OAUは未来に向けて音楽を奏でていく 心地よい春風とともに日比谷野音で迎えた『New Spring Harvest』

 OAUが最新作『New Spring Harvest』を携えて、約1年ぶりに東京・日比谷野外大音楽堂のステージに立った。昨年も大雨の翌日だったが、この日も2022年台風1号通過の影響での冷たい雨が上がり、心地よい春風の中でのライブとなった。

 幕開けはドラムセットについたRONZI(Dr)とスルド(ブラジルの打楽器/大太鼓)を担いだKAKUEI(Per)の打楽器セッション。力強いビートが鳴り響く中、TOSHI-LOW(Vo/A.Gt)、MARTIN(Vo/Vn/A.Gt)、KOHKI(A.Gt)、MAKOTO(Cb)が拍手に迎えられ登場した。それぞれ楽器を用意すると、MARTINが歌う「Old Road」へ。どっしりとした落ち着きを感じさせる歌と演奏はTOSHI-LOWが歌う「こころの花」に引き継がれたが曲が進むほどに高揚感が生まれ、サビのあたりで腕をあげたMARTINにオーディエンスが腕を上げて応えると、MARTINは嬉しそうにうなずいた。待ちかねたようにTOSHI-LOWが話し出した。

 「春といえばパン祭りじゃなくてOAUの野音というのを定着させたいな、まだ2回目ですけど。去年も良かったけど今年も素晴らしいです。ありがとうございます。今日は春だし収穫祭だし、俺たちと踊って踊って踊り狂う春の収穫祭を」と呼びかけた。

 まさに踊り出したくなるようなMARTINのバイオリンが光る「Apple Pie Rag」はTOSHI-LOWがステップを踏みながら上手へと進み、レゲエ調の「Broken Glass」にメンバーもオーディエンスもゆったり体を揺らしていた。

 TOSHI-LOWが小学校の入学祝いに祖父からもらった地球儀を眺めて「遠くのどっかの国にはもっと素晴らしい世界があるんじゃないかって。でも遠くの国に幸せがあったのか、今はちょっとわからないな」と締めて歌い出した「世界の地図」は、〈汚れて破れた世界の地図〉というフレーズが刺さった。続く「Change」でギターに持ち替えたMARTINが「カモン!」と呼びかけると、オーディエンスの腕が高く空に築き上げられた。

 歌い終えてMARTINが話し出した。

「この天気でよかったね。遠いところで同じ空を見てる人も。僕にとってもいる、2年の間に会えなかった人、会いたくても会いに行けない。だから、そういう曲を作った。あなたたちのため、俺のために歌います」

 「Sunny Day」はKOHKIのウクレレが軽やかな足取りを思わせ、TOSHI-LOWが膝にギターを乗せて弾いたスライドギターが滑らかなステップのよう。軽快なリズム隊の演奏にオーディエンスの手拍子が重なった。二人の歌の掛け合いが徐々に力を増していった「all the way」、〈raise up〉のフレーズをくり返す歌にオーディエンスが何度も応えた「Ankaa」と曲が進むほどにバンドもオーディエンスも熱を帯びながらもリラックスして楽しんでいる空気が広がった。場内にハンドクラップが小気味よく響いた「Thank You」の締めは、お馴染みRONZIの特大スティック。

 ここでMARTINとKOHKIの他はステージを降りるとMARTINが、「日本へ来て20年ぐらい。15、6年前、OAUをやり出して、TOSHI-LOWかっこいいじゃん。だけどあの時の俺はかっこよくない。TOSHI-LOWの隣で歌ってて、これでいいのかな、TOSHI-LOWの真似をしたらかっこよくなるのかなとか。勘違いしてずっと他の人の顔のマスクをつけてた。それじゃダメだ、俺は俺になる、と思った瞬間が、この曲」と歌い出した。

 KOHKIのギターをバックに歌った「Mask」はバンドの2作目『all the way』の収録曲。センチメンタルで内省的な歌だが、そんな気持ちで書いていたのかと驚いた。歌い終わるとMAKOTOがステージに戻り、MARTINが「僕の子供に歌う曲」と「Life」へ。人生は甘くないぞと歌い掛けるこの曲は、悩める青年から親になったMARTINの自分への歌のようでもある。

 そして、他の二人とともにステージに戻ったTOSHI-LOWが「一緒に歌える方がいたら一緒に歌いましょう。大変だったけど、いつかは、いつかは……世界は、変わる」と呼びかけ始まったのが「世界は変わる」。1年前にこの場所で初披露した同曲は最新作のリードトラックになった。タンバリンを手にTOSHI-LOWは腕を差し出しながら〈今日からまた歩き出そう〉と歌いかけた。そして「さあ後半戦、思い残すことないよう踊り狂って帰ってください。新しい物語を始めたい、行きましょう」と「New Tale」へ。TOSHI-LOWとMARTINが掛け合いで歌うパワフルで躍動感のある演奏に揺れるオーディエンスの影が重なる。程よい緊張感のあるインストゥルメンタル「Bamboo leaf boat」から起伏に富んだ「Again」、ドラマティックな「Americana」から力強いハンドクラップが響いた「Midnight Sun」、そして今だ! と言わんばかりにオーディエンスをライトが照らした「Making Time」ではステージ後方にツアータイトルとバンドロゴを形取ったネオンサインが点灯し、本編の最後をドラマチックに飾った。

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