乃木坂46、4期生という“ユニット”が持つ未知の可能性 グループの文脈に依存しない確固たる個性

 その4期メンバー本来の勢いは、セットリスト中盤~終盤の流れで次々に証明される。「転がった鐘を鳴らせ!」で同曲が持っている抜けの良さを存分に示して以降、アンダー楽曲という枠組みを相対化するように響く「狼に口笛を」、オーディエンスで埋まっていたはずの客席へ降りてゆき、有観客仕様のライブであることを示す「ダンケシェーン」へと繋ぎ、ライブのスピード感を高めていく。

 さらに「2度目のキスから」に始まるユニット楽曲ブロックでは、4期メンバーが5つに分かれて新旧の作品を受け持つ。これら一つ一つのパフォーマンスには、既存楽曲を新たに作り変え、オリジナルメンバーの姿を投影するのではない再解釈の萌芽がことごとく生まれていた。ユニット楽曲のラストとなった「雲になればいい」は担当メンバーの声質の個性が肝となる楽曲だが、柴田柚菜、林瑠奈、弓木奈於によって新しいスタイルがうかがえたのも印象深い。

 もちろん、これらは既存作品の読み替えであると同時に、また確かに乃木坂46の足跡を正面からたどるものでもある。このユニット楽曲ブロックを締めくくる、全員による「悲しみの忘れ方」が示すのは、やはり彼女たちが乃木坂46の基調を強く受け継いでいるということだ。グループが歴史を重ねていく軌跡や作品が継承されていくさまは、これらのスタンダードな表現によってこそ最も浮かび上がる。こうしたポテンシャルをごく自然に開花させつつあるのが、2021年現在の乃木坂46・4期生である。

 ライブ本編の最終ブロックは筒井あやめをセンターに据え、現在乃木坂46全体でも随一の迫力を誇る作品「日常」、さらに田村真佑・弓木奈於Wセンターによる「今、話したい誰かがいる」で幕を開ける。興味深いのは、〈4期生〉という単位でこれらの曲をパフォーマンスするとき、確実に乃木坂46のカラーを継ぎつつも、選抜/アンダー楽曲といった従来の役割を超えて、グループがもつ既存の型とは違う、新鮮な作品の見せ方を提示していたことだ。乃木坂46という組織全体のバランスに新たな光を当て、問い返す可能性さえ秘めていた。

 ここから4期生楽曲を連続して畳み掛ける最終盤は、すでに彼女たちの大きな自信を感じさせ、クライマックスに相応しい厚みをみせる。この一年ほどの乃木坂46全体にとって、代表曲のひとつと言っていい「I see…」のフルサイズ披露を中心として、4期生の表現力の進化が最も明快に見て取れた。また、アンコールでは6月発売の27thシングルに収録される4期生楽曲「猫舌カモミールティー」が初披露され、田村真佑をセンターに4期生の表現がさらに柔軟さを増していくことを予感させた。

 新進メンバーたちのパフォーマンスの進展を見せながら、グループ全体が持つ型に地殻変動さえ与えうる、〈4期生〉というユニットの存在感と可能性が強くうかがえる公演になった。

■香月孝史(Twitter:https://twitter.com/t_katsuki)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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