『HONEY meets ISLAND CAFE presents HY Ocean Blue Sound -The Surf Remixes-』
HY×DJ HASEBE 『HONEY meets ISLAND CAFE』対談 海が結びつけた2組による“懐かしさと新しさ”の共存
HYにとって、初のオフィシャルリミックスアルバムとなる『HONEY meets ISLAND CAFE presents HY Ocean Blue Sound -The Surf Remixes-』が8月25日にリリースされた。
本作は、ビーチライフスタイルマガジン『HONEY』と、サーフミュージックブランド『HONEY meets ISLAND CAFE』と、海を愛するバンドHYとのコラボレーションにより生まれたもの。リミックスを手がけるのは、以前より『HONEY meets ISLAND CAFE』シリーズを手掛けてきたDJ HASEBE。HYのどこか懐かしさを感じさせる楽曲のエッセンスを引き出しながら、スタイリッシュで涼しげなトラックを融合させ、夏にぴったりのサウンドプロダクションに仕上げている。
1990年代よりヒップホップ、R&BのDJとして第一線で活躍してきたDJ HASEBEと、沖縄の海を愛しSDGsにも通じる活動を2008年から行うなど、オーガニックかつピースフルな活動を続けているHY。全くフィールドの違う2組による化学反応が、一体どのようにして生まれたのか。この日のリモート取材がお互いの初対面だという、HYの新里英之(Vo/Gt)、名嘉俊(Dr)、許田信介(Ba)、仲宗根泉(Key/Vo)と、DJ HASEBEの座談会をお届けする。(黒田隆憲)
”沖縄の海を大切に守っていきたい”という思いもリンクしたコラボレーション
ーーまずは『HONEY meets ISLAND CAFE presents HY Ocean Blue Sound -The Surf Remixes-』が実現した経緯からお聞かせいただけますか?
HASEBE:数年前から雑誌『HONEY』とサーフミュージックのレーベル『ISLAND CAFE』コラボで、『HONEY meets ISLAND CAFE』と銘打ったノンストップミックスの作品をリリースしているのですが、そこで僕がミックスを担当させてもらったのがそもそものきっかけです。以来、年に2、3回のペースでスピンアウト的な絡みがあって、その流れで今回のお話をいただきました。
新里:僕らはずっと、沖縄に住んで活動をしているのですが、海をテーマにした楽曲もたくさんあって、それが縁で『HONEY』と繋がりコンピレーションCDにも参加させてもらいました。今年は7月に『HONEY』主催のオンラインライブ『SEA OF LOVE 2』に出演し、そして今回HASEBEさんとのコラボが実現することになったのですが、”沖縄の海を大切に守っていきたい”という僕らの思いは『HONEY』、HASEBEさんの活動ともリンクしますし、きっと素晴らしい化学反応が起こるだろうとすごく楽しみにしていましたね。
ーーそもそも今回の7曲はどうやって選んでいったのですか?
名嘉:今回『HONEY』との関わりもあったので、ので、歌詞の中に「海」や「潮風」といったワードが入っている楽曲を、なるべくチョイスするようにしました。
HASEBE:僕はリミックスするときにいつも、自分のDJプレイの中で、セットリストのどこに組み込むか? ということも考えながら作っているので、セットリストに加えても違和感のないテンポ感を意識しつつ、一度HYさんから候補のリストをいただいたときに、僕からもリクエストさせてもらって、そういうやり取りの中で7曲に絞られていきました。
ーー実際にリミックスする上で気をつけたことは?
HASEBE:なるべく曲を短くしたいなと。出来れば4分台で曲をまとめられたらいいなと思っていましたね。それと今回、楽曲の素材も全てもらっていたので、その中から一つか二つ抜き出し、新しい音色と混ぜていきました。人によっては元素材をほぼ活かしてリエディット的に再構築するケースもあれば、全く新しい楽器やコードを使ってほぼ「リアレンジ」に近いアプローチにするケースもあるのですが、僕自身の定番の作り方は、その中間という感じ。原曲のコードまで変えることはあまりないです。
ーー実際に聴いてみてどう思いました?
仲宗根:この作品に入っているのは、昔からみんながよく聴いてくれていて、ファンのみんなにも愛されている曲が多いんですよ。HASEBEさんのリミックスで、このバンドサウンドがオシャレでビーチな感じに生まれ変わるのが楽しみで。すごくワクワクしていたんですけど、実際に聴いたときは「こんなにも変わるのか!」と思いました。
許田:HASEBEさんのイメージって、今まではゴリゴリのヒップホップやR&BのDJだったのですが、今回こうやって初めてコラボレーションさせていただいて、出来上がったものを聴いたら、より海を感じられるようなポップな仕上がりでかっこいいなあと思いました。自宅でこの作品を流しながらコーヒーを飲んだりケーキを食べたりしていると、家がカフェのようになるので重宝させてもらってます(笑)。
仲宗根:今、私には小学校3年生の娘がいて、娘もよくHYの曲を聴いているのですが、今回のHASEBEさんのリミックスを聞かせた時に、「これ、ママたちの曲じゃん! すごい今風になってて聴きやすいね」と言ってくれて(笑)。今作で最も古い曲だと20年くらい前に作った曲も収録されているし、私たちが当時作っていた時の感覚と、今はサウンドの感じもだいぶ変わったと思うのですが、こうやってリミックスしてもらうことで若い人たちにも受け入れてもらえるんじゃないかなと。新しいHYを見せることが出来たと思います。
新里:聴いていてすごくポップで爽やかで、新しさも感じつつ、どこか懐かしい感じもあって。
仲宗根:そうそう、わかる!
新里:自分たちの楽曲も、20代の頃よくレコーディングする時にプロデューサーさんから「なんかお前たち、おじさんっぽいフレーズをギターやピアノで弾くよな」と言われてたんですよ(笑)。そういうエッセンスもHASEBEさんは汲み取って、なんていうか心地よい音色に乗せてくれていて。
HASEBE:例えばHYの「車に乗って」は、歌詞やメロディに昭和歌謡的な雰囲気を感じたので、自分なりに日本的なポップスをどうアレンジするかは、すごく意識しながらリミックスしていましたね。
いい意味での”いなたさ”を意識したリミックスワーク
ーーそういうHYの昭和歌謡的な雰囲気は、どこから来るものだと思いますか?
名嘉;自分たちではほとんど意識してないんですけど、70年代から90年代まで幅広いジャンルの音楽を、昔からランダムに聴いていたりするからなのかな。
新里:自分たちは今年38歳の年なんですけど、子供の頃に見ていた景色などが歌詞にも反映されているのかもしれないですね。もちろん、沖縄に流れるゆったりとした時間の感覚も懐かしさを引き出しているような気がします。
HASEBE:僕もHYのサウンドから懐かしさみたいなものは感じながらリミックスしていました。僕はおそらく2000年初期くらいに、スペースシャワーTVなどCSの音楽番組でHYのミュージックビデオがパワープッシュされていたのをよく観ていた記憶があって。その頃から懐かしい感覚のあるサウンドだなという印象があったので、今回リミックスする時にもそれをより引き出せたら面白いかなと。
許田:確かに「車に乗って」は、まさしく自分が取り入れたかった音をHASEBEさんが入れてくださってて。聴いていてニヤニヤしました。
HASEBE:実は僕も、あの曲を作り終えてから結構お気に入りになってずっと聴いていました。そういえば最近、昭和歌謡しばりでDJをやったこともあって。改めてそのジャンルを聴き直してみたら、好きな楽曲がたくさんあることに気付いたんですよ。80年代後半からずっと洋楽ばっかり聴いていて、90年代の邦楽は全く通ってこなかったんですけど、実は良いものがたくさんある。それを今回、HYのリミックスの中で出していきたかったしすごく勉強になりました。制作作業は今年の7月に集中していたのですが、その間はちょっとした修行期間でもありましたね(笑)。
新里:そうだったんですね(笑)。例えばスクラッチの音とかもすごく懐かしかったです。いろんなスクラッチの音があると思うんだけど、そこでチョイスした音がポップな感じというか、わかりやすさがあって。
HASEBE:いい意味でいなたくしたかったんですよ。すごく洗練されてて、新しくてかっこいいというよりは、緩くていなたくて、懐かしいみたいな。それで例えばドラムの感触や、レコードサンプリングの質感を柔らかい感じにしてみました。90年代的というか、70年代ソウルやロックの影響を受けたヒップホップやR&Bの方法論。”懐かしいけど、新しい”みたいな質感になったらいいなという気持ちはありました。例えば「AM11:00」も、Shaniceの「I Love Your Smile」っぽい感じというか、口笛とヴィブラフォンを混ぜてみたり、90年代初期のR&Bがよくやっていた楽器の使い方をオマージュしたりしてみましたね。
仲宗根:最初のフレーズですよね(と言って、一節を口ずさむ)。あれ、すごく耳に残っていて。よく海へドライブに行くんですけど、すごく合ってるんです。90年代初期の感じ……確かにそうですね。聴いていると、なんだか昔の自分に戻っていくようですごくエモいんです(笑)。