FRUITS ZIPPER、fishbowl、タイトル未定、iLiFE!…『アイドル楽曲大賞2022』コロナ禍以降に誕生したインディーズアイドルの躍進

5位 ばってん少女隊「虹ノ湊」

ばってん少女隊『虹ノ湊』× 360 Reality Audio -Music Video-

8位 ばってん少女隊「さがしもの」

【LIVE】さがしもの / from Blu-ray「御祭sawagi~踊れ心騒げ~」

11位 ばってん少女隊「御祭sawagi」

ばってん少女隊『御祭sawagi』 - Music Video -

15位 ばってん少女隊「YOIMIYA」

ばってん少女隊『YOIMIYA』-Music Video-

岡島:ばってん少女隊は、アルバム『九祭』が今回の『アイドル楽曲大賞』アルバム部門で1位に選ばれ、高く評価されています。「OiSa」から始まった人気を民俗音楽的な作風で継続しつつ、「虹ノ湊」を手がけているRin音が福岡県宗像市出身で「むなかた応援大使」だったり、地元である九州出身のクリエイターを起用していることも特徴的です。ほかにも、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)やDaoko、ASOBOiSM、PARKGOLF、YonYon、 DÉ DÉ MOUSEといったアーティストを迎えることでの、アルバム全体のクオリティも素晴らしかった。ばってん少女隊は「OiSa」以降でUSENでの順位が高いという現象が起こっていて、「虹ノ湊」も多くリクエストされています。

宗像:グローバルなビートはアルバム全体にも表れていて、世界にも通用する作品が出来上がっている。中でも「YOIMIYA」が象徴的で、ケンモチヒデフミさんのフューチャーハウス、「さがしもの」はアイリッシュトラッドというようなジャンルの楽曲が一枚のアルバムに入っています。ライブでのパフォーマンスの実力もすごい。楽曲の方向性、コンセプト、ステージパフォーマンス、全てが高いレベルにあったと感じましたね。

ーー「YOIMIYA」のMVには海外のファンからのコメントも多く寄せられていて、「OiSa」から一貫している日本神話的なコンセプトが受けているんだと感じます。

宗像:海外から見ても新鮮だと思いますし、ローカルな表現の洗練さ、映像としての美しさはずっと通底していますよね。日本民俗的な要素は日本人にとってもノスタルジーを呼ぶし、海外ではそれがエスニックなものとして見られる。国内外でもアンテナに引っかかるのはそういったところなんでしょうね。

ピロスエ:ちなみに、スターダストプラネットの楽曲を対象に行われていたファン企画『スタプラ楽曲大賞2022』では1位が『九祭』収録曲の「さがしもの」でしたね。2位がいぎなり東北産の「メタハンマー」で、3位が「虹ノ湊」でした。

6位 Ringwanderung「パルス」

Ringwanderung - パルス (Lyric Movie)

宗像:近年の『アイドル楽曲大賞』ではピアノロックが人気です。一つのトレンドなんでしょうね。

岡島:ピアノロックは本当に増えましたね。

ガリバー:リンワンはやってることがブレないですよね。かっこいいです。

宗像:歌謡曲テイストのメロディがあったりして、僕もリンワン好きですね。

7位 Task have Fun「メインアクター」

Task have Fun "メインアクター”(LIVE MV)

宗像:ソウルフルで、ベースラインがいいんですね。ファンはそういった部分に反応したんだと思います。

ガリバー:タスクも「こういった雰囲気の楽曲がほしい」というファンの声がランクインに繋がったように思います。試行錯誤していた中で、みんなが聴きたいのはこれなんだという答えが一つ出たというか。

9位 iLiFE!「アイドルライフスターターパック」

【MV】アイドルライフスターターパック/iLiFE! 【コール動画】

宗像:声出しOKのライブを観ましたが、この曲がバリバリに現場で機能しているんです。今のアイドルライブは、声出しが初めてという人も珍しくありません。そういったライブを経験してこなかった人たちが、コロナ禍で初めてコールができるようになって、MIX(アイドルのライブにおいて前奏や間奏にファンが叫ぶ掛け声のこと)を打たなきゃいけない、どうしたらいいんだろうって。オーイング(「オー!」と入れるコール)まで紹介する必要があるのかとも思いますけど、この曲で知る人も多いんですよ。

ーー新しく入ってきたアイドルファンにとっては、この曲がコールの取扱説明書になってるんですね。

宗像:こういう曲は時には軽視されると思うんですけど、現場ではタイトル通り“スターターパック”として機能している。そういった価値観は認めたほうがいいんじゃないかと。

ガリバー:2022年にこういったスタンダードなMIXがチュートリアル的にありなんだと衝撃を受けました。2年前(コロナ前)の多種多様なコールが混沌と入り混じっていた頃なら選ばれないようなMIXが歌詞として書かれている。これから声出しをしようとしている人たちがたくさんいて、そのニーズに応えたというのは面白い現象だなと思いました。

10位 いぎなり東北産「メタハンマー」

いぎなり東北産『メタハンマー』MV

ピロスエ:10位のいぎなり東北産「メタハンマー」は、ボカロ曲のリリックビデオを踏襲したMVが特徴的です。先ほども触れた通り、『スタプラ楽曲大賞2022』でも2位になっていた人気の高い楽曲ですよね。

LE SSERAFIM、IVEの『NHK紅白歌合戦』初出場、NewJeansのワールドワイドな活躍

NewJeans (뉴진스) 'OMG' Official MV

ーー2022年の大晦日に放送された『第73回NHK紅白歌合戦』に、LE SSERAFIM、IVEの2組が初出場したことが象徴的ですが、韓国のガールズグループが日本でも絶大な人気を誇っています。特にLE SSERAFIMと同じHYBE傘下のNewJeansは、アメリカのBillboardチャートにランクインするなどグローバルな活躍を見せながら、ハイコンテクストなMV/楽曲が日本でも圧倒的な支持を集めている。こうしたK-POPグループの台頭をみなさんはどのように見ていますか?

宗像:年明けすぐにNewJeansが「OMG」をリリースしましたが、古今東西の映画ネタ、精神病棟を堂々と使うハイコンテクストな感覚が凄まじかった。NewJeansが極東アジアの最前線に躍り出ている感覚はあります。また、「OMG」を出した後に、NewJeansはほぼ毎日というように動画を出しています。そういった動きが日本でできているのはどこかというと、実はFRUITS ZIPPERが近いのではないかと見ています。「Dance Practice」や「BEHIND THE SCENES」など、曲を出すだけではなく、公式がYouTube、TikTokでアフターフォローをして、どんどん肉付けしていかなきゃいけないんですよ。そこにリソースを割けている日本のグループは、まだ少ない印象です。

岡島:ただこういうことって、結局資本のあるところだからこそできる、ということでもあるんですよね。動画制作も安価でやり続けるのには限界があるし、人件費も掛かってくる。お金や労力が掛かってないように見えても、実際はそうではなかったり。もちろん資本力がないところにも突破口はありますが、資本力があるところがネット展開のコンサルも入れて全力でやったらめちゃくちゃ強いですからね。コロナ禍以前の、中小事務所が「ライブを主体に成り上がって行くメソッド」がコロナ禍で死に体となってしまったこの数年で、いわゆる「アイドル戦国時代」以前の、「資本力のあるところが強い」という状況に、わりと戻ってしまっている状況と言えるかもしれません。

ガリバー:僕は、日本国内のメディアと、SNSを始めとするネット上のグローバルな動きの繋がりがより可視化されてきていると思っています。韓国と日本が展開しているのを比べるソーシャルメディアでの露出量だけ比較すると桁が違うわけですよ。2021年の超ときめき♡宣伝部、2022年のFRUITS ZIPPERのような成功事例はあるものの、K-POPほどの広範囲なリーチを獲得出来ているわけではない。そこで勝ち筋を見つけるのは難しいというか、まともに張り合う必要はないとも思っています。とはいえ同時に、日本国内の音楽番組でさえ、CDの売上ではなくストリーミングやYouTubeの再生回数を重視するようになっていて、『日本レコード大賞』(TBS系)に秋元康プロデュースのグループが一組も優秀作品賞にノミネートされていなかったり、『NHK紅白歌合戦』での坂道グループの出演枠が減って、それを埋めるように初出場としてLE SSERAFIMやIVEが出演していたりする現状がある。

 それに加えて、メンズグループの加熱する競争もあります。オーディション番組から誕生した新たなメンズグループの勢いがファンダムを含めて凄まじく、彼らがどんどん音楽番組に進出している。それでも坂道グループは出演し続けてはいますが、ストリーミングの再生回数やフォロワーの数字は圧倒的な差がついています。グローバルでも、国内でも女性グループは劣勢に立たされているし、この先厳しい道がリアルなファクトとして横たわっていて、そこと向き合わないといけない時がきているんじゃないかと思います。フェス出演やTIkTokというプロモーションやキャンペーン的な展開に関わらず、より良質な楽曲が『アイドル楽曲大賞』のメジャー部門ランキングに入ってくると日本の女性アイドルシーンの様相も明るい方向に変わる兆しが出てくるのかもしれません。

宗像:ガリバーさんが指摘されたように、今はメンズアイドルに注目が集まっている。シーンとしてはジャニーズ一強ではなくなってきたのに伴って、メンズアイドルグループの隆盛に対する注目度が高くなっていて、それを考えると女性アイドルは難しい局面に立たされています。一方で、2022年のゴールデンウィーク辺りから現場には声出しが戻ってきています。TikTokやYouTubeからどうやったらライブハウスに人を連れてこられるのか、さらにそれが声出しだったなら、というのが一番の難局だと思っているんですね。そこに対するベストな解答を私はまだ見てないんです。自己肯定感というワードは、今回の『アイドル楽曲大賞』でもよく出てきたと思うんですよ。そういったトレンドや声出しといった環境の変化が激しい中で、地道にTikTokやYouTubeで人の心をスマホの画面から掴みながら、生で観て素晴らしいと思わせるぐらいのパフォーマンスをする。乗り越えるべき課題は多いように思います。

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