アルバム『Silver Lining』インタビュー
May J. が暗闇の先に見つけた希望の兆し 「今までは本当の自分を出すのがすごく怖かった」
心の中にあった思いをぶちまけた
ーー本当にいい流れですよね。他のアルバム曲についても詳しく聞かせてください。まずは6曲目に収録されている「Paradise」。ラテンフレイバーを感じさせる1曲ですね。
May J.:私はラテン調の曲が好きで、それをミルくんにも前から伝えていたんですよ。そうしたらある日突然、「できたよ」って言ってこのトラックが送られてきたんです。「軽やかなダンスチューンだから、息抜きとして楽しみながらメロと歌詞を乗せてみてね」って。
ーーアルバムの中でいいアクセントになっているサウンド感ですよね。
May J.:そうそう。他がけっこう重ためな曲が多かったから、こういう曲がアルバムに入ったらいいなって私も思いました。ほんとに楽しみながら作ることができましたね。
ーー今年、行われた2年ぶりのツアーでの景色が歌詞に反映されているそうですね。
May J.:はい。ツアー前にすごくキレイな夕焼けを見たときがあって。そこでツアータイトルにした“Euphoria(多幸感)”というワードが浮かんだんですよ。で、この曲ではその夕焼けの景色を思い返しつつ、同時にライブというまさに“Paradise”な場所への思いを書いていきました。私にとってイヤなこともすべて忘れられる美しい場所がなくなりませんように、そんな思いを込めて。
ーー続く7曲目は「Feels Like Home」。作曲には気鋭のクリエイター・Lapistarさんの名前がクレジットされていますね。
May J.:「この曲はLapiくんが入るとさらにかっこよくなりますよ」って言って、ミルくんが紹介してくれたんですよね。私も彼の曲をいろいろ聴かせてもらったんですけど、確かにふわっとレイドバックしたミディアムのR&Bを作るのが本当に上手なんです。アルバムにはそういうちょっと力の抜けた曲がまだなかったので、じゃあぜひ一緒にやりましょうということになって。で、よくよく話を聞いてみたら、私が毎年参加している気仙沼のイルミネーション点灯式にLapiくんは見に来てくれたことがあるらしくって。「えー、そこからもう繋がってたんだ!」と思ってうれしくなりましたね(笑)。
ーーLapiさんとの制作はいかがでしたか?
May J.:すごく楽しかったですよ。Lapiくんは私よりも全然若いので、そういう部分でもいろんな刺激をもらえましたし。レコーディングでは、「もう少し柔らかく歌ってください」とか、ディレクションまでしてくれましたね。
ーーR&Bはご自身にとってひとつのルーツであり、これまでも歌ってきたジャンルでありますけど、この曲で聴かせてくれる歌の表現はまさに今のMay J.さんにしか出せないもののような気がしました。
May J.:そうかもしれないですね。ここまでウィスパーで歌い切るっていうことはやってきていないことなので。今まではね、けっこう声を張り上げないと足りないんじゃないか、届かないんじゃないかってすぐ思ってしまっていたんですけど(笑)、この曲ではそういう気持ちを一度全部取っ払いましたね。それはある意味、今までの自分にとっての武器、当たり前だと思っていた表現を崩すことでもあって。今回のアルバムではそういったことにトライした曲が多いかもしれないです。
ーーそれによって新たな可能性も見えました?
May J.:そうですね。ただ、それは新たに手に入れたというよりは、今までやりたかったけどできなかったことをやれたってことだと思うんですよ。ウィスパーで歌うとか、低い声をたくさん使うとか、そういうことは全部そうですね。年齢的にも低い声が今まで以上に出るようになってきて、それが自分的にも心地よいと思っていたので、今回はそれにトライするいいタイミングだったんだと思います。
ーー9曲目にはシンガーソングライター/フェミニストとして活動されている大門弥生さんをフィーチャーした「Psycho」が。ここで聴けるラップもMay J.さんとしてはかなり新しい表情ですよね。
May J.:うん、これもまさに「やりたかったことやっちゃいました!」って感じですね(笑)。ただ、仮歌の段階で自分なりのラップをやっていたんですけど、その後に大門さんのバースが上がってきたときには、「うわ、これに合わせて私はラップできないなー」って思っちゃったんですよ、最初(笑)。
ーー大門さんとラップで肩を並べるのは確かにハードルが高いですよね。
May J.:そうそう。「ハードルたけー!」って思ったんだけど、でも私のラップに対して大門さんが「すごくいいじゃん」って言ってくれたんですよ。だったら私も自信もってやろうと思って、最初に作ったままのラップを思いきりやり切った感じでしたね。
ーーこの曲で大門さんをフィーチャーしようと思ったのはどうしてだったんですか?
May J.:私はずっと大門さんのインスタをフォローしてたんですよ。こんなかっこいい人が日本にもいるんだなぁと思って。なんかね、大門さんは自分がなりたかった女性像を体現されているような気がしていて。周りの意見を気にせず自分なりのスタイルを貫いて、ものすごい強さを持っている女性。そこにすごく憧れていたんです。だから音楽でぜひ一緒にコラボしたいなと思って、今回お声がけさせていただきました。テレビ電話を通していろいろお話をさせていただいたうえでお互いに自分のバースを作り、サビは一緒にスタジオに入って作りました。制作はめちゃくちゃ楽しかったですよ。
ーー曲のテーマも一緒に決めたんですか?
May J.:テーマは最初に私が決めていたものなんですよ。要はSNSハイプって言うんですかね。SNSを活用することにはいいこともあれば悪いこともあるよっていう。その両方を歌うことで今の時代を切り取り、その上で最終的には自己肯定感を上げるような曲にしたかったんです。SNSにいい形で乗っかって、自分自身を輝かせて行こうぜみたいなメッセージですね。大門さんはそのテーマをしっかり汲み取って、最高のリリックを書いてくださいました。
ーーMay J.さんのバースには、“歌うまくて何が悪い?”という痛快なラインがありますよね。
May J.:心の中にあった思いをぶちまけちゃいましたね(笑)。あと、“You should let it go”っていうフレーズもあるんですけど、それは私がどうしても入れたかったもので。自分にとって大切な曲のタイトルを使っていますけど、ちゃんと歌詞の意味を読み取ってもらえればそこに否定的な意味はないことは感じてもらえると思います。
ーーどん底の暗闇から始まったアルバムがこの曲にたどり着くとは(笑)。
May J.:ほんとにそうですよね(笑)。なんかもう、このアルバムを作れたことで、ここからは何を言われても大丈夫な感じがしてますし、自分自身を好きになるための大きな、新たな一歩になった気がします。