Rhythmic Toy Worldの音楽は日々の希望であり続ける 3カ月連続配信シングルで歌う“同じ時間を生きている感覚”

Rhythmic Toy World「CTOC」

 8月1日にリリースされた「CTOC」は、変拍子を取り入れたパーカッシブなリズムが楽曲全体をリードする軽やかな楽曲だ。淀んだ気持ちを一気に掬いあげるような心踊る陽性のバンドサウンドにのせて、物語のように紡がれる歌詞がおもしろい。登場人物は「僕」と「名前のない少女」。夢の中で少女と会話を交わすことで、僕は最後にその正体に気づくが、それが何なのかという解釈は、リスナーへと委ねられることになる。個人的に感じたことを書かせてもらうならば、この曲はRhythmic Toy World流の音楽讃歌だと思った。それも、とても遊び心のある音楽讃歌だ。ドレミファソラシドの音階を一つずつのぼり詰めていくサビ。今回の3カ月連続リリースで貫いてきたアルファベット4文字のタイトルで、“シートゥシー”と読ませる謎解きのような仕掛けをヒントに聴いていくと、この曲からは、「なぜ歌が生まれるのか」「歌い続けていくことにどんな意味があるのか」「音楽とは何なのか」という、作り手の思想が浮かび上がってくるような気がした。

 Rhythmic Toy Worldが鳴らす音楽は、ソングライターである内田のなかに渦巻く、未来への情熱、自分自身への葛藤、仲間への感謝といった感情を起点にすることが多い。インタビューでも、「歌詞は全部ノンフィクションでいきたい」という発言をしているとおり(参考:SPICE)、自分の体験を軸に音楽を生み出すタイプだ。そこに、須藤のベース、磯村のドラム、岸のギターが合わさることで、Rhythmic Toy Worldの音楽が出来上がる。そうやって、たったひとりの人間に芽生えた小さな感情だったはずの音楽は、やがてライブハウスで響きわたり、誰かの生きる糧になることもあるだろう。今、音楽はその役割を最大限に果たすことは難しい時期にある。だからこそ心から心へと想いを伝播していく自分たちの音楽の在り方を改めて見つめ直すことで、この歌が生まれたのではないだろうか。「CTOC」は、「音楽とは何なのか」という問いへのリズミックからの回答だと思う。

 多くのアーティストがそうであるように、Rhythmic Toy Worldもまた、今年の2月以降すべてのライブがキャンセルになっている。昨年メジャーからインディーズへと活動の拠点を戻し、自分たちに似合ったやり方でバンドを続けていく決断を下したリズミックにとって、そのもっとも重要な基盤であり、これまで何よりも大切にしてきたライブハウスに立てないことは、かなりの痛手だったはずだ。彼らはよくライブハウスやそこに集まるお客さんのことを「宝物」だと言う。音源を出すときも、それをライブハウスで歌い続けることができるかを前提に考えることが多いと話してくれたこともある。そんなRhythmic Toy Worldが、バンド史上初めてライブがまったくできない状況下で作り上げたのが、今回の配信曲だ。聴けば聴くほど、その素朴さは必然だと思う。今は同じ空間に立つことは適わないからこそ、せめて同じ時間を生きている感覚だけは共有したい。この3曲にはそういう想いも託されているのではないだろうか。

■秦理絵
1982年生まれ。音楽ライター。販促誌、ロッキング・オン、Webメディアなどの編集部を経て、2014年夏からフリーランスへ。主な執筆媒体は『ROCKIN'JAPAN』『B-PASS』、SPICE、音楽ナタリー、Skream!など。

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