カバーアルバム『遊音倶楽部~2nd grade~』インタビュー
絢香が語る、原点=“歌を楽しむ”ことへの純粋な眼差し ミスチルや桑田佳祐ら名曲カバーから得た学び
(カバー楽曲への)嫉妬みたいな感情もあった
ーーそうなんですね! 1曲意外な曲がありました。それについては後でお話しするとして、このまま曲順通りに行きますね。3曲目はback numberのウインターソング「ヒロイン」です。
絢香:この曲の持つ切なさを私なりに表現するためにはどうしたらいいかなって考え、少しテンポを下げさせていただきました。アレンジは、歌の繊細なニュアンスを自然と表現できるように、「音数少なく。でもドラマチックに」がテーマでした。
ーー続く、平井堅さんはミスチルと並んで、絢香さんが昔から好きだと公言しているアーティストですよね。前作では「瞳を閉じて」をカバーしてましたし、「Love Love Love」は武道館のライブでも歌ってました。
絢香:特に「Love Love Love」は自分が中学2年の時に初めて人前で歌った曲で、思い入れの強い曲です。原点でもあるこの曲と、改めて向き合う時間は感慨深かったですね。今回は自分がいつも一緒にツアーを回るミュージシャンの塩谷哲さん(Pf)、古川昌義さん(Gt)、大儀見元さん(Per)、大神田智彦さん(Ba)という、日本でもトップクラスのミュージシャンとスタジオで一発録りをしました。全員ブースに入って一発で録ったテイクなんですが、だからこそのグルーブ感が出たなととても気に入ってます。
ーーアカペラから始まって、後半にはコーラスも入ってます。
絢香:すごく楽しかったです。みんなとスタジオで音を出した時に感じた、なんとも言えない最高の空気感を軸にしたかったから、そこに合わせてコーラスもアレンジしました。
ーーアコースティック編成の生音に続き、レベッカ「フレンズ」は管楽器と弦楽合奏が中心で、中島みゆきさんの「糸」はアコギと歌のみという最小限の音数になってます。
絢香:「フレンズ」を選曲した時に、ストリングスがリズムの中心にいて曲を展開していくアレンジにしたいというイメージがあり、アレンジャーの河野さんに伝えたら、攻めたアレンジDemoが届いて……とてつもなくカッコよくて驚きました。本当に新しい「フレンズ」になったと思います。「糸」は去年、初めてのディナーライブでギターのみで歌いました。その時のアレンジが素敵で、その世界観のまま録りたいと、古川さんにお願いしました。これも二人で一緒に録りました。素晴らしい曲に、歌いながら感動しました。
ーーどんなことが思い浮かびました?
絢香:自分が(第二子を)妊娠中にレコーディングした曲でもあり、お腹の中にいる新しい命を思っても感じる部分があったし、レコーディングしながら、いろんな感情が込み上げました。今回カバーさせていただいたどの曲もそうなんですけど、「本当にいい曲だな」としみじみ思いながら、どうしたらこんなにいい曲が作れるんだろうと嫉妬みたいな感情もあった。「すごい」と「ずるい」の連続でした(笑)。そういう意味でも、今回の制作はまた刺激を受けましたね。
Kan Sanoさんは私の求めてることをすぐに具現化してくれる
ーーそのあとの五輪真弓さん「恋人よ」との落差というか、広がりがかなりダイナミックですよね。歌詞はウェディングソングから、永遠の別れへという流れで、サウンド的にはアコギのソロからフルオケになるっていう。どうしてこの曲順にしました?
絢香:名曲揃いなので、どう並べても成立するし、贅沢な曲順決めではありました。でも、今回は歌詞の世界観の繋がりというよりは、サウンドで並べました。ギター一本のシンプルで柔らかい世界観から、ストリングスが効いてる真逆の世界観へ。陰と陽という真逆の世界観の繋がりがとてもよかったし、少ない音数からフルにいくっていう広がりも綺麗で、個人的には好きな並びになってます。
ーー「恋人よ」は歌ってみてどうでしたか。かなり低いキーから始まる曲ですよね。
絢香: この曲を歌うと、まるで映画を一本観たあとのような余韻が残るんです。たった3分という時間の中であれだけの世界が作れるっていうのは、本当にすごいことだと思います。しかも、Aメロは潜り込むような低い音域から始まる曲になっていて。この辺りの音域を使うと、こういう景色が広がるんだっていう初めての体験でした。自分の声の響きとしても新しい発見でしたし、自分のオリジナル曲でもこういう音域を使った曲を作りたいなと思いましたね。
ーー続く、ポルノグラフィティの「アポロ」はどんなアプローチを考えてました?
絢香:カバーすることを決めた時に最初に自分の中にあったのは、リズムをハーフにしてアレンジするということでした。結果的にそれが女性らしさも表現される要素になっていて、よかったなと今聴いて思えています。そのアレンジの方向性を伝えるべく、Kan Sanoさんに弾き語りのDemoを送ったところから制作が始まりました。
ーー今っぽいエレクトロファンクになっていてとても刺激的でした。
絢香:ありがとうございます。 私もすごく好きなアレンジになりました。自分が今までやってきた音楽の中にはなかったようなエッセンスをたくさん持ってる方なので、Kanさんのセンスを私の音楽に足してもらってる感覚です。本当に毎回、いい刺激をいただいています。
ーーKanさんとはオリジナルとしては5枚目のアルバムとなる前作『30y/o』で出会ったんですよね。
絢香:そうですね。Kanさんは本当に物静かで穏やかで、空気感もアーティスティックなんですよね。私の求めてることを理解してすぐに具現化して下さったり、さらに良いものを提案してくださったり、やりとりに無駄がなく、そして楽しいんです。いろんな人とご一緒するということは自分の幅も広げてもらえるし、新しい世界を見せてもらえるので、これからもどんどんやっていきたいですね。
ーーそして、サカナクションなんですが。
絢香:本当にかっこいい曲。隅々まで考えて練って作られていて、何度も繰り返し聴きたくなる中毒性がある。こんなの作っちゃうなんてすごいです。サビのメロディも美しい。そんな素晴らしい曲に身を置いてみたかった、そして歌ってみたかったんです。
ーーこの曲のアレンジが河野さんだって聞いてびっくりしたんですよ。オルタナR&B、エレクトロ、ニュージャズの要素が入っているので、新進のクリエイターかなと思ってました。
絢香:河野さんは引き出しがありすぎます! 毎回Demoが届くたびに驚かされるし、感動するんですよ。「にじいろ」とこの曲のアレンジが同一人物だなんて、なかなか誰も気づかないでしょうね(笑)