aikoの真骨頂が味わえるアルバム曲10選 サブスク解禁を機に触れる各作品の“奥深さ”
aikoの十八番とも言えるのがバラード。心の奥深くをえぐる歌詞や歌声、そして豪華な演奏陣との絡み合いが聴きどころのひとつだ。そんな曲が多く収録されているのがアルバム8作目の『秘密』(2008年発売)である。とりわけ「キョウモハレ」や「ハルとアキ」といった“カタカナ曲”が極上で、〈過ぎていった毎日〉〈今日も今日も今日も〉〈繰り返しある日々〉……と作品全体を通して強調される“過ぎていく毎日”を淡々としたリズムが描き出す。時おりポロロンと鳴るエレピの優しい音には、そんな日々の中でも揺れ動く主人公の繊細な感情がよく表れている。
バラードと言うには少々リズムが跳ねているが、歌と演奏陣の絡み合いという点ではバラード並の陶酔感があるのが『時のシルエット』(2012年発表)に収録されている「くちびる」。アレンジャーの島田昌典によるピアノやエレピ(モーグシンセまで登場する!)の演奏は基本的にコード上を自由に遊びまわっているが、ほんの一瞬だけボーカルとユニゾンして重なり合う〈何もかも〉の「何も」、そして〈そばにいる〉の「そばに」、さらに最終盤で畳み掛ける〈あなた〉と〈世界〉……歌と演奏陣の“この瞬間”的な同期は、まさに「くちびる」というタイトルにふさわしく感動的だ。
アルバムの中には、なぜこれがシングル曲ではないのか? と疑いたくなるほどパンチ力があるものがある。『泡のような愛だった』(2014年発表)に収録された「サイダー」なんかがそれだ。口ずさみたくなるシンプルなメロディで構成され、ビートも力強く、サビのフレーズは非常にキャッチー。こうした印象に残りやすい曲がアルバムの中盤に置かれているのも驚きである。
近年の作品でも群を抜いてaikoの“湿気”を感じられたのが『湿った夏の始まり』(2018年発表)に収録された「宇宙で息をして」。息継ぎ少なく、一筆書きのようになめらかな旋律の中で突然急上昇するメロディの痛々しいほど切ない響きに、彼女のソングライティングの妙がある。長年アレンジを務めてきた島田に代わって編曲を担当するOSTER projectとのコンビネーションにも注目だ。
以上、aikoのアルバムから約10曲。この記事でピックアップしたのは、いわゆる“誰もが知る名曲”ではない。しかし、そうした楽曲にこそ彼女の才能の真骨頂が宿っている。これを機に、aikoの楽曲の奥深さを味わってみてほしい。
■荻原 梓
J-POPメインの音楽系フリーライター。クイックジャパン・リアルサウンド・ライブドアニュース・オトトイ・ケティックなどで記事を執筆。
Twitter(@az_ogi)