クラスの端っこにいた文学少女がミュージシャンに 浦小雪(Sundae May Club)が生み出す、誰かの日常に寄り添う音楽
Sundae May Clubのボーカル&ギターとして、シングルとEPで4作、アルバム1作。ソロアーティストとして「夏の速度」と「ステラ」の2曲。以上を、ストリーミングで発表している浦小雪が、6月7日に「潮風」をデジタルリリースした。
「別れ」や「終わり」を微積分していくような、情緒的な場面を情緒に流されないように描く歌詞。極私的で日常的なテーマを普遍的なものに昇華していくような、スケールの大きなメロディ。淡々としつつも常にどこか凛とした表情を称えている声。
ちょっと、いや、かなり注目しておいた方がいいニューカマーの登場だと思う、これは。自分は半年前(2023年11月)に、音楽業界の知人に声をかけられて、初めてライブを観た。ただ、最初は「Sundae May Clubというバンドが」と誘われたのに、途中で「バンドのライブがすぐにはなくて。ソロならあるんですけど」ということになって、「え、ソロ?」と思いつつ、観た。いずれにせよ観て「これは!」ということになったのだが、そんなダブルバインドな活動の仕方まで含めて、これまでと現在の彼女について聞いたのが、以下のテキストである。
なお、Sundae May Clubで地元・長崎の新聞の取材を受けたことはあるが、今回のようにみっちり話すインタビューは、初とのこと。(兵庫慎司)
教室の隅っこでおとなしく本を読んでいた学生時代
ーー音楽との最初の出会いは?
浦小雪(以下、浦):最初に音楽を好きになったのは、5歳頃です。その頃、親のクルマで、The Beatles、ビリー·ジョエル、Carpentersとか、エンヤが流れていて、アルバムの歌詞カードを見ながら聴くのが好きでした。小学校4年生の頃、初めて親の影響を受けずに聴いたのがアヴリル·ラヴィーンでした。あと、祖母がピアノの先生だったので、同時期に嫌々習い始めたんですけど、そこで和音の基礎や楽譜について学ぶことができました。それから「曲を作ってみよう」と思うようになって、メロディや歌詞を書くようになったんです。ギターで歌うようになったのは、中学3年生ぐらいからです。
ーー作った曲は貯めていくだけ?
浦:そうです。歌詞を紙に書いて、そこにメロディをつけて録音をしていました。高校に上がる頃には短い曲も含めて30曲くらいは作っていたんですけど、誰かに聴かせるつもりはなく、自己満足みたいなものでした。
ーーその頃に作った曲で、のちに発表したものはありますか?
浦:今のところは、ソロで最初に出した「夏の速度」だけです。
ーー初めて人に聴かせたのは?
浦:高校生になってから「nana」という音楽コラボアプリに曲の投稿を始めて。そこで反応をがもらえたらうれしいな、みたいな感じで続けていきました。1分半しか投稿できないアプリなので、日記みたいに即興で作って、録音してみたいな感じで続けていました。
ーーその時はそれで満足していた?
浦:そうですね。大々的に「私は音楽をやっていますよ」というのが恥ずかしくて。高校であまり友達がいなく、クラスの端っこにいるようなタイプでした。周りの人にばれたくない、みたいな感じで細々とやっていましたね。
ーーでは中学、高校の頃は、 部活とか表向きには何をしている人だったんですか?
浦:中学の頃の部活は美術部で絵を描いていたのと、図書委員をやっていて、教室の隅っこでおとなしく本を読んでいるタイプの学生でした。その頃は色々と悩みごともあって1人で過ごす時間が多かったこともあって、余計に本にのめり込むようになったんですが、その時に本の世界に入っていく楽しさを知りました。
ーー本に惹かれた理由は?
浦:本が好きになったきっかけは、小学校高学年の頃に、ミヒャエル·エンデの「モモ」を読んでいたら、先生に「僕もその本が好きだよ」と言ってもらえたんです。同じ本を好きな人がいるのがうれしいな、色んな本を読んだら色んな人と繋がれるのかな、みたいなことをその時に思ったんです。それから小説を読むようになって、登場人物の人生や考え方を疑似体験できるというか、自分ではない誰かになれるのが楽しくなりました。私はたぶん共感性が強くて、感情移入をしやすいタイプなので、すごく没頭して読み進めていくんです。現実にいる人とのコミュニケーションは苦手で、小説の中の人物との方が分かり合えるみたいな感覚もありました。コミュニケーションにおける瞬発力がないんですよね……小説はじっくり時間をかけて登場人物の気持ちを想像して補完できるので。あと、読み返したタイミングや、自分の状況によっても、同じ作品なのに全然違う捉え方ができるのも面白いです。
ーーそれ以降は、たとえばどんな本を読んできました?
浦:女性作家さんの本が多いです。吉本ばななさんとか、西加奈子さん、綿矢りささんとか、女性のやわらかい文体の小説が好きで……あと、女性ではないですけど、森見登美彦さんも好きです。
ーーああ、でもわかります。
浦:なんか古めかしくて、ファンタジーな感じが好きで。あとは、中学2年生の時に、ニーチェの格言集を読んで、またちょっと心が暗くなって(笑)。思春期だったので。
ーー中学・高校ではどんな音楽を聴いていましたか?
浦:中学生の頃にa flood of circleにハマりました。長崎の天気予報で曲が使われていて、「あ、かっこいい」と思って。そこからライブにも行くようになりました。高校からはBUMP OF CHICKENとか、大森靖子さんとか、SAKANAMONとか。あとドレスコーズ、女王蜂とか、米津玄師さんの曲も聴いていました。
ーーそれは誰とも共有せず?
浦:はい。一度共有しようとしたことがあったんですけど、周りの人が「ぽかん」とした感じになってしまって。それからは自分の中だけで好きでいればいいやとなりました(笑)。今考えると、趣味用のSNSアカウントを作ればよかったのかも知れないですね。高校でもひとりでずっと曲を作って投稿していたんですけど、そこでいいねと言ってくれる人に支えられていたというか。そのおかげで自信を持てたし、今に繋がっている気がします。あ、でも、ギターが弾けるというのは、高校の何人かには言っていたので「文化祭でコピーバンドをしようよ」と誘われて、リードギターでバンドをやりました。歌いたい子の伴奏を頼まれて弾いたりしました。