EPIK HIGH TABLO×SAKIKO=鳥居咲子が語る、日本と韓国のヒップホップ文化の違い リリックを作る上で大切にしていることも
韓国で2016年に発行され大ヒットを記録した、韓国のヒップホップグループ・EPIK HIGHのリーダー TABLOによる『BLONOTE』の邦訳が、2月に世界文化社から出版された。本書はTABLOが2008年4月から2009年6月、2014年4月から2015年11月までDJを務めていた『TABLOと夢見るラジオ』でリスナーに贈っていた短い言葉を集めた本で、以前からEPIK HIGHのファンを公言しているBTSのリーダー RMもSNSで紹介したことがある。
今回日本での出版を記念し、TABLO本人と日本版のあとがきを担当した、韓国ヒップホップ評における第一人者であるSAKIKO(鳥居咲子)の対談が実現。『BLONOTE』に込めたメッセージから、日本と韓国のヒップホップの違いや創作についてなど語り合ってくれた。(DJ泡沫)
日本と韓国におけるヒップホップの違い
SAKIKO:日本ではヒップホップが大衆化されておらず、未だにアンダーグラウンド感の強いものとされていますが、韓国ではヒップホップが市民権を得ていますよね。90年代のソテジワアイドゥルから始まり、DEUX、Drunken Tiger、そしてEPIK HIGHはもちろん、Dynamic Duo、Supreme Teamなどヒップホップが大衆に受け入れられていき、1TYMやBIGBANGなどのYGエンターテインメントからも続々とヒップホップのアイドルカルチャーが発展していきました。今ではBTSなどをはじめ、アイドルグループがヒップホップジャンルの曲をやるのも当たり前のようになりましたし、ソロのラッパーも大衆的な認知度を上げています。
これは長い時間をかけて、さまざまな流れを経てこのようになったのだと思いますが、日本のほうが先にヒップホップやラップが発展していたのに、大衆化において違いが出た理由はどこにあると思いますか? TABLOさんから見て、韓国でのヒップホップジャンルの成功の背景にはどのようなものがあると思いますか?
TABLO:面白いことに、僕がアンダーグラウンドでヒップホップを始めてから、韓国国内で初めてステージの上でラップを披露したのは日本人のdj hondaの来韓公演(2002年)でした。dj hondaとEPMDの公演でしたが、「フリースタイルラップができる人」と言われたときにできる人が僕しかいなくて……。そこでフリースタイルラップを披露したのが僕の初ステージになりました。
そこから日本のヒップホップミュージシャンやグラフィティアーティストの方などと交流するようになり、日本に行ったりもしました。その当時はまだデビュー前で、韓国国内でヒップホップも大衆化されていなかったため、日本のミュージシャンたちに韓国でラッパーとして生きていくのは大変だと相談したこともありました。僕の音楽を聴いて彼らは、韓国のラップには感情(ソウル)が生きている、きっと韓国ではヒップホップが成功するだろうから心配しなくていいと励ましてくれました。
SAKIKO:ちなみにその当時に話した日本のミュージシャンはどなたですか?
TABLO:dj hondaとDABOです。昔のことでデビューする前でしたし、彼らは僕のことを覚えていないと思いますけど(笑)。
韓国でここまでヒップホップが浸透した理由ははっきりとは分からないですが、韓国の若者にとってヒップホップというジャンルが必要だったのではないかと思います。TVではきれいないい面しか見せられないから、肯定的なものであれ、否定的なものであれ、自分が語りたいことや思いを吐き出す何かが必要だった。だからこそ、より早い速度で多くの人に愛されるようになったのではないでしょうか。
韓国ヒップホップと詩の文化
SAKIKO:以前、Kebeeなど韓国のラッパーたちに詩についてインタビューをしたことがあるのですが、韓国のラッパーは詩に触れる機会が多く、詩からインスピレーションを受けるアーティストも少なくないと感じました。日本ではあまり詩集を読むという習慣が浸透してないのですが、韓国で詩が浸透しているのはなぜなんでしょう? 韓国では、皆さんどのようなきっかけで詩に触れるのでしょうか?
TABLO:僕は逆だと思っていましたよ。本の販売量も日本が多いですし、本を読む人が多いと思っていました。
ヒップホップを始めたときは僕らのようなリリックを書く人はいなくて、ヒップホップシーンでも変わった目で見られましたし、むしろ独特だからいいと言ってもらえることもありました。20年ほど経った今も文学的なリリックや詩のようなリリックとしてEPIK HIGHが挙げられているのを見ると、あまり変わっていないのではないかと感じます。日韓だけでなく、アメリカなどでも詩的なリリックを書くラッパーは少なからずいますが、メインストリームではないかなと思います。
ちなみに、EPIK HIGHの他のメンバー(MITHRA、DJ TUKUTZ)も詩は読まないですね(笑)。僕はミュージシャンになるという夢を持つ前の子供の頃から書くことが大好きで、作家が夢でもあったので、詩をたくさん読んだり書いたりもしましたが。フランスの詩や大学で勉強したアメリカの文学の影響もあり、アメリカの詩も好きでした。
SAKIKO:Kebeeもラッパーにならなかったら作家か詩人になっていたと言っているような方ですもんね。他にもSudaやカンサンヨウルは詩に影響を受けたようです。
TABLO:Kebeeもかわいがっていた弟のようなアーティストですが、彼らのようなケースは珍しいですよ。
SAKIKO:ラッパーという職業は一般的なイメージとして、学歴はあまり必要ないと思われていますよね。ラップの歌詞もあまり文学的なものが多くなさそうというのが、一般的な認識ではないかと思います。しかし、ラップというのは言葉で感情やストーリーを伝えるものなので、絶対に国語力は必要だと思いますし、文学や詩のインプットが多ければ多いほどリリックメイキングにも役立ちますよね。Verbal Jintをはじめ、韓国ヒップホップシーンでは知性派のラッパーが他の国に比べると多いように感じますが、そうなった背景はどこにあるのでしょうか?
TABLO:70〜80年代の歌謡曲や、K-POPという言葉ができる前の90年代の韓国歌謡を聴くと、ダンスミュージックでも歌詞が本当に深いんです。ノリノリのビートなのに歌詞だけを読むといろんな感情が入っていて、自分自身と戦っている話や悲しい感情が込められていたり。
僕が子供の頃のアーティストでユ・ジェハという方がいますが、彼の歌詞は本当に詩的です。文学的な歌詞で知られているVerbal JintやE SENSは個人的にも交流があるアーティストですが、彼らもヒップホップだけではなく様々なジャンルの先輩アーティストの音楽を聴いていた人たちです。そのような音楽を聴いていた僕らや、自分のストーリーをもとに文学的なリリックを書いた人たちが成功したということですね。どの市場でもそうですが、成功したら同じことをやりたがる人たちが多くなるから、自然とそういう風になったのではないかなと思います。
SAKIKO:お話を聞いていて、日本でも同じことが言えるかもしれないと思いました。日本ではどちらかと言うと分かりやすくて共感できる歌詞が人気なのですが、そういう曲をたくさん聴いて育ったアーティストが、自分もそういう歌詞を書くようになっているのかもしれません。