Saucy Dog、大躍進の先へ歩みを進める強い意志 エモーショナルな演奏が感動を呼んだ『in your life』ファイナル

 1月13日、石原慎也(Vo/Gt)の地元である島根・松江からスタートしたSaucy Dogの全国ホールツアー『Saucy Dog HALL TOUR 2023 “in your life”』。せとゆいか(Dr)の体調の問題で途中で、一部公演の開催延期という不測の事態に直面したものの、約1カ月半のツアー休止を経て、せとも無事復活。5月1日・2日の2daysにわたり、東京ガーデンシアターでライブが開催された。

 筆者はこのツアー、島根県民会館での初日も観ることができたのだが、地元凱旋の祝福ムードに彩られながらも、ステージに立つ3人の表情には気合というか緊張感のようなものがみなぎっていたのを覚えている。もちろんツアー初日だからというのもあるだろうが、大躍進となった2022年を経て2023年に突入していくなかで、Saucy Dogはバンドとして次のフェーズに突入していこうとしているのだと思った。

 そうして強い意思をもって全国を巡って辿り着いたファイナル。彼らが見せたのは新たに出会ったファンや進化したステージ演出、すべてを味方につけ、自分たちの力にして前に進み続ける、バンドとしてのたくましい姿勢だった。

石原慎也

 「スタンド・バイ・ミー」から始まったライブ。「煙」「シーグラス」、そして「雀ノ欠伸」と彼らのライブに欠かせない楽曲たちを重ねていく序盤から、力強いアンサンブルがホール全体に響き渡る。3ピースのソリッドな音像と、その音が引き立たせるメロディの素晴らしさ。シンプルだからこそ、ライブハウスだろうとフェスだろうとホールだろうと、Saucy Dogの歌はしっかりと受け取るオーディエンスに届く。今回は後に書く通りスペシャルな編成でのパフォーマンスもあったし、ワンマンライブで恒例となっているアコースティックコーナーもあったが、どんな形になっても「歌」が真ん中にあることは揺るがない。それが音響の整ったホールの場ではますます輝く。会場の隅々にまで届けとばかりに声を張り上げながら、石原は最初から最後まで懸命のパフォーマンスを繰り広げた。

秋澤和貴

 実はこの日、石原はベストコンディションというわけではなかった。きっと観客も気づいていただろうし、石原が最後のMCでそれを正直に吐露して悔しさを露わにする一幕もあった。だが、そういう状態であるからこそ、我々はいつも以上にエモーショナルなSaucy Dogを観ることができた。Saucy Dogの名前を世の中に知らしめるきっかけとなった「シンデレラボーイ」も、石原自身の思いが色濃く投影された「東京」も、いつもとは違う温度と色を帯びていたはずだ。これは彼に限った話ではないが、コンディション云々とは関係なく、素晴らしいライブは素晴らしい。ステージでバンドが見せる懸命さも含めて、感動的なツアーファイナルとなっていたことはここではっきりと記しておきたい。

せとゆいか

 せとがボーカルを取るアコースティックの「ころもがえ」と「いつもの帰り道」を柔らかく届けると、石原が歌う「film〈Acoustic〉」を挟んで突入したライブ後半になって、その色合いはますます濃く、熱いものになっていった。「シンデレラボーイ」をはじめ現時点での代表曲といえる楽曲をセットリストの前半に固めたのもきっと、「その先に行く」という3人の強い思いがあったからだろう。実際、スケールの大きなサウンドがどっしりと鳴り渡った「今更だって僕は言うかな」から始まっていった後半、曲を追うごとにパフォーマンスのテンションは高まり、それに伴って客席のボルテージも上がっていった。それを後押ししたのが照明効果だ。前半にステージ後方を覆っていたバックドロップが取り払われ、巨大なライトシステムが姿を現すと、一気にステージや客席を照らし出す光が増し、ライブをますますドラマティックなものにしていく。「俺たちバンドマンの歌」と紹介された「メトロノウム」で一面の手拍子を巻き起こし、「雷に打たれて」のイントロで秋澤和貴(Ba)がベースソロを弾き始めると、レーザーで映し出された稲妻が会場中を走る。どちらかといえばシンプルな照明で展開していた前半とのコントラストが鮮やかで、観ているこちらも一気に惹き込まれていくような感覚になった。

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