Diosとはどんなバンドなのかーー活動の加速を予感した初ワンマンを振り返って

 2019年1月にぼくのりりっくのぼうよみとしての活動を終了、それ以降は主にインターネットで活動していたたなか(Vo)。イギリスのギター誌『Total Guitar』の読者が選ぶ「史上最高のギタリスト100選」で「現在最高のギタリスト」として8位にランクインしたギタリストで、川谷絵音らによるインストバンド・ichikoroでも活動するIchika Nito(Gt)。 ボカロやオンラインゲーム界隈ともリンクするコンポーザー/トラックメイカーでクラブミュージック由来のサウンドが特徴的、他アーティストへの楽曲提供/プロデュースに留まらず、自身でもアーティスト活動するササノマリイ(Key)。そんな3人によって結成されたアベンジャーズのようなバンドがDiosだ。バンド名は、たなかが好きなマンガ『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物・ディオと、ギリシャ神話の陶酔や酩酊を司る神・ディオニュソスから。

 2021年3月31日に結成を発表すると同時に1stシングル「逃避行」を配信リリース。「鬼よ」、「裏切りについて」、「劇場」、「ダークルーム」とこれまでに5つのオリジナル曲を発表している彼らは、昨年12月23日に初のワンマンライブ『Dios 1st One Man Live “DAWN”』をWWW Xで開催。ライブ中のメンバーの発言によると、現在は1stアルバムリリースに向けて制作中とのことで、ここから活動が加速していきそうなので、このタイミングでピックアップすることにした。

 そもそも、たなかが再び音楽に向かうなんて、と驚いた人が多かったのではないだろうか。振り返ると、ぼくのりりっくのぼうよみのラストアルバムは『没落』、ラストライブは『葬式』と名付けられ、『NEWS ZERO(現news zero)』(日本テレビ系)番組内での「”天才”をやめる」、「ぼくのりりっくのぼうよみというアーティストを葬る」といった発言、および『葬式』を迎えるまでの本人の言動は当時物議を醸した。『葬式』には私も“参列”したが、演奏終了後、雷鳴が轟くと、ぼくのりりっくのぼうよみは忽然と姿を消したーーというラストシーンはあまりに鮮烈で、「ぼくのりりっくのぼうよみという存在が没落していくアートを完成させることに熱中した」(※1)という温度感からしても、彼が音楽活動を再開させる未来を正直想像できなかった。

 しかしたなかは、再び曲を書き自ら歌うことを選んだ(※2)。一度まっさらになった時に湧いた“音楽をやりたい”という感情はピュアな表現欲であり、音楽からどうしても離れられない彼の性(さが)とも言えるかもしれない。そんなたなかだけでなく、世界を股にかけながらも国内にも活動の場がほしいと思っていたIchika、ぼくのりりっくのぼうよみの過去作を手掛けるなど元々たなかと音楽的交流があったササノにもそれぞれ背景があり、結果、バンド結成と相成った。

 流麗なボーカルを主軸にしつつヒップホップ的なアプローチも導入、セクションごとに大きく色を変えるDiosはじまりの曲「逃避行」。開始0秒からインパクト抜群でそこからアコギリフに繫がる展開も見事、ヒリヒリとした質感の8分の6拍子楽曲「鬼よ」。エレクトロ系のアレンジに切ないメロが絡む「ダークルーム」。和のエッセンスを含んだハイテンポの4つ打ちナンバーで、つまりボカロ直系の「virtual castle」(ライブで披露された未音源化曲)。作詞・作曲・編曲クレジットは“Dios”となっていて、それぞれの個性やルーツが楽曲の中でクロスオーバーしている。このバンドで鳴らす音楽を「1人じゃ届かない領域」と言い表したのはIchikaだが、たなかやササノも近い意味のことを言っていて、ソロアーティストとしても十分に活動していけるレベルの腕を持つプレイヤー/クリエイター3名が、それでもバンドを結成した所以はそこにある。要するに、他者と交わり、新しいものを生み出すことで“自分”という人間の境を越えていけること、その楽しさがDiosの真ん中にあるという話で、この“越境”というワードは歌詞表現にも掛かってくる。たなかはライブMCで「歌っている間は歌詞の言葉を現実にできる」、「例えば‟空を飛ぶ”と歌った時、音楽の中では空を飛べる」といった持論を展開。さらに「音楽と現実の間に境を設ける必要はない」とし、「その越境行為が楽しい」と音楽活動における一つのモチベーションを明かすと、「音楽には形も質量もない、でも居場所にはなり得る」、「Diosの音楽が誰かの居場所になれたら嬉しいなと思います」とリスナーへのメッセージに変えたのだった。

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