月詠み、ユリイ・カノンが綴る葛藤の先にある願い 新ボーカル迎えた第2章で明かされ始める物語のベール

 2022年、月詠みのクリエイティビティが開花した。コンポーザーであるユリイ・カノンは、1月からYouTubeに「だれかの心臓になれたなら 廻想録:I “if”」をはじめとした全3編から成る動画を公開。それらは月詠み第1章の物語を描いた、昨年9月リリースの1stミニアルバム『欠けた心象、世のよすが』に登場した少女によるポエトリーリーディングとなっており、未踏の物語への没入体験を生み出した。並行する形でオフィシャルモバイルアプリ「月の裏」にて期間限定で無料公開されたのが、同アルバムの完全生産限定盤に同梱されていた小説『⼼象録』(ユリイ・カノン著)の全編。そして、ある日突然スタートした月詠みというプロジェクトが紡いできた物語の全貌がようやく明らかになり始めたのが、第2章の開幕を知らせた1月26日リリースの6th Digital Single「生きるよすが」、2月24日に配信されたばかりの7th Digital Single「メデ」という快進撃だった。

だれかの心臓になれたなら 廻想録:I “if”

 現在、Spotifyのバイラルチャート・トップ50にも浮上している「生きるよすが」だが、そのMVは、公開からわずか10日で100万回再生を突破(2月末現在では300万回以上)。MV公開前には、配信記念としてユリイ・カノン、新ボーカル・Yue、バンドメンバーを含めた5人によるYouTubeトークライブが配信された。ステージに立つこと自体が貴重なユリイ・カノン。そして、月詠みのボーカルとなってから広くその歌声を届けるようになったYueをはじめ、まだまだ秘密のベールに包まれている月詠みが、徐々にその存在をさらけ出していく。

 2020年10月、ボカロPのユリイ・カノンがコンポーザーとなり、活動を開始した月詠み。YouTubeで570万回再生(2月末現在)を記録している1st Digital Single「こんな命がなければ」から始まった月詠みのストーリーであるが、特筆すべきは、すでに展開されている楽曲が、ユリイ・カノン名義のボカロ曲の物語世界を再構築したものとなっていることだ。

月詠み『こんな命がなければ』Music Video

 第1章を飾る1stミニアルバム『欠けた心象、世のよすが』リリースを経て、結成1周年を迎えた昨年10月に突如発表されたのは、活動形態が複数のクリエイター&デザイナーから成るプロジェクトに変わるということ。まさに第2章に向けて、物語の理想化を目指すために必要不可欠な転換だったといえる。

 前述したように、後に期間限定でも公開された小説『⼼象録』に描かれていたのは、音楽活動に人生を賭ける熱心なユマと、ユマに憧れて音楽活動を始めるリノという2人の少女の物語。小説をもって、月詠みの音楽は初めてその物語に沿った作品として存在するのだ。

月詠み『生きるよすが』Music Video

 生命感がほとばしるピアノリフ、純粋なバンドサウンドが駆け抜ける「生きるよすが」は、第2章の開幕を宣言する曲。昨年12月17日、新宿ReNYにて開催された初のワンマンライブ『月下』より歌声を披露しているYueが、ユマの視点に立ったこの曲でボーカルを務める(ライブ映像も公開中)。〈わからない/才も人生もわかるものか/嘘だらけでも/それでも、/生きろ/愛も何も無くたって明ける夜だ/生まれた理由なんて後付けだっていい/死にゆく様を それを美と呼ぶな/散る為に咲く花なんて無いだろ〉と歌い上げる、決意と諦念が入り混じったような声のトーンは、一見大人びていて丈夫そうに見える一方で、悩みを抱えているユマの心像と重なるところがある。熱を帯びていく歌声が、純真なバンドサウンドをよりエモーショナルな響きに変えていく。

 第2章を迎え、物語の理想化を目指すことで最も力強く浮かび上がってきたのは、暗闇を照らす光のような、ユリイ・カノンの一貫したメッセージ。「生きるよすが」の曲名の“よすが”は、身や心を寄せて頼りとするところ、頼みとする人を意味しており、“心臓=生きる理由”として綴ったユリイ・カノンのアンセム「だれかの心臓になれたなら」に通じるところがある。生きる理由を探し、「誰かの生きる理由になれたら」と願い続けるーー物語の世界を通して初めて、そんな力強い声が聞こえてきた。

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