androp、ラグジュアリーなアレンジで魅せたBillboard Live公演 この先へ向かう躍動感味わう格別な時間に

 横浜、大阪、東京で全6公演の『androp Billboard Live Tour 2021 “Lonely”』が9月18日、Billboard Live TOKYOでファイナルを迎えた。これまでにもBillboard Liveでは周年イベントなどスペシャルなステージを行なってきたandropだったが、今回のステージはサポートにこれまでのツアーでもおなじみの佐藤雄大(Key)に加えて、新たにサックス奏者 Juny-aを迎えた6人編成で、バンド曰く“ラグジュアリー”なニューアレンジを展開。新たな視点・パートが加わったサウンドは曲の持つ魅力を幾重にも広げ、またアレンジすればするほどに褪せない歌やメロディの魅力も際立っていくという、常に挑戦的にキャリアを重ねてきたバンドの創作欲と充実とを感じるライブになった。この原稿では東京公演・第1部のステージの模様をレポートする。

内澤崇仁(Vo/Gt)

 冒頭から「Q.E.D.」、そして9月22日リリースの最新曲「Moonlight」へと新旧の曲が並ぶ。「Moonlight」は今年5、6月にかけて行われた『one-man live tour 2021 “Beautiful Beautiful”』でも披露され、孤独な心の叫びとその先に見える光の尊さをデジタルと生のサウンドによるうねりで描き、コロナ禍で久々の有観客ライブを迎えたバンドと観客の思いを繋いだ曲だ。リリース前に別アレンジを聴く機会はなかなかレアなことだが、前のツアーでの高揚感とはまた違った、テナーサックスの深い響きが内澤崇仁(Vo/Gt)の歌やボーカルの甘美さを引き出すバージョンもいい。「今日はあなたの時間をとっておきのものにするつもりです。最後まで自由に楽しんで」とMCをした内澤は、「いつものandropよりもラグジュアリーな感じになっているのは、このふたりのおかげ」と言い添えて佐藤雄大、Juny-aを紹介すると、ピアノとアルトサックスのジャジーなイントロダクションから「Radio」へと続く。軽やかにバウンスする伊藤彬彦(Dr)と前田恭介(Ba)のリズムが心地よい。続く「Kitakaze san」では前田はウッドベースを奏で、Juny-aはソプラノサックスで曲の陽性度を上げていく。もともとはバンジョーやフィドルなどを用いた牧歌的なカントリータッチのサウンドだが、ここではポップで都会的な風を感じさせるサウンドを聴かせ、「Neko」でさらにスピード感をあげながら、観客の手拍子を誘い、体を揺らすようなアンサンブルを奏でる。曲によって、前田はシンセベース、エレキベース、ウッドベースをプレイし、Juny-aはソプラノ、アルト、テナーのサックスとフルート、パーカッションで曲を色付ける。普段のライブ、ロックバンドとしてのダイナミズムとも違う、プレイヤーとしての繊細さや喜び、遊び心や掛け合いの呼吸が味わえるのが、この編成の醍醐味だ。内澤も「楽しいです、ありがとう」と笑顔をのぞかせてMCをする。

佐藤拓也(Gt)

 中盤の2曲、「Waltz」と「Hanabi」は、ゆったりとドリーミーなサウンドや照明で緩急をつける。内澤は椅子に腰掛けジェントルなボーカルを響かせ、佐藤拓也(Gt)は滑らかなギターを紡ぐ。そのアンサンブルは、歌に描かれる切なく、愛おしい世界観を観客の目の前に投影していくようで、会場内のエモーショナルな濃度が上がる。まさに今、同じ時、同じ記憶や気持ちを共有している、そんな感覚が胸に広がる瞬間だ。今回のツアータイトルにある“Lonely”には、会場にひとりで来た人、配信の画面の向こうでひとりで観ている人も楽しめるライブにしようというのがコンセプトだという。そう今回のライブへの思いを語り“ロンリーなあなたに贈る”とプレイしたのが、7月に配信リリースしたシングル「Lonely」。ここからは再び、(その場ではあるけれど)心地よいグルーヴに身をゆだねて、自由に体を揺らす曲が並んだ。この日はあいにくの雨、それも台風接近の雨模様となってしまったが、「Lonely」が醸す夏の終わりの気だるい熱っぽさや、夜の街のネオンや街のざわめきはどこかセクシーで、そこから「SOS!」へと過ぎ行く夏を惜しむようにアンサンブルの密度を上げて、それぞれのソロパートを繋ぎながらアグレッシブにサウンドの温度を高めていく展開もグッとくる。

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