『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』インタビュー

竹原ピストル、コロナ禍を生きる歌うたいの赤裸々な本音 全国を旅することでしか出会えない刺激とは?

 竹原ピストルが、2022年第1弾となるミニアルバム『悄気(しょげ)る街、舌打ちのように歌がある。』をリリースした。「コロナ禍のなかで支えてくれた人たちに、この時期に作った曲を届けたかった」というモチベーションで制作された本作には、「初詣」「せいぜい胸を張ってやるさ。」「笑顔でさよなら、跡形もなく。」「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」「悄気る街、舌打ちのように歌がある。」の5曲を収録。映画監督の西川美和が企画監修を担った5曲分のMVも必見だ。生きること、暮らしていくことのキツさ、危うさ、厳しさ、そして、どこかにあるはずの希望を生々しく描いた本作について、竹原ピストル自身に赤裸々に語ってもらった。(森朋之)

感謝もやるせなさも凝縮された1枚に

ーーミニアルバム『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』は2022年最初の作品となりました。リリースに先がけ、1月に全国10カ所で“ミュージックビデオ鑑賞会”も開催されましたが、かなりレアなイベントですよね。

竹原ピストル(以下、竹原):そうかもしれないですね。とにかく素晴らしいMVを作っていただいたので、いち早く観てもらいたくて。急遽ツアーを組んだんですよ。

ーー全曲のMVを撮ることになったのは、どうしてなんですか?

竹原:去年出したアルバム(『STILL GOING ON』)の後も曲を書いてきて、5曲できたときに「これでまとまるな」と思ったんですよ。足したり引いたりしないで、このまま世に出そうと思ったときに、1曲1曲、独立したMVを作るのもありだなと。まず「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」のMVを西川美和監督にお願いしたんですよ。

ーー西川監督とは、竹原さんが出演した映画『永い言い訳』(2016年)以来の付き合いですよね。

竹原:西川監督が手がけたCM(伊藤忠商事のテレビCM)で曲を書かせてもらったこともありますからね。今回は西川監督だけじゃなくて、紹介してもらった映像作家の方にもMVを撮っていただいたんですが、どれも本当に素晴らしいし、鑑賞会でデカいスクリーンで観ると、なおのこと良かったです。5曲分のMVを全部観てもらって、拍手が起きたときは「やってよかった」と思いましたね。

ーー先ほど「これでまとまるな」と話していましたけど、そもそもこの5曲をミニアルバムとして発表したいと思ったのは、どうしてだったんですか?

竹原:今年もオミクロン株が蔓延してますけど、一昨年から続いているコロナ禍のなかで、配信ライブで投げ銭してくれたり、いろいろな形で支えてくれた人たちに、この時期に作った曲を届けたかったんですよね。もちろん「ありがとうね」という気持ちもあるし、自分のなかにはやるせなさとかイライラ、「誰が悪いわけではないけど、何もできねえな」という気持ちもずっとあって。そのなかで感じたことや歌いたいことが凝縮された作品になったと思います。

『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』Special Teaser”vol.1/「初詣」ver.

ーー1曲目「初詣」は、“今年もキツい1年が始まるぞ”という思いが強く刻まれています。

竹原:そうですね。去年(2021年)の初詣の時期に書いたんですけど、なんかもう、途方に暮れていたんですよ。まったく晴れ晴れしい気持ちじゃなかったですね。

ーー去年の初めは、おそらく日本中の人が同じ気持ちだったと思います。〈俺はいつまで繰り返すのか!/いつまで俺を繰り返すのか!!〉という歌詞も強烈でした。

竹原:それも途方に暮れる理由というか、「一体、俺は何なんだ」という思いはずっとあるんですよね。ときには「これが俺なんだ」と開き直ったり、「このまま生きるしかない」という覚悟を歌うこともあるのですが、「初詣」に関しては舌打ち混じりで「何なんだよ!」という感じです。あと自分に対して、「グダグダやってねえで、さっさと動けよ」って思うことがあるんですよね。ダラけて「まずは飲むか」みたいになっちゃうのは、野狐禅の頃から変わらないですね(笑)。

ーーこの歌に出てくる〈“はちまんさん”〉はモデルがあるんですか?

竹原:あります。何かあったときはお参りするし、仲間が調子を崩したりすると、「早く良くなりますように」って絵馬に書いたりするので。すぐ神頼みします。

「ずっと“たかが”と“されど”に挟まれている」

ーー2曲目「せいぜい胸を張ってやるさ。」には、“こんな自分でもやれることがあるはず”という思いが滲んでいます。

『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』Special Teaser”vol.2/「せいぜい胸を張ってやるさ。」ver.

竹原:〈救いようのない人間にしか救いようのない人間もいるだろうよ。〉というフレーズが先に出てきて、そこから歌詞を書いたんです。「せいぜい頑張れや」と自分に向けて言っているニュアンスもありますね、投げやりな肯定というか。

ーー実際、「自分にしか救えない人間がいるはずだ」という思いも?

竹原:いや、それはあくまでも歌のなかの描写ですね。ただ、人を見ていて「あなたにしか救えない人がいるよ」と思うことがあるんですよ。あなたは自分のことをダメな人間だと言うけど、「君にしか話せない、相談できない」という人が必ずいるはずだと。そういう人に会うと、「自分のような歌うたいでも、知らないうちに誰かのためになっているのかもしれないな」と思えるんですよね。

ーー要するに“結果として”ということであって、曲を書いている時点では誰かを救おうなんて思っていない?

竹原:そうなんですけど、ずっと“たかが”と“されど”に挟まれているところもありますね。「何でこんな人生になったんだろう?」「だけど俺にはこれしかできない」の間で常に揺れ動いているし、自分を誇らしく思っているわけではないけれど、「何かできんじゃねえの?」と思うこともあるという……。

ーーなるほど。この楽曲は裏打ちのリズムも効いていて、歌詞の強さをしっかり支えるアレンジも見事です。

竹原:それはディレクターの高橋太郎さんのアイデアですね。他の曲もそうなんですけど、まずはアコギでデモを作って、知り合いのミュージシャンにギターやベース、ドラムを入れてもらって、それを高橋ディレクターに形にしてもらう。『STILL GOING ON』は弾き語りがメインだったこともあって、今回のミニアルバムはしっかりアレンジしたかったんですよ。「せいぜい胸を張ってやるさ。」のサウンドもすごく好きですね。

『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』Special Teaser”vol.3/「笑顔でさよなら、跡形もなく。」ver.

ーー3曲目「笑顔でさよなら、跡形もなく。」はポップスとしての魅力が強くありますね。

竹原:ちょっと懐かしいメロディで、歌謡曲のイメージで作りたかったんですよね。昔から勝新太郎さんが好きなので、あの方が歌っていた雰囲気を出したいというリクエストもしました。あとは“裏街道”みたいなテーマもありましたね。歌うたいや旅芸人みたいな、いわゆる世間一般とは違う生業だったり、そういう人間がいる情景を描きたくて。あくまでも創作なんですけど、自分の仕事を「普通じゃないよな」と思うこともあるんで(笑)。

ーーそのイメージはMVの世界観にもつながっているんですか?

竹原:僕が歌ってる場面はそうなんですけど、MVの主人公は10代の女の子なんですよ。どうしても周りと馴染めず、「自分が悪いのか、この街のせいなのか」という思い悩む時間を過ごしている。楽曲の世界観にもピッタリだし、すごいMVを作ってもらいました。

『悄気る街、舌打ちのように歌がある。』Special Teaser”vol.4/「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」ver.

ーー西川監督が手がけた「朧月。君よ、今宵も生き延びろ。」のMVでは、竹原さんがボクサー役を熱演しています。この曲も歌詞がすごくて。特に〈君よ、この歌が君に届くまで。〉〈君よ、生き延びろ。〉というフレーズにもグッと来ました。

竹原:生きていくって大変じゃないですか。1日1日生きていくのは〈生き延びろ〉という言い方がピッタリだし、ましてやコロナ禍の真っ只中で書いたので、さらに大変だなという気持ちが強くて。「あいつ大丈夫かな」って思い浮かべる顔も山ほどあるし、自分も含めて、「どうにか生き延びようぜ」という歌ですね。

ーーこの歌が少しでも力になったらな、という気持ちもある?

竹原:うーん……。これもいつも思っていることですけど、自分が何かできるわけじゃないんですよ。「俺の歌でどうにかできるわけじゃないけど、あえて言わせてもらう」という感じなんですよね、この曲は。

ーーいろんな感情がひしめき合ってるんですね。

竹原:さっき「曲を書いている時点では誰かを救おうなんて思っていない?」と質問してくれたじゃないですか。それはその通りなんですけど、一方では「もしかしたら、何かできるんじゃないか」とも思っていて。もし自分の歌によって「もう1回頑張ってみよう」と思った人がいたら、こんなに嬉しいことはないので。後づけも甚だしいですけど、「そのために歌っている」という思いもあるし、せめぎ合ってますね。

ーーお客さんから直接「竹原ピストルさんの歌に力をもらいました」と言われることもあるのでは?

竹原:ありますね、ありがたいことに。「勇気づけられた」「助けてもらいました」と言ってもらうこともあるんだけど、そのたびに「それはあなたが強いからです。あなたにあなたを救う力があったからであって、歌はきっかけに過ぎない」と思うんです。自分のなかにも「おまえの歌は大したことない。身の丈を知っておけ」という強烈なストッパーがあるし……ただ、本音のなかの本音を言えば、やっぱり「何かできるかもしれない」と思っているんですけど。わかりづらくてすいません。

ーーそうやって揺れながら歌を作っていること自体が、竹原さんのリアリティなんだと思います。この曲、フルートの音色も素晴らしいですね。

竹原:カッコいいですよね。当初はフェイドアウトすることになってたんですけど、あまりにも最高だから、全部使わせてもらって。この曲で描きたかった情景にピッタリだったんですよ。俺はそれを表わすのにこれだけの言葉を費やしたけど、プレイヤーは音一発で表現できる。やっぱりすげえなって改めて思いましたね。

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