音楽性を広げながらも、ファン心理を踏まえた楽曲配置。そして来年へ。

　オールドスクール・ヒップホップ路線の「Sugar Step」や、海外ポップスのトレンドであるディスコ／R&Bを意識した「Arms Around Me」は今回の楽曲群の中でも、これまでのSexy Zoneが持つ音楽性をさらに広げていくような挑戦的な取り組みとなっているが、他のカップリング曲は自らの良さを完璧に理解した上で、ファンが求めるものを的確に撃ち抜くような実にSexy ZoneらしいJ-POPと言えるだろう。

　初回限定盤Bに収録された「Bad Girl」はジャニーズらしい歌謡曲テイスト全開の華やかなアレンジで、どれだけ裏切られても恋人への想いを決して止めることなく相手を全肯定する、過剰なほどに一途な愛情を歌った極端で最高なラブポップソングである。2020年に「本気」と書いて〈マジ〉と読む歌詞を堂々と歌い上げられるのは彼らしかいないだろう。大量に仕込まれたキメの数々と飛び跳ねたくなるような四つ打ちのサビのリズム、そしてメンバーのファルセットの多用など何度も聴きたくなるような仕掛けが全編に仕掛けられており、本作屈指の中毒性を誇っている。

　「Bad Girl」が収録されているのは3タイプのうち、初回限定盤Bのみなのだが、「Sugar Step」と「NOT FOUND」のMVを収録したDVDが付属する初回限定盤Aが彼らのパフォーマーとしてのクールな側面を打ち出した内容であるとすれば、本楽曲と『Sexy Zone特別企画「そうだ！うまく行かない時はお肉にかぶりつきえがおになろう！リフレッシュBBQ！｣』のDVDが付属する初回限定盤Bは彼らのキャラクターとしての魅力を打ち出した作品と言えるだろう。単に3種類に分けるだけではなく、それぞれに方向性を持たせることで、音楽性の幅を広げながらもファンの期待にはしっかりと応えるという、作り手のこだわりを感じ取ることが出来る。

　また、通常盤に「Arms Around Me」と併せて収録された「約束」は、ある意味では同楽曲とは正反対に位置するような、優しく穏やかで、それでいてエモーショナルなJ-POPバラードだ。ライブの最後に大団円として歌われても全く問題ないと思えるほどの名曲である。「Arms Around Me」のように海外を意識した楽曲というのは、ファンの視点で見た時に、グローバルでの成功を期待する一方で、どこか自分たちから遠いところに行ってしまうのではないか...…という不安を抱かせてしまうこともある。〈一番近くで 僕だけを見ていて〉というキラーフレーズが炸裂する「約束」は、まさにそういった不安を打ち消してくれるような、ファンの目を正面から見つめるような一曲だ。

　来年、2021年はついにSexy Zoneが結成10周年を迎える記念すべき年だ。音源リリースも活発に行う彼らは、2018年から3年連続でアルバムをリリースしており、このままのペースで行けば、来年にはアニバーサリーイヤーを飾る新作がリリースされることが期待される。もしかしたら、松島が参加する3年ぶりのアルバムとなるかもしれない。今や、日本の男性ポップグループの代表格へと成長した彼らだが、あらゆる意味で、次の作品は相当に気合の入った作品になるだろう。今年リリースされた、あまりにも充実したカップリング曲群はその布石でもあるのだ。Sexy Zoneが見せる次の世界を心から楽しみに待ちたい。

■ノイ村
海外のポップ／ダンスミュージックを中心に愛聴。普段は一般企業に勤めているが、SNSやブログにおけるシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。
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