「Twilight」「Ami」インタビュー
藤原さくらの“今の声”を聞くーー新しいことへと挑み続けるモチベーションはどこから来るのか?
2019年、藤原さくらが行なった『Twilight Tour 2019』を目撃した人は、きっと大きな驚きと喜びを同時に感じたことだろう。全編エレキギターを抱えた彼女が、新たなバンドメンバーを率いた全国ライブハウスツアー。ドラムス、ギター(×2)、ベースという編成により、音数を減らしたソリッドなアレンジで聴く馴染みの楽曲は、これまでとはまた違った新たな魅力を放っていたのだ。
そんなツアーを経た藤原がデジタルシングル「Twilight」と「Ami」を、2月12日に同時リリースした。「Twilight」は夏フェスで彼女をサポートしたメンバーが、「Ami」はくだんの『Twilight Tour』を一緒に回ったメンバーがレコーディングにそれぞれ参加した楽曲。どちらもドラマ『100文字アイデアをドラマにした!』(テレビ東京系)主題歌に起用されており、すでに耳にしている人も多いはず。この2曲の振り幅の大きさからしても、来るべき彼女のニューアルバムは今まで以上にバラエティ豊かなものになること必至だろう。
ツアーやフェスのみならず、劇団☆新感線の舞台『偽義経冥界歌』への参加や米国短期留学など、相変わらず新たな挑戦を続けている藤原。そのモチベーションはどこから来ているのだろうか。今回リアルサウンドでは、藤原さくらの「今の声」をお届けすると共に、新曲「Twilight」と「Ami」をさらに深く楽しむためのSpotifyプレイリストを作成した。本稿を読みながら聴いていただけたら幸いだ。(黒田隆憲)
“エレキギター・モード”から繋がっていった新曲の制作
ーーさくらさんがエレキギターを持って、ロックバンドでライブハウスを回るツアー『Twilight Tour』を開催することはどのように決まったのでしょうか。
藤原さくら(以下、藤原):以前から東京・恵比寿LIQUIDROOMや、京都・磔磔のような、オールスタンディングで楽しめるライブハウスで演奏がしたかったんです。2019年は舞台もあり、音源をリリースする時間的な余裕がなかったのですが、だったらこの機会にバンドを組んで、地方を回るライブハウスツアーに挑戦してみたいと思いました。リリースツアーじゃないからセットリストも自由なイメージで、インディーズ時代の曲から最近の曲までをバンドメンバーに聴いてもらって、やりたい曲を一緒に選んで。アレンジも一からガンガン変えてやってみたら面白いんじゃないか、と。
これまで私はずっとSPECIAL OTHERSやOvallのなどのバンドのメンバーとツアーやレコーディングをご一緒してきて。長く一緒にやってきていたので言わなくても伝わるというような抜群の安定感の中で歌わせてもらっていたんですけど、新たな試みのツアーだからこそ初めてのバンドメンバーと組んでみたいという思いもありました。
ーーメンバーはどんなふうに決まっていったのですか?
藤原:今回、インディーロックっぽいサウンドにしたいという気持ちがあって、スタッフと相談している中でミツメの名前が挙がったんです。それで、ドラムの須田洋次郎君にお願いして、彼の友人でもあるギターのayU tokiO君(猪爪東風)と、ベースの渡辺将人君(COMEBACK MY DAUGHTERS)を紹介してもらい、演奏を聴かせてもらったらめちゃくちゃカッコ良かったので「ぜひ一緒にやりたいです!」とお願いしました。まずはバンマスの洋次郎君と一緒に喫茶店に行って、どんなツアーにしたいのか、どんなサウンドにしたいのかをじっくりと話し合うところから始めました。
ーー初日の演奏を聴いたとき、ライブレポにも書いたのですが(“新しい藤原さくら”の姿に圧倒された一夜 新曲2曲も披露したライブハウスツアー初日を観て)、「The Black Keysをバックにラナ・デル・レイが歌っているような」、そんな印象を受けました。
藤原:なるほど、ありがとうございます。私がメンバーから「どんな感じにしたい?」と聞かれた時には、初期のビートルズのようなシンプルでかっこいいロックサウンドにしたいと伝えました。これまでのライブでは、いつも鍵盤を入れた編成が多かったんですけど、今回は最小限のギターアンサンブルだったので、音数もなるべく削っていきました。あと、『FUJI ROCK FESTIVAL '19』でステラ・ドネリーを観た時、ずっとエレキギターを弾いていたのがすごくカッコよくて。そこから気持ちが“エレキギター・モード”になっていった気がしますね。夏フェスに弾き語りで出た時も「エレキでいいじゃん」ってなったし(笑)。
ーーエレキギターはayUさんのハンドメイドだと、ライブのMCでおっしゃってましたね。
藤原:そうなんです。テレキャス(Fender Telecaster)の形をした「アユトーン」というギターなんですけど、それとエフェクターを組み合わせた音が、バンドのアンサンブルにも合っていたので、お借りして弾くことになりました。週2で下北沢のリハーサルスタジオとかに通って練習して。みんなでエフェクターを買いに行ったりして、楽しかったですね。
ーーこれだけアレンジを変えたら、ライブを観た人も驚いたのでは?
藤原:これまでずっと私のライブを観てくれているファンや家族のみんなは、イントロを演奏し始めてもしばらく何の曲か分からなかったと言っていました(笑)。でも、私自身は同じ曲をずっと同じアレンジで演奏し続けていたら、きっと飽きてきちゃうと思うんですよね。お客さんはびっくりするかもしれないですけど、音源をたくさん聴き込んでくださっている方たちにこそ喜んでもらえたら嬉しいし、実際喜んでくれていたと思ってます。
ーー確かに驚いていましたけど皆さん楽しんでいましたよね。違うアレンジで聴くと、その曲の良さを再発見する楽しみもあるなって。
藤原:そうなんです。ただ、(リハーサルと同時期の)夏フェスはYasei Collectiveのメンバーと回ったので、そこでもアレンジをかなり変えたから頭がこんがらがるかと思いました(笑)。「Sunny Day」とかアレンジが2つあって、リハーサルを進める一方ではフェスにも出ていたから最初はパニックでした(笑)。今回「Twilight」と「Ami」は、そんな2つのバンドと一緒に演奏した2曲です。
ーーでは、その新曲について聞かせてください。まず「Twilight」はどんなふうに作ったのですか?
藤原:この曲、実は2年くらい前から原型があったんですよ。それを一旦取り払ってデタラメ英語みたいな感じで歌ったバージョンのデモを作ってから、Yasei Collectiveのメンバーと一緒にリハーサルスタジオに入ってヘッドアレンジをしました。実はもう1曲、このタイミングで同じようにYasei Collectiveのメンバーとアレンジした曲があるのですが、それは次のアルバムに入る予定です。
ーーYasei Collectiveのメンバーとのレコーディングはいかがでしたか?
藤原:Shingo Suzukiさん(Ovall)がプロデュースしてくださった「You and I」で、松下マサナオさん(Dr)や当時Yasei Collectiveのメンバーだった別所和洋さん(Key)が参加してくれたことはあったのですが、こんなふうにがっつりバンドに入ってもらったのは初めてだったので、とても楽しかったです。メンバーみんなでスタジオに入り、その場でアレンジを考えながらのプリプロダクションは、SPECIAL OTHERSの時と似たような感覚もありましたが、今までと違ったのは、自分が自宅で作ったデモを用意していったことでした。そのデモに入れた、例えばブラスセクションのフレーズとかが採用になったりもしているんです。
ーーアレンジにさくらさんのアイデアが採用されているわけですね。一方、「Ami」はライブハウスツアーでも演奏していた曲ですよね。
藤原:はい。さっき話したように、今回初めて全編エレキギターを持って、エフェクターを踏んで演奏するツアーだったので「そういう雰囲気にふさわしいロックな曲が欲しいね」とメンバーと話して、スタジオに入って作った曲です。ツアー初日(2019年9月27日)にLIQUIDROOMでお披露目した演奏と、音源ではアレンジも全く変わっています。グッとテンポも落としているし。
ーーこの曲も、まずさくらさんがデモを作ったのですか?
藤原:はい。実は昨年6月くらいからずっと私だけでスタジオに入ってデモを作り続けていたんです。気づいたら10数曲くらいになっていて、その中からピックアップした曲をバンドメンバーに「これ、ライブでやりたいです」って伝えて。それがライブでも披露した「Ami」と、お姉ちゃんの結婚式用に作った曲だったんです。
ーーそうやって自分一人で多重録音を試すようになったのは、mabanuaさんの影響も大きかったですか?(藤原の前作『green』と『red』はmabanuaプロデュースの二部作EPで、トラックも全てmabanuaが手掛けている)
藤原:そうですね。mabanuaさんはなんでも出来る人だし、自分もそうなりたいという気持ちがあったので、それをディレクターに相談したら「スタジオに入る時間を設けましょう」と言っていただいて。以前はボイスメモに弾き語りしたデモを録って、それをディレクターさんに送り続けるという「数打てば当たる戦法」で、アレンジャーさんにお渡しする時も、どんな雰囲気にしたいのかだけを伝えていたのですが、今回のデモの作り方は今までと全然違いましたね。
ーー「Ami」をバンドアレンジする時も、これまでとだいぶ違いましたか?
藤原:違いました。なぜか、昔からずっと一緒に組んでいるバンドと、初めてスタジオに入って録音してるようなノリで作れたというか(笑)。
ーーさくらさんのボーカルにはショートディレイがかかっていて、ちょっとジョン・レノンっぽいですよね。
藤原:ボーカルにエフェクトをかけることは以前から挑戦してみたくて、今回はいろんなパターンを試させてもらいました。「LOVE PSYCHEDELICOやボイ・パブロみたいなエフェクト処理をした声もかっこいいかもね」なんて言いながら、最終的にこんな声に仕上がりました。