2ndアルバム『ノーメイク、ストーリー』インタビュー
杏沙子が語る、シンガーソングライターとして表せるようになった“本当の気持ち”「聴いてくれる人ともっと近くなれたら」
これが私だって言えるアルバムを作れた
ーー5曲目「見る目ないなぁ」は、これぞキラーチューン。「クレンジング」もそうだけど、杏沙子さんと同世代の女性の心に刺さりまくる曲だと思います。失恋してカラオケでこれを歌う女性がきっと増えるんじゃないかな。
杏沙子:号泣しながら歌ってほしいですね(笑)。
ーーどんなふうにできた曲なんですか?
杏沙子:実際に「見る目ないなぁ」って泣きながら家に帰ったときに出てきた言葉で、実話なんですけど。完全に彼のせいで別れることになったんだったらこの言葉は出てきてなくて、要するに自分にもどっか非があるというか、「なんで私ってこうなんだろ」って自分に呆れてる気持ちからこの言葉が出てきてると思うんですよ。だから、自分に呆れすぎて思わず笑っちゃうみたいな感覚もある。それで、悲しい気持ちの反面、逆に「曲にしてやるからな!」みたいな気持ちがそのときに生まれまして(笑)。
ーーこんな思いをしたんだから、せめて曲にしてやるぞと(笑)。
杏沙子:そう(笑)。でもそのときすぐには曲として完成させられなくて。そのまま書いたらちょっとぶっちゃけすぎかなって思って、しばらくそのままにしておいたんです。けど友達の恋愛話を聞いたり、失恋した先輩の話を聞いたりしているなかで、やっぱりみんな「あいつ最低だよ」とか言いながら自分のことも責めたり呆れてたりしていて、“あぁ、こういう気持ちになるのは私だけじゃないんだ”って思って、で、形にしました。
ーー6曲目は「outro」。宮川弾さんの手によるメロディと山本隆二さんのアレンジは魔法のようですね。映像喚起力がすごくあって。
杏沙子:「半透明のさよなら」でご一緒した宮川さんにメロディをいただいたんですけど、あの曲と一緒で、聴いたら映像が頭のなかに広がっていくんですよね。なので、「半透明のさよなら」と同じようにいただいたメロディから広がった映像を文字に落とし込んで作詞しました。ただ「半透明のさよなら」は映画を撮るような感覚で書いたんですけど、これは実際に自分が見た景色とそのときの気持ちを重ねて書いたんです。雨が降っていて、隣の部屋からピアノの音が聞こえていて……。始まりと、あと最後にも雨の音を入れたいってことは、自分から言いました。
ーー7曲目「交点」は唯一、幕須介人さんが作詞・作曲・編曲の全てを手掛けてます。
杏沙子:幕須さんの書く曲が私は本当に大好きで、今回も1曲書いていただきたいとお願いしたんです。どういう曲がほしいとか何もリクエストしないでお願いしたら、これが送られてきて……。
ーー決して明快なポップソングではなく、聴くときどきによってイメージが変化していきそうな奥行きと深みのある曲ですよね。どうして幕須さんはこの曲を杏沙子さんに歌わせたかったんでしょうね。
杏沙子:どうしてなんだろう……。「この曲を今歌えるのは杏沙子さんしかいない」って言ってくれたんですけど、それがどうしてなのか未だに私にはわからないんですよ。この曲が送られてきて聴いてとき、私に太刀打ちできるんだろうかって不安になったのを覚えてます。
ーーどう解釈してどう歌うべきか、時間をかけて探っていったんですか?
杏沙子:しばらくどういう曲なのかって自分なりにいろいろ考えてましたね。でもそんななかで幕須さんが「ある時期は一緒にいたりして同じ気持ちを共有していた人が、今はどこで何をしているかわからないってこと、あるよね」ってボソっと言って、あ、この曲のことを言ってるんだってハッとして。そのときに、曲の内容を説明するみたいに歌おうとするのは違うんだな、今の自分の歌いたいように歌えばいいんだなと思ったんですよ。で、実際レコーディングしてみて、これは完成のない曲だなとも思って。ライブを重ねたり、年齢を重ねるにつれて、歌い方も変わっていくんだろうなってすごい思ったんです。
ーー確かに。正解のない曲というか、そのときどきで正解が変わっていく。そのときどきの正解をずっと考え続けて歌っていけそうな曲ですよね。
杏沙子:そうですね。私自身がこの曲に育てられていくんだなって思いました。
ーーどこかコロナのこの世界に合う曲のようにも感じました。〈未来を思えば思うほど 時の流れが憎らしくなる〉とか〈大事にしてたはずだったものが いつの間にか淡く 遠ざかっていく〉とか。
杏沙子:ああ、そうですね。うん。そう思います。
ーー8曲目「東京一時停止ボタン」は、声のトーン含めてほかの曲と少し感触が違って聴こえました。
杏沙子:これだけずいぶん前に書いた曲なんですよ。2018年のデビュー前からあって、最初のレコーディングでこれとあと何曲かを録っていたんです。もともと親友が夢を諦めたことがきっかけで書いたんですけど、その頃はまだフィクションを書くのが好きで、これだけちょっとリアルすぎるかなってことで発表しないままとっておいて。で、今こそこの曲を出すモードだなと思ったので、今回のアルバムに入れました。
ーーここで描かれている東京は、〈好きだったものを見失わせる〉街であり、〈人の夢食って生きる街〉なわけですが、杏沙子さんにとっても東京はそういう街?
杏沙子:この歌詞は当時、親友が言っていた言葉を拾って、それを膨らませながら書いたんですけど、彼女にとってはまさにリアルな感情だったし、それが自分のことのように思えるときもあったりしましたね。必死で自分の夢とか輝けるものを守ってないと一瞬で奪い取られてしまう怖さのようなものを私も東京に感じてましたし。
ーー9曲目「ジェットコースター」はボーカルの爆発力がすごい。
杏沙子:今までで一番爆発してます。ふりきってますね(笑)。この曲も「東京一時停止ボタン」と一緒で、友人の話を書いたんですけど。実際その友人は彼に別れを告げられた日にジェットコースターに乗りに行ったんですよ。だから、作り物ではなく実際に存在した気持ちという意味においてはリアルな歌で、歌うときもその友達を自分に憑依させるようにして歌いました。ほぼ泣きながら歌ってましたね、本当に。
ーーそして10曲目が「ファーストフライト」。この曲は最後にもってこようと決めていたんですか?
杏沙子:やっぱり私の永遠のテーマ曲みたいなものだし、未来に向かってもっと飛ぶぞって自分を鼓舞する意味でも最後に入れたいっていうのがあって。
ーーなるほど。曲順も物語のように組まれてあって、アルバム1枚を通して聴いてこそ見えてくるものがある作りになってますね。
杏沙子:よかった! 「Look At Me!!」は絶対1曲目にしようって決めてましたし、ディレクターとそれぞれ曲順考えて、せーので出し合ったら、ほとんど一緒だったんですよ。
ーーこのアルバムが聴く人にとってどういうものになったら嬉しいですか?
杏沙子:ちっちゃい頃から人の顔色を窺って生きてきた人間としては、自分のなかの本当の気持ち、すっぴんの気持ちがどういうふうに受け入れられるのか、予想がつかなくてドキドキするところもあるんですけど、でも自分なりにけっこう挑戦したアルバムだし、これが私だって言えるアルバムを作れたと思っているので。ここにある私の本当の気持ちが、誰かにとっての本当の気持ちに重なったらいいし、誰かの曲になったら嬉しいし、聴いてくれる人ともっと近くなれたら嬉しい。『ノーメイク、ストーリー』が誰かの物語になっていったらいいなって思いますね。
ーー間違いなくなると思いますよ。それにライブ映えしそうな曲も多いので、まだ状況的に難しいとは思うけど、早くライブがやれるといいですね。
杏沙子:本当に今めっちゃ歌いたいんです。自粛期間に自分が何をどう歌っていきたいかハッキリしたので、なんの迷いもなくストレートに歌える気がするから。みんなに会えたら泣いちゃうかもなー。
■リリース情報
『ノーメイク、ストーリー』
発売:2020年7月8日
通常盤 ¥3,000(税抜)
初回限定盤(2CD)¥4,000(税抜) / 特殊パッケージ
〈CD収録曲〉 ※初回限定盤・通常盤共通
1.Look At Me!!
2.こっちがいい
3.変身
4.クレンジング
5.見る目ないなぁ
6.outro
7.交点
8.東京一時停止ボタン
9.ジェットコースター
10.ファーストフライト
『ノーメイク、ストーリー』全10曲配信はこちら
〈初回限定盤 LIVE CD収録曲〉
(ワンマンライブ「あさこまとめ2019 ~まとめません~」2019.12.8 Veats Shibuya公演)
1.ファーストフライト
2.青春という名の季節
3.Look At Me!!
4.真っ赤なコート~toi toi toi
5.見る目ないなぁ
6.道
7.花火の魔法
8.あなたのことが好きだなんて言えないんです
9.こっちがいい
■2ndアルバム『ノーメイク、ストーリー』リリース記念
YouTubeライブ「杏沙子の部屋」
7月9日(木) 夜 ※詳細は後日発表
杏沙子公式YouTubeチャンネル
■ライブ情報
『杏沙子ワンマンライブ 「NO MAKE, LIVE」振替公演』
<東京>
9月27日(日)Veats Shibuya
9月23日(水)Music Club JANUS
※今後の状況を鑑みながら開催を検討