EPIK HIGH TABLO×SAKIKO=鳥居咲子が語る、日本と韓国のヒップホップ文化の違い リリックを作る上で大切にしていることも

楽曲制作で一番大切にしていること

SAKIKO:ラップの歌詞の場合、多くの方に共感される話よりも個人的な話が重視されますよね。他にもライミング、ダブルミーニング、パンチラインなど作詞のテクニックが多岐に渡ります。その中でTABLOさんが一番大切にしていることは?

TABLO:僕は本当に書かないと狂いそうなとき、本当に我慢できずこれ以上溜めておけないと思うときに、リリックを書きます。

 子供の頃から好きで影響を受けた音楽や映画には、「本当に命がけで作ったんだ」「こうやって表現しないと死にそうだったんだろうな」というのが伝わるものが多かったです。僕自身がそう感じたので、自分が本当に伝えたいことや、話したいと思ったことを書きます。ストーリーテリングやライミングなどのスキルは、その後のことだと思います。

SAKIKO:伝えたいことを歌詞として表現する上で、特に意識していることはありますか?

TABLO:「どうしたら歌詞を上手く書けるようになりますか?」とよく質問されますが、僕にはどうしたら「上手くなるか」は分からないです。それよりも、「どんなことを考えているのか」が重要なんじゃないかと思います。何も考えずスキルだけ伸ばそうとすれば「それっぽいもの」は書けるだろうけど、その先は何もないでしょう。小学生や子供が書いた文章に本当に共感するときがあるじゃないですか。それはスキル的に優れているからというよりは、「思い」をそのまま表しているからだと思います。それがあればいい文章や歌詞を書けると思います。

SAKIKO:それって作詞だけじゃなくて、普段のコミュニケーションにも通じる話のように感じます。会話の中で、相手からされた質問にどう答えるかは、普段何を考えているかがそのまま反映されるというか。「どんなことを考えているのか」とか「思い」が、そのままその人の言葉になって表れますよね。

「自分だけが孤島にいるのかもしれない」(TABLO)

SAKIKO:ご自分が書いた曲や『BLONOTE』の中で、一番気に入っているフレーズは何でしょうか? また、その理由は?

TABLO:楽曲だと「Airbag」の〈もしかしたら 俺だけが孤島にいるみたい〉という歌詞です。僕が子供の頃から今までで、一番よく感じる感情です。いつも他の人はみんな何かしらと繋がっていて、何かを楽しく共有しているようなのに、僕はメンバーたちとの楽しい時間の中でもふと「自分だけ孤島にいるのかも」と感じるときがあります。僕だけではなく実はみんなそう思っていて、それぞれが孤島にいるのかもしれませんが……派手な言い回しではないけど、自分でも書いていて本当に自分の気持ちをよく表していると感じた文章でした。

SAKIKO:私もTABLOさんで一番好きな歌詞が「Airbag」なので、『BLONOTE』の解説でもその歌詞をピックアップしたんですよ。

TABLO:ありがとうございます。『BLONOTE』ではお気に入りがいくつかありますが、「中古の楽器を買った/誰かの果たせなかった夢が/こんなに安っぽいだなんて」ですね。中古楽器を販売するお店に行くと、まだ使えるものも多く、あまり使われていないような楽器もあります。きっと買うときには本当に欲しくて買ったはずなのに、現実の壁や事情によって諦めて売ったものが安く販売されているのが何だか悲しく感じました。今回リリースしたアルバム(『Epik High Is Here下, Pt.2』)に「Piano For Sale」という曲がありますが、それも似たような感情で書きました。子供の頃から使っていたピアノを、今回のアルバムを作るときに売りました。故障も多く、もうそろそろ手放す時期が来たと思って売ったのですが、それでも悲しくて書いた曲です。

『BLONOTE』に込めたメッセージ

SAKIKO:私は今、SKY-HIというラッパーが設立した会社 BMSGでトレーニー(練習生)の育成もしているのですが、彼らにトレーニングの一環として『BLONOTE』の感想文を書いてもらいました。詩を読んで感性を磨き、感じたことを文章に書き記すことで国語力も鍛えてほしいと思ったからです。歌って踊れるだけではなく、知性をもって社会的によい影響を与えられるアーティストになってほしいので。

 この『BLONOTE』は、その課題において最適でした。読めば読むほど奥深いので、気になったメッセージをピックアップしながらさまざまな感想を書いてくれましたし、自分がどうありたいかも考えるきっかけになったようです。これから作詞にチャレンジしていく彼らなど、次世代の若者たちに本書をどのように活用してほしいですか? メッセージがあればお願いします。

TABLO:本当にありがたいことです。そのために作った本でもあります。エッセイのように長く僕の考えを述べるのではなく、短めの文章なので、多分読まれた方の思いのほうが、この本に書いてある文よりも長いはずです。

 世間一般で聞かれる質問はどれも同じです。何になりたいのか、何ができるのか、何を成し遂げるのか……こんな質問ばかりなので、こういうものに答えることはできます。でも、自分の中身についてのことは、誰も聞いてくれないですよね。本当にやりたいことは何で、何が自分を悲しませ、むなしくさせるのか? また、それを満たしてくれるものは何なのか。それを成し遂げた後に幸せなのかどうか。こういう質問をされていないと、本当に聞くべき質問がどのようなものなのかも分からなくなるし、自問もしなくなる瞬間が来ます。どんなに成功してもお金を稼いだとしても、意味がなくなってしまうというのは本当に残念なことです。僕も子供の頃、一度でもいいから誰かに「僕が何をしているのか」ではなく「僕はどんな人なのか」を聞いてほしいと思っていました。だから、こういう風に問いを投げかけ、自分の思いで埋められるように語りかけてくれる本を作りたかったんです。大人たちが若者に対してそのような質問をしないのなら、自らで自分自身にもっといろんなことを問いかけるべきだと思います。

SAKIKO:『BLONOTE』をどんな感情で読んでほしいですか?

TABLO:最初から最後まで精読するよりは、インスピレーションが欲しいときや何かしらの感情を吐き出したいとき、考えをまとめたいときなど、フォーチュンクッキーのようにランダムに開いて読んでもらいたいです。そのための本であり、皆さんの感情や心のためのツール(道具)であってほしいです。

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