「Man Say Bien」インタビュー
ぜったくん、鼻炎×ラブソングの「Man Say Bien」はどう生まれた? ユニークな発想の原点を探る
春といえば花粉症をはじめ、なにかと“むずむず”する季節。そんな中、4月9日に配信リリースされた、ぜったくん最新曲「Man Say Bien」には驚かされた。“慢性鼻炎”と、スペイン語での“bien(良い)”=“お大事にどうぞ”をかけた、すべての“詰まっている”人たちへ捧げた甘く切ないラブソングだ。
さらに、Kawaii Future Bassを取り入れたキラッキラなポップセンスの痛快さ。日常をゆるふわファンタジーで表現する町田からやってきたラッパー&トラックメーカー、ぜったくんによる新境地の誕生。あの子が泣いている理由はわからない。でも、慢性鼻炎のせいにしてしまおう。だけど、本当は泣いている理由に気がついているんじゃないの? なんて、胸キュンなストーリーテリング。お楽しみあれ。(ふくりゅう/音楽コンシェルジュ)
〈左がつまったから かんだら右がつまった〉は、いろんなことに当てはまる
ーーぜったくん、作品のコンセプトやリリックから伝わるユニークさ、サウンドやライムとともに醸し出されるほんわかした世界観含め唯一無二な方だなぁと思っていました。飄々としていながらも、実は芯がありそうな感じで。
ぜったくん:ありがとうございます。
ーーこれまでの活動でターニングポイントになったのは、音楽レーベル・Lastrum主催の新人オーディション『ニューカマー発見伝』(2018年開催)にてグランプリを受賞したことですよね。どんな気持ちでした?
ぜったくん:その時期、オーディションを幅広く受けていたタイミングだったんです。自分では、セルフプロモーションでSNSを使うことが得意ではなかったので、宣伝面などサポートを受けたいと考えたときにオーディションで見つけていただくことが先決だと思いました。でもいざ優勝したときはびっくりしましたね。電話で「優勝です!」と伝えられたときも、動揺で「うっす!」くらいしか答えられませんでしたから(笑)。
ーーははは(笑)。ぜったくんらしいですね。もともとラップをやろうと思ったきっかけは?
ぜったくん:ラップを聴き始めたのは中学生の頃で、RHYMESTERやKGDR(キングギドラ)を知っている友人の影響でした。RIP SLYMEを好きになって日本語ラップばかり聴いていましたね。だんだんとのめり込んで高校生の終わりくらいに自分でもラップを書くようになりました。友人宅の押入れで録音したのが初めてのレコーディングですね。その後、大学でギターを始めてヒップホップから少し離れていたんですけど、バンドが上手くいかなくて1人で音楽活動をやろうと決めて、もう一度原点であるラップに戻ってきました。
ーー昔からSMAPもお好きだそうですね。
ぜったくん:SMAPは母親が何度かライブに連れていってくれた思い出があって、ほんと雲の上の存在だと認識しています。
ーー世が世なら、SMAPへ楽曲提供などしてみたかった? 似合いそうな気もするんですよね。
ぜったくん:そんなチャンスがあったのならばぜひしてみたいですけど、恐れ多すぎて一度心の整理がついてから受けたいです(笑)。自分の楽曲に「温泉街♨︎ feat.kou-kei」という曲があるんですけど、何度も聴いているとSMAPの楽曲っぽさを感じる部分があって、細かいところに自分が聴いてものの影響が出ていたりして繋がっているのだと改めて認識させられました。
ーー最新作の話になりますが、4月9日に新曲「Man Say Bien」がリリースされました。“慢性鼻炎”をテーマに“ムズムズする詰まった感触”を恋愛での体験と重ねたラブソングに昇華されていました。キラキラしたサウンド感、時代を捉えたテーマ性による言葉のミクスチャーセンス。発想が素晴らしいですよね。
ぜったくん:最初タイトルで思いついていたのは「慢性鼻炎」のままだったのですが、少し意味がわかりづらく唐突だなと感じて。“Bien”で調べてみたらスペイン語で“大丈夫”や“良くなる”があって、そこから“お大事にどうぞ!”という意味も込めてダブルミーニングの楽曲名「Man Say Bien」になりました。
ーー自分も鼻炎持ちなので共感できるんだけど(笑)、プラスアルファ、いまの時代に蔓延する様々な意味でのむず痒さと鼻炎を掛けたテーマ設定っていうのがすごく良い。流行り言葉“ぴえん”にもかかってくるし。
ぜったくん:紆余曲折あったんですよ。最初は鼻炎あるあるを書き出していたんですけど、それだけだと自分らしさがあまり表現できていないなと感じて、もっと視野を広げて違うことを書こうと思いました。レコーディングの3日前にすべて書き直して、今の形になったんですけどとても気に入っていますね。
ーー“表現者としてのぜったくんらしさ”を言葉で表すとどんなことになりますか?
ぜったくん:日常から多くの人が感じているあるあるのような共感できる事象を、違うニュアンスで言葉にしつつ楽曲で繰り広げていくことが自分らしさかなと感じています。
ーー本作の歌詞で気に入ったフレーズは?
ぜったくん:最初のフレーズ〈左がつまったから かんだら右がつまった〉ですね。この曲、どちらかを選んだらどちらかを捨てなきゃいけないというテーマになっていて。鼻水の話なのですが、他のどのようなことに対しても当てはまる考え方、課題だと思っています。
ーーぜったくんは自分でラップを書きながらトラックメイクも行うじゃないですか。そのスキルは、ストーリーテラーとして一体化した作品を生み出す上で大きなポイントですよね。
ぜったくん:たしかに、自分で編曲まで手がけているからこそ何度も修正を加えて納得がいくまで作り上げることができますね。期限を決めて作ることが一般的ですけど、自分自身で極限まで作り上げることに集中するスタイルをとっています。なかなかどこが完成形なのかジャッジはしづらいんですけどね。なので、締め切りがないと完成できないかも。あと、バンドで失敗した経験から1人で最後まで音楽を作れなければという意識があったので。DTMを使いこなせるようになったのも一つのポイントですね。
ーー新曲「Man Say Bien」は、ゲームセンスあふれるキャッチーかつ遊び心でいっぱいのトラックとなりました。サウンドはどんな感覚で作っているんですか?
ぜったくん:たとえば、今回の楽曲では最初に入るサウンドFXがあるんですが、あのサンプルはArcadeから見つけてこれを使いたいと思い、どの曲に合うのかを考えて、合いそうな曲を作ったりもします。その内、自分っぽさが出てくるようになりました。サウンド感は、Kawaii Future Bassを意識していますね。
ーーそこは前作「Midnight Call feat. kojikoji」であったり、Tomgggを迎えたリミックスバージョンではっきりと提示されていましたよね。
ぜったくん:全部というわけではないのですが、Kawaii Future Bassは自分らしさとして機能していると思いますね。
ーー曲はすぐに作れるタイプ?
ぜったくん:作曲はアレンジまで一貫して行うので、けっこう時間はかかります。せっかく作った楽曲を多方面で活かす方法をもっともっと考えていきたいと思っています。