BTS『BE (Deluxe Edition)』全曲レビュー:過去作のどれとも異なる、生活に自然に溶け込むエフォートレスなアルバム

 EST(北米標準時)11月20日の0時にBTSの新作『BE (Deluxe Edition)』がリリースされた。新型ウイルスCOVID-19の世界的流行によるライブコンサートツアーの中止を受け、て今年の上半期に急遽制作が決まったアルバムだ。制作準備段階のメンバー間会議の様子は5月に公式YouTubeにて公開されていた(参考記事)。

2004** BTS (+ENG)
『BE (Deluxe Edition)』

 リード曲となる「Life Goes On」は、先述の会議でRMが「life goes on(人生は続いていく)やcarry on(続けていこう)という言葉がある。前回のアルバムタイトル(曲)が『ON』だったけど、何かしら『MOTS(MAP OF THE SOUL)』シリーズから反映させたい。世の中で何が起こっても人は生き続けるし生活は続いていく。そういう日常についてのことを考えると“life goes on”というスローガンがいいんじゃないだろうか。そういうものが求められてると思う」と語っていたことをダイレクトに反映したような楽曲だ。パンデミック下の環境変化による閉塞感とそれでも続く日常を歌う歌詞を反映したようなMVで映されるのは、それまでのジェットセットな生活から一変したメンバー達の「生活(life)」の姿だ。歌詞の多くの部分が彼らの母国語である韓国語で書かれているのも「暮らし」を感じさせる。韓国語の曲ではあるが、ボーカルディレクションやラップのトーンは欧米のトレンドポップスっぽく、楽曲のフィーリングは日本オリジナル曲で表現してきた各メンバーの生身のボーカルを生かす方向性に近い。BTSの過去のクリエイションの道程が無理なく溶け込んでいるような曲でもある。

BTS (방탄소년단) ‘Life Goes On’ Official MV

 “Like an echo in the forest/1日が帰ってくるだろう/何事もなかったかのように”のフレーズは、アイルランドの哲学者ジョージ・バークリーの「人知原理論」の一節をリファレンスしていると思われる。この本の中での「誰もいない森で木が倒れたら、音はするのだろうか」という問いについて「音はしない」とバークリーは結論付けている。存在することとはすなわち知覚されることであり、私たちが認知しないものは存在しないものということだ。つまりは「聴く人がいなければ自分たちの音楽は存在しない」ということで、しかしそんなことすらも関係なく続き繰り返すこの日常の虚しさと同時に、不思議と落ち着きのようなものも感じさせる。「Life Goes On」のMVの後半にはステージ上で衣装を着て歌ってはいるが観客の姿はなく、現状はエンターテイナーとして観客の前でリアルにパフォーマンスすること、そのために世界中あらゆる場所を飛び回るような人生のステージを喪失した状態と言えるが、一方である意味では結果的に、自分たちが実際に住んで暮らす場所での「生活」を取り戻したとも言える。思いもかけない形で戻ってきた暮らしと共に、今の自分たちの出来ることをしながら人生を過ごしていこうという、諦観にも似た落ち着きを感じる。

 2曲目の「Fly To My Room」はSUGA・J−HOPE・V・JIMINのユニットによるR&Bナンバー。今の外出や集会が難しくなった環境の中で家の中の暮らしと向き合い、自分の部屋の中を旅する「おこもり」の歌だ。ゆったりとしたテンポは、パンデミック下でゆっくりと流れていくように感じられる時間の流れを反映しているかのようだ。

 3曲目の「Blue & Grey」は元々Vのミックステープに入れる予定だった曲で、BTSが都市を離れた郊外で休暇を過ごすドキュメンタリー『In The SOOP』にも登場する。Blueは正体のわからないネガティブな感情を表す色の象徴で、GreyはRMが同様の感情を表す時によく使う色からVがインスパイアされたという。名声を得た芸能人やアーティストが陥りがちな「燃え尽き症候群」を気づけば側に迫っている灰色のサイに例えて、「ネガティブな感情とも一緒に生きていく」と語るような歌だ。

 JUNG KOOKの誕生日でもある9月1日、米国ビルボードチャートHOT100で初めての1位をとった日の様子を収録した「Skit」(『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』にもビルボード・ミュージック・アワードでトップソーシャルアーティストを受賞した時のSkitが収録されていた)の後は一転してファンキーで明るい「잠시(Telepathy)」。V LIVEでの解説によれば、元々SUGAが作ったもののボツになっていた曲で、『In the SOOP』の時に聴いたメンバーが気に入って収録することになったという。全世界のファンに会うことができない切ない現実と、「いつも一緒にいるということを(テレパシーのように)感じている」ことを描いた楽曲だ。