『メイドインアビス』や井手上漠とのコラボで注目 SNARE COVER、北海道から世界に向けて発信する理想の音楽

『メイドインアビス』で確信した音楽の力

Made in Abyss OST Hanezeve Caradhina - Kevin Penkin (Takeshi Saitou Cover)

ーー2017年にエマージェンザ・ジャパン大会で優勝し、ドイツで開催された世界大会でベストボーカリスト賞を受賞。さらにアニメ『メイドインアビス』のサウンドプロデューサー、ケヴィン・ペンキンに見い出され、楽曲「Hanezeve Caradhina (ft.Takeshi Saito)」を歌ったことも大きな話題を集めました。

斎藤:本当にたまたまというか、ケヴィンさんは以前からつながっていて、SNSで自分の歌を聴いてくれたことで、『メイドインアビス』に関わることになって。コライトの経験もそんなになかったし、別の方が作ったメロディを歌うのもすごく新鮮でした。求められるものが決まっていて、それをさらに良いものにするというか。「自分にはこういうこともできるんだな」って思いましたね(笑)。

ーー「Hanezeve Caradhina」は世界的な反響を集めました。

斎藤:すごかったですね。YouTubeでもすごく聴かれて、いろんな国の方からコメントを貰って。翻訳してみると、歌声に反応している方が多かったんです。「中性的」「どこの国のシンガーかわからない」という声もかなりあって。自分のYouTubeチャンネルでセルフカバーしたときに、「初めて日本人だと知りました」という人も多かったですね。

ーーまさに言葉、国籍を超えて、歌声が届いたと。

斎藤:そうなんですよ。日本に住んでいて、生活や感情を切り取って共感を求めようとすると、なんとなく表現が決まってくるところがある気がして。でも、音楽は本来そういうものではなくて、言葉がわからなくても「カッコいい」と感じることができるんですよ。『メイドインアビス』に関わらせてもらったことで、「やっぱりそうだ」と思えたんですよね。「Hanezeve Caradhina」は実際には存在しない言葉で歌っているんですが、「涙が止まらない」「何回も聴いて、何回も泣いた」というコメントもあって。もちろんアニメのストーリーとリンクさせて聴いてもらっていると思いますが、自分の力も加えることができたし、自分を活かせる場所があるなと感じて。その後のモチベーションにもつながりましたね。

私らしく、僕らしく。ー井手上漠のことー

ーー「わすれね」についても聞かせてください。SNARE COVERとしてジェンダーレスモデルの井手上漠の人生をテーマにした「私らしく、僕らしく。ー井手上漠のことー」を制作しましたが、この曲、めちゃくちゃポップですね。

斎藤:確かにキャッチ—ですよね。当初はもう少し柔らかくて、ファンタジックな曲にしようと思っていたんですが、井手上漠さんのインタビューに立ち会わせてもらって、そのときに受けたインスピレーションによって、曲の核になるものがすぐに出来て。もっと力強くて、1本の筋がしっかり通っていて、突き抜けるような曲にしたかったんですよね。漠さんは以前から気になっていて、僕自身がファンでもあったので、縁に感謝です。

ーー漠さんのどんなところに惹かれていたんですか?

斎藤:ジェンダーレスモデルというのもそうだし、どこか神秘的な雰囲気があるというか。サカナクションの「モス」のMVにも出演されていましたが、アーティストが反応する存在なんだと思います。海士町(島根県・隠岐の島にある島のひとつ)で生まれ育ったという背景も関係しているのかなと。

ーーなるほど。斎藤さんは北海道の自然豊かな場所で制作を続けていますが、住んでいる土地の雰囲気は、音楽に反映されていると思いますか?

斎藤:間違いなくありますね。いま制作している環境は、札幌駅付近から車で40分くらいのところで、窓から山や谷が見えるんですよ。自分にとってのきれいなメロディ、きれいな言葉、きれいな音像を重ねているわけですが、そういう景色があるとないとでは、曲を作るうえでも全然違うだろうなと。東京に出て来るのは、イエティが都会に来るような感じかも(笑)。東京は戦う場所だし、いい意味でストレスを与えてくれるんですよ。それも必要なんだけど、ずっと住むのは違うのかなと。

「何かのためになることは、生きている意味にもつながる」

ーー今後の活動についても聞かせてください。現在はニューアルバムの制作中だとか。

斎藤:はい。この2年もかなり曲を作っていたんですよ。これまでとは違う方向性の曲もあるし、“らしさ”を感じてもらえる曲もあって。もちろんクオリティの高さは追求し続けているし、他のアーティストは歌わない、印象的な曲を聴いてもらえるアルバムになると思います。歌詞については、言葉の響き、メロディにハマる響きを重視するのは変わっていないんですが、現実を切り取ったり、生活のことを描いた歌詞も増えていますね。

ーーこの2年間、コロナ禍や戦争があり、世界の状況は大きく変わりました。その影響もあるのでは?

斎藤:コロナに関しては、“当たり前が当たり前じゃなくなった”という感じがありまね。ライブはかなり制限されましたが、伝える方法は他にもいろいろあるんだということもわかって。戦争に関しては、以前から歌ったりしてたんですよ。もちろん直接経験したわけではないですが、「いつどうなるかわからない」という思いがすごくあって。本当に戦争が起きてしまったことで、自分で歌ってきたことが現実味を帯びてきたというか……。

ーー2019年にリリースされた『Birth』に「戦火のシンガー」という楽曲が収録されていて。

斎藤:はい。生や死、いつから“自分”という意識があったんだろう? みたいなことを考えることも多くて。それが音楽に影響していることも間違いないでしょうね。

ーー斎藤さんは動物愛護の活動家としても知られていますが、それも普段考えていることとつながっている?

斎藤:そうだと思います。楽曲からも、そういうイメージを感じてもらえるでしょうし。もちろん僕自身は聖人君主ではないし(笑)、それ以外の部分もたくさんあるんですけど、自分が作った曲が誰かのため、何かのためになることは、生きている意味にもつながるんですよね。

ーー現在の社会は、できるだけ短い時間で結果を出す、利益を得ることが求められる傾向が強いですが、SNARE COVERはもっと本質的なものを追求しているのかも。

斎藤:作品性を確保しておかないと、自分が飽きてしまう気がして。僕も欲深いから、「売れたい」と思っているし、たくさんの人に聴いてもらいたいですけど、まずは自分で「いい音楽」と思えないと。ただ、社会の影響もかなりありますけどね。最近は尺が短い曲が増えているんですけど、それも「伝えるにはどうしたらいいか?」と考えているからで。もちろん、自分がいいと思ってやってるんですけどね。

ーーアルバムのリリース後はライブも?

斎藤:もっともっとやりたいと思ってるし、ライブでも自分の存在をアピールしたいですね。弾き語りだったり、ルーパーなどの機材を使うこともあるし、ライブにもいろいろな形があるんですよ。将来的には、デカい場所でもやってみたいです。たった一人でスケールの大きいステージを見せる。それも夢の一つですね。

■関連リンク
公式サイト https://snarecoverofficial.ryzm.jp/
公式Twitter https://twitter.com/snare_saitou
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/channel/UCNss8G4vVksc_11HkO9WzeA

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