桑田佳祐、「真夏の果実」「希望の轍」生み出した音楽映画『稲村ジェーン』 ポップミュージックの原点とも言える時代の“熱気”

 桑田はこの映画のために数多くの新曲を書き下ろしたが、特筆すべきはやはり、主題歌「真夏の果実」、挿入歌「希望の轍」だろう。サザンオールスターズ30周年を記念したライブ『真夏の大感謝祭LIVE』の際のリクエストで、1位(「真夏の果実」)、2位(「希望の轍」)を獲得するなど、ファンの間でも圧倒的な支持を得ている楽曲だ。

 夏の切ない情景とともに、儚くも美しい夏の恋を描き出すバラードナンバー「真夏の果実」、そして、軽やかな夏の風を想起させるサウンド、〈遠く遠く離れゆくエボシライン〉からはじまるサビの解放感がリスナーの心を捉えて離さない「希望の轍」は言うまでもなく、映画『稲村ジェーン』がなければ存在しなかった。茅ヶ崎の空気をたっぷりと感じさせる音像、古き良きポップミュージックをアップデートさせたソングライティング。サザンオールスターズの歴史に刻まれるこの2曲は、『稲村ジェーン』の世界観と強く結びついているのだ。

 もう一つ記しておきたいのが、『稲村ジェーン』の音楽監督であり、「真夏の果実」「希望の轍」をはじめ、劇中のほとんどの楽曲のアレンジを桑田と共に手がけた小林武史。「みんなのうた」のアレンジで初めてサザンの楽曲制作に参加した小林は、『稲村ジェーン』のサウンドトラックで才能を発揮。その後もシングル「シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA」「涙のキッス」など数多くの楽曲に参加し、90年代前半のサザンを語るうえで欠かせない存在となった。

 本来であれば、2度目の東京五輪の翌年にリリースされるはずだったBlu-ray、DVD版『稲村ジェーン』。90年代当時を体験している人はもちろん、その頃は生まれていなかった30代以下の若い音楽ファンも、この機会にぜひ桑田佳祐が手がけた唯一無二の“音楽映画”を味わってみてほしい。そのとき貴方は、日本がもっとも元気で前向きだった時代の空気や、この国のポップミュージックの原点とも言える時代の“熱気”を体感することになるはず。その根底にあるのはもちろん、サザンオールスターズというバンドの奥深さ、そして、多様で濃密な大衆音楽を体現し続ける桑田佳祐という才能そのものだ。

稲村ジェーン 特設サイト

関連記事