原 由子、初の映像作品に収められたピュアな魅力 ベスト・オブ・ベストな選曲に現れたシンガーソングライターとしての資質

 約31年ぶりの新作。そんな触れ込みで昨年10月に発表された原 由子の4作目のオリジナルアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』。サザンオールスターズの華々しい活動の合間を縫うようにして時折発表される彼女の作品にはいつもハッとさせられるが、このアルバムもバラエティに富んだ楽曲が揃う力作だった。31年前の前作『MOTHER』は2枚組20曲というボリュームの圧倒的な大作だったが、今作はそのエッセンスを凝縮したかのような密度の濃い内容であることは誰もが認めるところだろう。

『スペシャルライブ 2023「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」at 鎌倉芸術館』完全生産限定盤

 さて、そんなアルバムが発表されたとなれば、やはりライブもとなるのは当然。しかし、原はこの40数年の間にオリジナルアルバムを4作しか発表していないし、ソロコンサートも数本のみ。サザンオールスターズや桑田佳祐のソロに比べると圧倒的にレアなのだ。だから、『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』を携えて行われた鎌倉芸術館での2日間のライブも非常に貴重である。今回その模様が『スペシャルライブ2023 「婦人の肖像 (Portrait of a Lady)」 at 鎌倉芸術館』としてBlu-rayでリリースされたことは、ファンにとってまさに待望と言ってもいいだろう。実のところ、このライブは当初、映像作品にする予定はなかったが、限られた定員人数だったということもあって多くのファンのために急遽作品として残すことになったようだ。そして、本作は原 由子にとって初の映像作品でもある。

 ライブ映像は、オープニングの日本古謡「さくらさくら」から始まる。琴の音と桜吹雪の映像に導かれるようにメンバーが登場するところから観客の期待が高まっているのが伝わるだろう。サポートメンバーは、11人という大所帯だ。ギターの斎藤誠と小倉博和、ベースの角田俊介、ドラムスの河村“カースケ”智康、キーボードの曽我淳一、サックスとフルートの山本拓夫、トランペットの西村浩二、バイオリンの金原千恵子、チェロの笠原あやの、コーラスの村石有香(YUKA)という布陣。ほとんどがアルバム『婦人の肖像 (Portrait of a Lady)』にも参加しているミュージシャンであることからも、限りなく新作を再現できるメンバーを集めたということだろう。

 新作中心とはいいながらも、実際には新旧の代表曲もしっかりと押さえたセットリストになっているのは、ファンにとっても嬉しいはずだ。冒頭がサザンオールスターズの名曲「鎌倉物語」から始まるのも、鎌倉で行われているのだという特別感があるのと同時に、13年ぶりの単独ライブならではのサービス精神を感じることができる。セットリストの半数は新作以外の過去の楽曲であり、まさにベスト・オブ・ベストといってもいい選曲で構成されているのだ。

 ライブのパフォーマンス自体は、非常にシンプルなのも彼女らしい。桑田佳祐が所狭しとステージをはみ出さんばかりに走り回るサザンオールスターズのライブと比べると、基本的にキーボードの前に座って淡々と歌う彼女のスタイルは対照的。ライブならではの躍動感というよりは、楽曲の良さをしっかりと伝えるライブになっているのだ。「少女時代」、「花咲く旅路」、「恋は、ご多忙申し上げます」、「あじさいのうた」といった彼女の代表曲ともいえる過去作品は、あらためて名曲っぷりをアピールしていると同時に、メロディメイカーでありシンガーソングライターとしての資質が現れていると言えるだろう。

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