『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』サントラが総括するシリーズ20年史 JP THE WAVY参加で「Tokyo Drift」とも接続
愛車を最新のチューンアップに仕上げるかの如く、ホットな若いラッパーを中心に組んだサウンドトラックを世界に送り出す映画『ワイルド・スピード』シリーズ。9作目となる最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のオリジナルサウンドトラックでは、Polo G、リル・ダーク、ジャック・ハーロウ、24kGoldn、リル・テッカと総合チャート上位で活躍する若いラッパーたちを集めている。昨年若くして凶弾に命を奪われてもなおスターであり続けるポップ・スモークと、同じく銃で命を落としたキング・ヴォンの名前も並んでいる他、Skepta、NLE Choppa、トリッピー・レッド、ドン・トリヴァー、Latto(Mulatto)など若い人気ラッパーを中心とした配陣だ。また、彼らよりも一つ世代が上になるTy Dolla $ign、MigosのOffset、A$AP Rockyといったスターに加え、Juicy JにWu-Tang ClanのRZAといったベテラン達も名前を連ねており、ラッパー達の年齢層はこれまでのサントラよりも広い。これは同作が今まで以上に過去作のストーリーを踏まえているからだ。1作目『ワイルド・スピード』から20年。ちょうどアーティストの年齢層の幅にもほぼ一致する。
この豪華すぎるクレジットの中、JP THE WAVYがアジア人で唯一参加しているニュースは皆を驚かせたはずだ。それも今作のストーリー展開が深く関連している。予告編では日本の昭和な家屋の中で激しい肉弾戦を行う様子が映るだけでなく、シリーズ3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』で殺されたと思われたハンの登場にシリーズのファン達は歓喜している。いわば、サントラに突如現れたJP THE WAVYは、ストーリーに由来する"TOKYO”枠なのだろう。しかし、機会さえ掴めば世界でも勝負できそうなラッパーは東京に数多いる中、JP THE WAVYに白羽の矢が立ったのはなぜか。理由は彼の活躍や才能、スタイルの親和性だけではなく、その文脈にもある。いわずもがな、2006年のTERIYAKI BOYZ「Tokyo Drift (Fast & Furious)」(以下、「Tokyo Drift」)から始まる系譜だ。
楽曲の「Tokyo Drift」を最も広めたのはもちろん映画そのものであろう。しかし、他の”ワイスピ”初期作に使用された楽曲に比べると、15年経ってもこの曲は飛び抜けてプレイされている。例えば、リッチ・ブライアンを発端としたビートジャック・チャレンジが88rising周辺と日本国内で流行ったことも記憶に新しいが、そのビートこそ「Tokyo Drift」だった。他にもDJのセットリスト・データベースとして世界的な規模を持つ「1001Tracklists」で同曲を検索してみよう。TERIYAKI BOYZの「Tokyo Drift」は123ものセットリストがヒットするのだが、同じ3作目に使われたN.E.R.D.のヒット曲「She Wants To Move」は22と、5倍以上の開きがある。東京に舞台を移した3作目は興行成績がシリーズ中最下位だったにもかかわらず、なぜこの曲だけが人気なのか。その鍵は印象的なイントロにある。
ファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴによるThe Neptunesが手掛けた「Tokyo Drift」は、2010年代半ばよりトラップやベースミュージック、EDMのビートメイカーによって再生産され続けた。それらの曲がDJ達を通して再生され続けたのは、イントロから終始流れている無機質なサウンドが上記のジャンルと親和性が高いからだと筆者は推測している。だからこそトラップがブームになる以前の曲にも関わらず、トラップ以降の世代にもクールな曲として認知されている。加えてその印象的な音は、バリ島の伝統楽器 ガムランをサンプリングしたもので、この楽器は映画『AKIRA』でも楽曲のみならず、劇中でも緊張が走るシーンにはSEで使われていた印象的な音だ。ガムランの音がネオ東京のテクノオリエンタリズムなイメージや、その街を駆け抜ける金田のバイクのスピード感、もしくはショーンがハンから教わったドリフトでスクランブル交差点を切り抜けるスリルを(無意識的にでも)呼び起こさせているとしたら、それは人気の一因と言えるだろう。
話を戻すと、トラップ世代のラッパーで、世界的に有名な渋谷のスクランブル交差点のイメージを背負えるラッパーといえば、JP THE WAVYだ。それだけでなくTERIYAKI BOYZの中心人物であるVERBALとJP THE WAVYは、m-floの「Toxic Sweet feat. JP THE WAVY」(2019)や「OK,COOL feat.VERBAL」(2020)でも交流がある。楽曲以外にもTERIYAKI BOYZ「Tokyo Drift」、JP THE WAVY「Bushido」と、どちらもパッと見で日本人の曲だとイメージさせてくれるのも大事なポイントだろう。そして両者ともに原宿発のA BATHING APE®の広告塔のような存在であり、同ブランドを世界的な地位に高めたのはファレルであると考えると、またもや「Tokyo Drift」とJP THE WAVYを結ぶ線が浮かび上がる。極めつけに、JP THE WAVYがその名前を一気に広めた「Cho Wavy De Gomenne」(2017)のビデオではオレンジ色がアクセントとして使われているが、これが偶然にも『ジェットブレイク』で復活するハンの愛車の色と同じなのだ。
以上を踏まえて「Bushido」のMVを観てみよう。VERBALからTERIYAKI BOYZのカードをWAVYが受け継ぐシーンや、華やかなネオンとの対比のような赤提灯が並ぶオリエンタルなロケーションが使われ、終盤には「Cho Wavy De Gomenne」をセルフオマージュしてオレンジを強調して終わる展開には、気鋭のビデオ監督 Nasty Men$ahが、いかに重要なポイントを押さえているかがわかる。筆者としては狂気の沙汰のようなカーアクションシーンで韓国系アメリカ人であるハンが活躍することを考えると、Jin Doggのハードなトラップが劇場内に響き渡る興奮も妄想したのだが、やはりJP THE WAVYこそが適任だ。