吉澤嘉代子は“魔女”時代を終えてどこに向かう? 金子厚武が紐解く、デビュー5年で遂げたSSWとしての明確な変化

 そして、日本クラウン時代の集大成とも言うべき一曲が、「残ってる」である。朝帰りの女の子を描写したこの曲は、リリース前からライブで何度も歌われ、満を持してリリースされた本人にとっても想い入れの強い一曲で、〈風邪をひきそうな空/一夜にして 街は季節を越えたらしい〉という季節の移り変わりの描写が素晴らしく、「サービスエリア」の編曲も手掛けるゴンドウトモヒコによるフリューゲルホルンも印象的な名曲。この曲が年明けの『 関ジャム 完全燃SHOW』や『SONGS』で取り上げられ、彼女の知名度をもう一段階上げることに繋がったのは、とても重要な出来事だった。

 ちなみに、この『関ジャム』と『SONGS』で吉澤とともにピックアップされたのがあいみょんで、この2人はキャラクターやアウトプットこそ異なるものの、現代のシンガーソングライターとして、リンクする部分が多いように感じる。あいみょんもまた優れたシンガーであると同時に「言葉の人」であり、やはり「等身大の自分」を歌うのではなく、曲ごとに主人公を作り上げる。自らのパーソナルと楽曲を切り離し、あくまで作品で勝負しようとするスタンスは、とてもよく似ている。また、それぞれフォークをルーツのひとつとしながら、吉澤は横山裕章、ゴンドウトモヒコ、石崎光、カンケなど、あいみょんは田中ユウスケ、関口シンゴ、トオミヨウなど、アレンジャーともに楽曲を作り上げることによって、「懐かしくも新しい」を体現していることも、現代的な作り手だと感じる部分だ。

 「残ってる」を「日本クラウン時代の集大成」と書いた理由として、その後に発表されたシングル曲「ミューズ」が『新・魔女図鑑』に収録されていないことを挙げておく。「人生の傷跡を肯定できるような歌」として、戦う女性の美しさを称えるこの曲は、「魔女修行時代」をルーツとする吉澤の作家性を引き継ぎつつ、その目線が自分自身から他者へと明確に開かれていて、この変化はサービスエリアの恋人たちを描いた最新曲「サービスエリア」へと繋がるもの。「ミューズ」であり、その後に出たアルバム『女優姉妹』は、吉澤にとっての新たな始まりであると同時に、過渡期的な作品だったと言えるかもしれない。

 「ミューズ」の中で特に象徴的なラインが〈魔法は永遠じゃない 大切なとき思い出せない でも/言葉は永遠だって 何も変わらず 生きているって〉という部分で、彼女はこの曲で魔女時代に区切りをつけ、言葉と共に戦っていくことを改めて示している。『新・魔女図鑑』のジャケットには、『魔女図鑑』で描かれていた魔女と思しき6人の姿は消え、きらりと輝くステッキのみが残されているが、これは「私は次へ進むけど、この魔法をあなたのために置いていく」というメッセージであるかのようだ。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』

■リリース情報
吉澤嘉代子
コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』
2020年11月25日発売
初回限定盤(CD+DVD)¥5,000+税 
通常盤(CD)¥2,727+税

<CD収録内容>※初回盤・通常盤共通
01. らりるれりん
02. 未成年の主張
03. 美少女
04. 月曜日戦争
05. 化粧落とし
06. ケケケ
07. 恥ずかしい
08. 綺麗
09. よるの向日葵
10. 残ってる
11. がらんどう
12. 東京絶景
13. 泣き虫ジュゴン
14. ストッキング
15. movie
16. えらばれし子供たちの密話
17. 地獄タクシー
18. ぶらんこ乗り

<DVD収録内容>※初回限定盤のみ
女優ツアー2019
2019年3月17日 昭和女子大学 人見記念講堂
◆魔法の鏡
・鏡
◆物語の主人公
・怪盗メタモルフォーゼ
・屋根裏
・えらばれし子供たちの密話
・月曜日戦争
◆恋する主人公
・キスはあせらず
・アボカド
・洋梨 feat.弓木英梨乃
・恥ずかしい
・よるの向日葵
・残ってる
・真珠
◆美しい主人公
・必殺サイボーグ
・シーラカンス通り
・ちょっとちょうだい
・地獄タクシー
◆魔法の鏡の正体
・女優
・最終回

・美少女
・洋梨 feat.たなかみさき
・雪
・ミューズ

吉澤嘉代子 オフィシャルサイト
吉澤嘉代子Twitter

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