歴史が動いている感覚があるーー4s4kiが世界に鳴らすHyperpopの挑戦的な試みとポップネス
時代の駒を進める渦中の出来事というのは、意外にも、気付かれることなく隙間風のように私たちの間をすり抜けていく。日々の通俗的で雑多な事柄の狭間で、歯車と歯車が擦れる音にかき消されそうになりながら、私たちの生活の生々しい息づかいとともにひっそりと吹き去っていく。後世、出来事は“発見”され、意味性を付与される。過ぎ去った冷たい風はのちに輪郭を与えられ、手触りを装備し、体温のある造形物として描かれることとなる。私たちはそれを、歴史と呼ぶ。
歴史が動いている感覚がある。渦中にいるのは、2021年3月11日、慌ただしい年度末のさなか開催された初のワンマンライブでメジャーデビューが発表された4s4ki(アサキ)である。今回FUJI ROCK FESTIVAL’21の出演も決まった彼女が、その舞台へ向けて夏までにZheaniやPuppet、Smrtdeathら海外勢とのコラボ作品を立て続けにリリースするというニュースは大きな期待感を抱かせた。誰とともに作品を生み出すか――コラボレーションとは、思想でありメッセージである。「Sugar Junky」がSpotify公式プレイリスト「hyperpop」に選曲されたあたりから海外のリスナーが急激に増えた4s4kiのコラボ相手は、他国のミュージシャン、しかも彼女と近い距離にいるHyperpop~エレクトロ~トラップ周辺で活躍するアクトで固められていることが分かった。その絶妙な距離感もさることながら、客演アーティストのそれぞれが4s4kiの音楽に惹かれ自らアプローチをしてきたという点も今の彼女の勢いを物語っている。
4月14日、第一弾として「FAIRYTALE feat. Zheani」が届く。フィーチャリングされたZheaniの持つ攻撃性が4s4kiの魅力をさらに引き上げ、凶暴な音楽として成り立たせていることを確認する。しかし、その凶暴さはこれまでの4s4kiのディスコグラフィーにあった楽曲とは微妙に異なり、いわゆるHyperpopの昨今の動きを睨みつつ新たな軌道を描き始めていることに気づく。
シーンは拡散し、新たな動きが生まれている。2021年に入り、Hyperpop的アプローチは全世界で瞬く間に広がり、異ジャンルの再解釈という試みを生んだ。underscoresはポップパンクをザラザラしたタッチで料理し、QuadecaやmidwxstはエモラップをアップデートするレシピをHyperpopから得ているように見える。Lil Marikoは、2021年という時代にスクリーモを“アリ”なサウンドとして聴かせる。Slayyyterはギザギザなリズムを下敷きにポップスへと昇華させる。いまHyperpopは、多くの偉大なジャンル音楽に、新たな息吹を吹き込む魔法のような力を発揮している。
そのような状況下で4s4kiの「FAIRYTALE feat. Zheani」の凶暴性に耳を傾けると、突如引用されるドラムンベースに加え、The Prodigyを彷彿とさせるようなフックでの高速スネアが楽曲に強靭な筋力を与えていることが分かる。果たして、これら筋繊維を構成している要素は90年代のジャングル~ビッグビートなのだろうか。同じくHyperpop文脈にあるColliding With Marsの新作『LIGHTBRINGER』は2ステップのリズムを下敷きにしていたが、あらゆるアーティストがHyperpopの懐の広さに依拠しながら視座高く様々なジャンルの音楽をミックスする中で、4s4kiの新曲はそれら挑戦的な試みと共振しながら世界へ向けて鳴り響いている。
そして、この曲もまた“ポップ”であることが重要なのだ。とめどなく飛び交うノイズとループするグリッチの狭間をすり抜けるように漂うポップネス。この隙間風は、開かれたカルト性である。4s4kiは〈あれれ魔王かよ/失敗の転生/なのに賛美の声〉と歌う。〈これも魔法だよ/これも魔法だよ/これも魔法〉と繰り返し歌う。魔法がかかった風は、世界に向かって吹く。いびつな音楽――弾き語りから飛び出しHyperpopを飲み込み、今また新たな進化を遂げようとしている4s4kiの音楽――は、失敗のような顔つきで大衆の目を欺き吹き荒れる。なのに――讃美の声を得る。いつか、私たちはそれを、歴史と呼ぶ。
■リリース情報
「FAIRYTALE feat. Zheani」
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