『CHAOS CITY』インタビュー

今市隆二はなぜ80'sカルチャーに魅了されたのか 現代の視点からリバイバルした『CHAOS CITY』制作秘話を語る

 今市隆二が、ニューアルバム『CHAOS CITY』で大胆な変化を見せている。これまでR&B、ヒップホップの要素が濃かった今市隆二だが、『CHAOS CITY』では80年代リバイバルな楽曲を展開。日本のシティポップが海外でブームとなった火付け役である韓国のDJ・Night Tempoもリミックスで参加している。さらにアナログ盤のジャケットは、大滝詠一が1981年に発売した『A LONG VACATION』などで知られる永井博が描き下ろしているという豪華さだ。そして今市隆二は、80年代と2021年のセンスを絶妙にブレンドさせたサウンドを生み出した。ボーカルのスタイルを意識的に変化させているのも特長だ。ここまで大胆な変化を選んだ理由を今市隆二に聞いた。(宗像明将)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

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80'sサウンドを“新しい音楽”としてリバイバル

ーー『CHAOS CITY』のリードチューン「FUTURE LOVERS」のMVには驚きました。今回、空山基さんのセクシーロボットにインスパイアされたそうですが、サウンドはイントロから80年代志向、レトロフューチャー志向で大胆です。ここまで変化したきっかけはなんだったんでしょうか?

今市隆二(以下、今市):前作『ZONE OF GOLD』から1年半も経っているので、音楽シーンも変わってくるじゃないですか。自分のやりたい音楽も日々変わっていくなかで、今のポップミュージックの流れにある80’sがフィールして。それプラス、やっぱり音楽を作る側の人間としては、より多くの方に届けたいという想いがあるので、80’sをやることによって、上の世代の方には懐かしいと思ってもらえて、若い子たちには新しい音楽を届けられるかなと思ったのでやらせていただきました。

ーー今市さんにとって、『ZONE OF GOLD』以降、音楽の聴き方で最も変化したのはどんなことでしょうか?

今市:昔は結構偏った音楽を聴いていたけど、レギュラーラジオをやることによって、その壁がなくなって。もうジャンル問わず、いいなと思ったらクラシックでも何でも聴いています。80’sの音楽も今の自分にフィールしていいなと思って。LDHでもEXILE HIROさん世代の方々は、80年代のバブル時代をリアルに生きた人なので、そういう方の話を聴いてるとどんどん魅了されていきました。ディスコの雰囲気とか、その前にスーパーカーが止まっている感じとか、ちょっと海外っぽいニュアンスもあって、すごくキラキラしてるイメージなので、より80年代が好きになりましたね。

ーー1986年生まれの今市さんは、80年代のどんな楽曲やアーティストがお好きなんですか。

今市:スティーヴィー・ワンダーとかマイケル・ジャクソンあたりですけど、他にもいろいろな80年代の音楽を子供のときに聴いてたんですよね。だから掘っていくうちに、「この曲、この人がやってたんだ!」という発見もありました。Dead Or Alive「You Spin Me Round」も、ビジュアルが派手な人がやってたんだとか。『金曜ロードショー』で流れてた「Friday Night Fantasy」を聴くと、金曜の「映画をこれから見るぞ」っていう気持ちになりますし。もう30年、40年前になるんですけど、どこか懐かしくて、ちょっと切ない気持ちにさせてくれる哀愁やパワーが80年代の音楽にはあるなと思います。

RYUJI IMAICHI - “FUTURE LOVERS” Music Video

ーーいつもソウルフルで、タメのきいた深いボーカルを聴かせる今市さんが、「FUTURE LOVERS」ではあえてライトに歌っていることにも驚きました。

今市:今回のアルバムでも曲によるんですけど、「FUTURE LOVERS」に関しては、レイドバックする必要もないし、80年代のビートで続けなきゃいけないっていう感覚があったので、ライトに歌ってるかもしれないですね。それとは逆に「Highway to the moon」はグルーヴが命の曲だと思っているので、そこはレイドバックして、ちょっと後ろにモタせたりしながらグルーヴ感は大事にしましたね。

ーーその「Highway to the moon」は、プラックミュージックを通過したリズムがシティポップも連想させますね。今市さんは、80年代のシティポップを聴くことはあるのでしょうか?

今市:ユーミン(松任谷由実)さんとか山下達郎さんとか、今シティポップって言われているジャンルは好きでしたね。それが今、世界的にちょっとしたブームになっていて。「Highway to the moon」は、「FUTURE LOVERS」のデモを集めていたときに上がってきた曲だったんですよ。サビのトップラインがすごく良くて、エモさを感じたし、ボーカリスト的な観点で、一発聴いただけで「やろう」って決めましたね。

RYUJI IMAICHI - “Highway to the moon” Music Video

ーー「Talkin’ bout love」は80年代感の中に、トラップ以降のビートも鳴っています。サウンドの懐かしさと今っぽさのバランスは意識されましたか?

今市:もちろんそうですね。今回のテーマは80’sなのですが、昔の音楽をそのままやっても何も意味がないと思っているので。昔の音楽を今に落としこむことによって、新しい音楽としてリバイバルするっていう考え方にすごくこだわって、新しいものを常に探しています。「Talkin’ bout love」を最初に作ったときは、まったくこういうビートじゃなかったんですよ。もうちょっとR&Bっぽい2・4(2拍と4拍を強めたリズム)だったんですけど、いつも一緒に作っているチームとしっかり話して、「8分の細かいビート感で刻んでほしい、疾走感も出したい」と伝えたら、トラックメイカーからすると「それをやっちゃうと、ちょっといなたくなっちゃうかもな」っていうやりとりがあったんです。だけど、修正依頼して上がってきた一発目のトラックを聴いたときは、もう家でテンションが上がって喜びましたね(笑)。トラップというか、ちょっとドラムンベースっぽい要素もあるけど、すごく際どいラインを行っていて聴いてて心地いいし、弾ける感じもあって「Talkin’ bout love」はすごく満足できたなと思っています。

EXILE 20周年へのリスペクト

ーー「オヤスミのくちづけ」はバラードですが、これまで以上に優しい歌声が印象的です。

今市:2年前ぐらいに作った曲で、「歌謡バラード」というテーマで作っていたんです。歌詞の内容は、人が最期に天国に行く前に大切な人に会いに行くというストーリーなんですけど、そのストーリーの絵が前から自分の頭にあって、具現化したいと思っていました。その歌詞の世界観をやりたいなと思ったときに「オヤスミのくちづけ」の曲を作っていったら、自分が思い描いてたイメージにぴったり合って、歌詞もすぐ書けました。切ない話ではあるんですけど、こういうテーマの曲を届けることによって、家族でも友達でも、大切な人に対して少しでも優しくなれるかな、っていう気持ちを込めて作りました。

ーー「歌謡」というのは今回のコンセプトにあったんですか?

今市:もともと「オヤスミのくちづけ」を作ったときは、『CHAOS CITY』の曲として作っていなかったんです。でも、歌謡の部分では80年代に通じるものがあったので、今回収録しようということになりました。

ーー「I’m just a man」は、普遍的なR&Bバラードですね。

今市:「I’m just a man」は2年前の夏に作った曲で、思い入れがあるんですよ。YVES&ADAMSっていう作家チームと今、密になって制作してるんですけど、あの2人と一緒に初めて作った曲で。この曲はウェディングソングで、自分の幼稚園からの友達がその時期に結婚したので、「何かできることないかな?」と思って作った曲です。当時は3拍子も作りたかったし、いろんなことが合致しましたね。王道なウェディングソングじゃなくて、男目線で不器用なプロポーズを切り取ったシーンを描きました。この曲は緊急事態宣言になったときに、プリプロの状態で自分のInstagramで配信もしたんです。そこからトラックも豪華にして、よりしっかりと届けたいなという気持ちがありました。『CHAOS CITY』は架空の都市ですけども、現代のこともテーマにしているので、そういう意味も込めて今回収録しました。

ーー「オヤスミのくちづけ」も「I’m just a man」も2年前に制作しているし、すごく時間をかけていますね。

今市:そうですね。曲は基本的にずっと作っていくスタンスですし、作っても出しどころが決まっていなかったりするので、ストック楽曲はどんどん溜まっていきます。本当に好きな曲だったので、今回入れられて良かったと思います。

ーーストックが溜まっていくということは、制作ペースも早いんですね。

今市:そうかもしれないですね。グループもあるので大変ですよ。また今も作っています。

ーーなるほど、そうですよね。

今市:制作の時期は制作だけに集中できたら一番良いのですが、なかなかそうもいかないから。

ーーそして、「THROWBACK pt.2」は、EXILE「Your eyes only ~曖昧なぼくの輪郭~」(2001年)をサンプリングしたマイアミベースで驚きました。EXILEのデビューシングルをサンプリングするアイデアはどこから出てきたものでしょうか?

今市:まずはEXILEが20周年なので、それを盛り上げたいというところでした。自分がEXILEから夢をもらったのは、すごく大きな出来事なので。「R.Y.U.S.E.I.」を作ったSTYさんと一緒に今回作ったんですけど、STYさんもEXILEに思い入れがあって。というのも、STYさんが作家デビューした曲が、EXILE「最後の告白 ~Stay part.II~」なんですよ。お互いEXILEに対して思い入れがあって、ちょうど20周年だねっていうところで、「リスペクトを込めて曲を作ろう!」という話になりました。そういうときに海外の人は自国の有名なアーティストをサンプリングするけど、日本はそういう文化があまりないから、今回リスペクトを込めてEXILEの曲をサンプリングしたらいいんじゃないかなって。本当は別の曲もサンプリングして試したんですけど、やっぱりデビュー曲がいいなって。今の音楽も意識して、STYさんがマイアミベースにしてくれて、まったく違うジャンルの曲になるのも面白いなって。納得のいくトラックになっています。

ーー今市さんにとってのEXILEって、どんな存在でしょうか?

今市:自分の青春ですね。それにEXILEの存在がなかったら今の自分はないですし、原点ですよね。僕はEXILEのオーディションだから受けたんですよ。オーディションを受けるのは当時恥ずかしかったけど、EXILEは男が惚れるグループでもあったので受けたんです。だから本当に青春であり、原点っていう感じですね。

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