SARUKANI、“各曲が武器”のEP&ツアーを経ていざ世界大会へ 日本開催に向けたシーンの盛り上がりへの期待も語る

 ヒューマンビートボックスが面白い。シーンの醸成に従って世界各地から腕利きのプレイヤーたちが登場し群雄割拠、また今年10月には東京で世界大会『Grand Beatbox Battle(GBB)』が開催予定ということで、さらなる熱視線が注がれるのは間違いない。開催国の日本からは前大会でクルー部門世界2位を獲得したSARUKANIが、2年連続で同部門の予選1位を通過。今回どこまで勝ち上がれるかも見どころだ。

【Trailer】SARUKANI New EP - THE WEAPON OF BEATBOX

 そんな彼らが先日、新EP『THE WEAPON OF BEATBOX』をリリースした。ビートボックスの音だけで構築された本作は、新たな音楽的フロンティアへの挑戦に満ちている。この興味深い新作についてを『GBB』やシーンへの想いとともに、メンバーのSO-SOとRUSY、KAJI、Koheyに聞いた。(小池直也)

ビートボックスでの曲作りは新しい音を1から作る作業

――まず『THE WEAPON OF BEATBOX』の曲作りについて興味があります。ビートボックスでの曲作りとなると、コード進行などの概念では考えない?

Kohey:基本はそうですね。コード進行は曲によりですが、レコーディングは集まってやります。

RUSY:みんなで意見を出し合いますね。

KAJI:アイデア先行が多いかもしれません。例えば僕が作った「BEATBOX JANKEN」に関しては「じゃんけんって面白くね?」という発想とパッションで作りました。みんなが聴いてアガるようなメロディとゲーム性を意識していますね。

――歌でもあり楽器でもあるビートボックスですが、ミックスで気を付ける点はありますか。

SO-SO:楽器やシンセで構築された曲に負けないように意識しています。どうしても編集してエフェクトなどで処理しないと音として見劣りしてしまう部分があって。ビートボックスで世の中のすごい楽曲にどこまで迫れるか、いまだにミックス・マスタリングについては研究中ですね。

KAJI:そのコンセプトでビートボックスをミックスする人はSARUKANIを結成した当時いませんでした。僕も最初は「Ableton Liveというソフトがあるんですね」とか「オーディオ・インターフェイスって何ですか?」という感じでしたし(笑)。

SO-SO:そういう状態で作った楽曲が一番初めにSARUKANIでリリースした「SARUKANI WARS」です。今では全員がDAWを触れるようになりました。

Kohey:巷のドラム音源は、マイクを何本も使って録音した音を丁寧にエディットしてあの音になっています。それに対して、マイク1本のビートボックスは新しい音を1から作る作業ですからね。

SO-SO:既存の音源やサンプルを使う制作はスーパーマーケットで食材を買って料理するイメージですが、僕らは全部自家栽培みたいな(笑)。それでどうしたら3つ星レストランの味に近づけるかと試行錯誤しています。

「各曲が武器」のEP解説

SARUKANI - HUMANBORG (Official Lyric Video)

――では新作について改めて教えてください。

Kohey:「HUMANBORG」と「BEATBOX JANKEN」は僕たちにとっては珍しい歌ものになっていて、新鮮な気持ちでリリースできたEPですね。

SO-SO:EPのタイトルは「各曲が武器」という解釈。僕がプロデュースした1曲目のタイトル曲「The Weapon of Beatbox」は「武器を紹介する」形の導入なので、前作『What's Your Favorite Number?』の1曲目「GAME START!」と似た始まり方になっています。音に関してはリード曲「HUMANBORG」の音素材を使って、さらにBPMを半分の95に設定したリミックス的な内容です。武器の製造中のようなイメージにしました。シンプルな8ビートが壊れてノイズまじりになるアイデアもそこから着想しました。

――SO-SOさんのプロデュースはその「The Weapon of Beatbox」と最後の「WE SAIKYO STRONG」の2曲ですね。

KAJI:「WE SAIKYO STRONG」に関してはSO-SOさんとKoheyが2年くらい前に作った曲です。

SO-SO:クオリティは一番高い(笑)。前身の2ndシングル「WE SAIKYO」を作ってから、さらに最強にできそうだとKoheyとほぼ5日徹夜で作りました。

Kohey:気がおかしくなってましたね(笑)。寝てもないのに朝を迎えて、夜ご飯として朝飯を食べたりして楽しかったです。

SO-SO:トラック数は最終的にオーケストラより多い180になりました。構成も考え抜いて、映画『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の予告編に負けないようなサイバー感を表現したつもりです。

Kohey:そもそも映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を観てインスピレーションを受けた曲でもあります。

――KAJIさんがプロデュースした「BEATBOX JANKEN」はいかがですか。

KAJI:初めてプロデュースした曲です。これまではSO-SOさんとKoheyが主導して作ってくれていたので、慣れないところもありました。構想から完成まで大体4カ月くらいかかったと思いますが、4人で考えるプロセスをひとりでイメージしていました。

――今作は、SO-SOさん以外の皆さんによるソロのビートボックス楽曲が収録されているのも特徴ですね。

RUSY:初めての試みでしたね。「Bounce Like」はバトルに出るストレスとは裏腹に気楽に自分のできることを詰め込んだ1曲になっています。1トラックです。

KAJI:俺とRUSYの生ビートボックスがリリースされるのは初めてだよね。

Kohey:もちろんエディットはしていますが、どれも基本的に1トラックで仕上げています。僕とSO-SOさんは曲の編集や音をよくするプロデュース的な立場も任せてもらっています。今回はソロ音源は全て僕がミックスとマスタリングを担当しました。

――それぞれのソロ曲について教えてください。

RUSY:僕の「Bounce Like」は『BEATCITY JAPAN』のワイルドカードで披露した曲です。ソロバトルに凱旋するきっかけとなった曲ですし、5年ぶりに作った割に反響がよかったので収録しました。制作期間としては1時間くらいですね。アルバムに関してはプロデュースよりもレコーディングで求められている音を提供するという点で貢献できたかなと思っています。

KAJI:僕の「SCORPION」もピッチ補正などで3トラックまで増えましたが、基本的に1トラックで作りました。これも去年の『Online World Beatbox Championship 2022』ワイルドカードで出した曲で、僕がYouTubeでやっているラジオ番組『KAJIのオタクラジオ』の企画で視聴者の皆さんと作った実験的なビートなんです。タイトルもアイデアをもらって決まりました。僕だけだったら作りえなかったと思います。忖度なしに面白いと感じるものを詰めて作りましたが、個人的な曲では人気が高いです。自分を少し変えてくれた思い入れのあるネタですね。

――Koheyさんの「Stuck」はお洒落感のある内容でした。

Kohey:もともと僕のビートボックスは相手をスキルで殴り続けるようなバトラースタイル。でも今回は1本のビートボックス音源として残すこともあり、新しいスタイルに挑戦しました。例えば「いきなりビルドアップして盛り上げてドロップ」というステップを繰り返すバトルの方法論ではなく、音楽的な起承転結を意識したり。

SO-SO:バトルだと「転結」しかないからね。

KAJI:人によっては「転結結結転結」とか(笑)。

Kohey:ビートボックスを知らない人が聴いても違和感のない構成だと思います。

――「HA-NI-HO-HE-TO-I-RO」についてはいかがでしょう。

RUSY:この曲は今年の世界大会の予選曲です。SARUKANIは普段「ここはあの曲の感じで、ここはこれ」と部分的にリファレンスを考えることが多いですが、この曲は楽屋での気楽なセッションで生まれました。

Kohey:確かにリファレンスがない。

KAJI:ハニホヘトイロという言葉を使いながらフィーリングのままに作りましたね。僕とSO-SOさんが「テテッ」と適当にリズムを出したら変な音が生まれて、それをハモらせてみたり。全員のアイデアでできた曲です。

SARUKANI - (1st place) GBB23: World League Crew Wildcard | HA-NI-HO-HE-TO-I-RO

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