『日向坂46ストーリー』、なぜ大ヒット? 2層のファンニーズを満たした仕掛けを考察

 3月25日に発売された書籍『日向坂46ストーリー』(集英社)が、発売2週目にして2度目の重版を決定。4月4日時点で発行10万部を突破するなど、大ヒットを記録している(参考:『日向坂46ストーリー』公式Twitter)。

西中賢治『日向坂46ストーリー』

 同作に収録されるのは、2018年4月から約1年半にわたって『週刊プレイボーイ』で連載された『日向坂46ストーリー~ひらがなからはじめよう~』(開始当初の連載名は『けやき坂46ストーリー~ひらがなからはじめよう~』)。同企画の書籍化を望む声は、ファンを中心に以前より挙がっていたが、それがようやく実現することになった。

 そんな同作で描かれるのは、日向坂46が昨年3月に発表した、グループの“改名”までの前日譚。その内容も、けやき坂46として発足した2015年11月以来の歩みを振り返りながら、メンバーの表舞台では語られなかったエピソードや、“影”の部分といえる複雑な心情をノンフィクションで綴ったものだ。

 いまや日向坂46をはじめ、乃木坂46ら坂道メンバーの写真集は、少し乱暴な言い方をすれば何万部もヒットするのが“当たり前”になりつつある。しかし、今回は話が違う。彼女たちのビジュアルにほとんど頼らない活字の並んだ書籍が、先程の写真集と同じ、あるいはそれ以上の10万部という大ヒット記録を打ち立てているのだ。

 その理由を探る前に、まずは読者側に目を向けてみよう。同作においてメインで振り返るのは、けやき坂46から日向坂46として改名デビューを発表するまで。彼女たちの活動を日向坂46以前/以後という時間軸で分けるならば、そのファンも同様だろう。つまり、けやき坂46時代を共に歩んできたファンと、日向坂46として初めて彼女たちを知ったファンの2パターンが存在するという意味だ。

 今回の大ヒットについて結論から述べてしまえば、上記ファンの双方のニーズを上手く満たしていたのが理由のひとつに挙げられる。つまり、読み手側が日向坂46と親しんできた時間の長さによって、今回の書籍がそれぞれ違った視点からの楽しみをもたらすのである。

 けやき坂46時代からのファンにとっては、同作の収録エピソードには“自分ごと”として受け取れるものもあるだろう。例えば、グループ黎明期に長濱ねるを中心に1期生が集まりながらも、けやき坂46としての明確の立ち位置を築くのが難しく、その存在意義に暗中模索したことを、人により程度は異なれど知識としては備えているはず。そんな彼女たちがひたむきに苦難を乗り越える様子を長きにわたり見守り、時に感情移入をしてきたからこそ、自然と自分のことのように当時を懐かしむこともできるようになる。作品内で振り返るイベントの一つひとつも、当時の思い出を誘う呼び水になることだろう。

 あわせて『日向坂46ストーリー』の真骨頂は前述した通り、当時は語られなかったメンバーの心情が描写されていることにある。彼女たちがライブのリハーサルや舞台裏で露わにした涙や、メンバー同士がちょっとしたメモで励まし合う姿、かねての努力が報われた瞬間の想いなど、長年のファンであっても初耳な情報が詰め込まれている。この連載を開始当初よりリアルタイムで読み進めていたとしても、今回の書籍化を機に改めて読み返してみることで、グループのターニングポイントを以前よりも俯瞰的に捉えられるようになるはずだ。

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