなり時間をかけたと。
キタニ:そうですね。弾き語りみたいな状態だったら早い段階で完成してたんですけど、そこから先、音が増えていく段階で、この歌詞とメロディは良いけど、どうやったらそれがちゃんと伝わるかっていうところで苦戦しましたね。
ーー以前取材させていただいた『BIPOLAR』の時も「伝え方を工夫するだけでこんなに幅広い人に受け取ってもらえるんだ」という気づきがあったという話がありました(※1)。そこは今作でも意識して取り組んだということですね。
キタニ:ちゃんと伝わるように考えることからは一生逃げられないと思うんです。そこに対する覚悟は、最近やっとでき始めた感じですかね。で、そのためには、自分一人の頭で考えるよりは色んな人の話を聞いた方がどうやら得だぞっていうのは、また大人になって発見できたことでもあって。だから身近なスタッフもそうですし、今回だったらアニメ側のスタッフや監督さんがいらっしゃって、色んな人の話を聞ける。それを全部一旦聞いた上で、「それはやらん」「確かに」っていうのを重ねていって良い曲に少しずつ近づいていく。その過程を今回は色々踏めて、自分としては成長できたと思います。
ーー人の意見を取り入れようと。
キタニ:やっぱり自分一人でできることには限度があるなってひしひしと感じましたし、曲を多くの人に届けたいなら、これは有効な手段だと思うんです。実際に作業するのはほとんど僕なんですけど、担当編集さんがいっぱいいるみたいな感じですよね。あとは自分より歳がいくつも離れた若い女の子に曲を聴かせてアドバイスをもらうのも良いと思うし、自分にもし兄弟とかお姉ちゃんとかがいたら一番良いんですけどね。そういうところに客観性が欲しいなと感じてます。