金子厚武の「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」
Yasei Collective 松下マサナオ、2020年代に託すミュージシャンのあり方「外に出て何でもチャレンジしたらいい」
「(mabanuaは)俺がやろうと思ってたことをすでにやってるなって」
――2010年代を振り返ったときに、もうひとつ欠かせないバンドがOvallだと思っていて。彼らも00年代後半に活動を本格化させて、その一方では個々がサポートやプロデュースでシーンを下支えしてきた、まさに「一人でも歩いていける者の集団」だったと思う。そんな彼らが2010年代の終わりにひさびさの新作を発表したのも、時代を感じさせたし。
松下:新作(『Ovall』)が今までの中で一番好きですね。俺アメリカから帰国して、mabanuaっていう存在を初めて知ったときは、「すげえ、もうこんな人がいるんだ」って、めちゃ嫉妬したんですよ。年は俺より何歳か下で、今はホント大好きな友達だし、尊敬するドラマーの一人だし、クリエイターとしてもすごいと思うけど、最初はホント悔しかった。当時のトレンドで言うと、マバちゃんの方が僕よりクエストラヴ寄りで、僕はもうちょっとジャジーな方向っていう違いはあったけど、俺がやろうと思ってたことをすでにやってるなって。あと、同じくらい対馬さん(対馬芳昭/origami PRODUCTIONS主宰)と知り合えたのもデカかったんです。セルフでやっていくためのノウハウと、ドラマーとしての売り込み方を両方知りたかったから、対馬さんとマバちゃんと同時にコンタクトを取って、いつしか仲良くなって。
――mabanuaさんとの出会いはセッションですか?
松下:いや、Charaさんとの対談を読んで、動画とかもいろいろ観て、最初にFacebookでメッセージを送ったんですけど、そのとき外人だと思ったんですよ(笑)。だから、英語でメッセージ送ったら、完全に無視されて、もう一回日本語で送ったら、今度は返信をくれて。で、ライブを観に行って、挨拶して、イベントに出てもらったり。当時はそうやってナンパみたいにいろんな人に会って、ライブに呼んでっていうのをやってたんです。Kneebodyも最初はそんな感じで、ネイト・ウッドがウェイン・クランツのトリオでキース・カーロックと3人で来たときに、面識はなかったんですけど、無理やり会いにいきました(笑)。で、音源渡して、ライブに呼んでっていう、ホントそんな感じ。そうなったのは、DOPING PANDAの(稲葉)隼人さんが最初に俺をフックアップしてくれて、いろんなところに連れていってくれたからなんです。
――5周年記念アルバムとして2014年に発表された『so far so good』には、ここまでの話に出てきたジェントル久保田さんやOvallのメンバーが参加しつつ、一方で今名前の挙がった隼人さんをはじめ、FRONTIER BACKYARDの福田"TDC"忠章さんや、ACIDMANの浦山一悟さんなど、パンク寄りの人たちも参加していて、その混ざり具合もヤセイの面白いところだなと。10周年キックオフパーティーの豪華メンツにしても、その延長線上にあると思うし。
松下:サウンドはパンクじゃなくても、ステージングだったり、「やりたいことをやる」っていうアティテュードに関しては、パンクからもかなり影響を受けてます。まあ、いわゆる「パンク」はそんなに聴いてなくて、メロコアとかハードコアですね。もともとは俺イエモン(THE YELLOW MONKEY)が大好きで、今でもいつか吉井和哉さんのバックで叩きたいって思ってるんですけど、その後にビジュアルとメロコアが来て、そこから洋楽に飛ぶんです。で、アメリカから戻ってきたら、AIR JAM世代の先輩たちがポップシーンで活躍してたんですよね。柏倉(隆史)さん(toe)が木村カエラさんのバックで叩いてたり、ハイスタ(Hi-STANDARD)の(恒岡)恒さんがチャットモンチーで叩いてたり、「こういう形もあるんだ」っていうのは影響受けました。野垂れ死ぬかっこよさとは違う、自分の中のパンクスを保ちつつ、いろんなシーンでやっていくっていう。
――近年ではHHxMMとしてユニットでも活動するなど、ストレイテナーのひなっちさん(日向秀和)との共演が目立ちますね。
松下:プライベートでもよく遊んでもらってて、兄貴って感じですね。でも、あの人とは一回もリハスタ入ったことないんですよ。『HINA-MATSURI』っていうイベントのバンドで、ちゃんMARIと、SPECIAL OTHERSのヤギさん(柳下“DAYO”武史)と一緒に曲の練習をしたことはあるんですけど、セッションをする上では一回もない。あの人は俺にリミッターをつけないし、俺も彼にはリミッターをつけないんです。普段だと「こういう感じで戦いましょう」っていうのがあるけど、全部オッケーでやるから、一回一回のセッションがすごく貴重で、お互いの成長にも繋がってるかなって。でも、ホントすごいですよ。どんな音でも、弾いた瞬間にひなっちの音だってわかる。いろんな意味で、ひなっちとミチくんはいないと困るし、ジェントルのデジくん(藤野俊雄)も今そうなってますね。パッとやってすぐ合う関係性で、全然違うジャンルのベーシストが3人いることで、僕の音楽人生がめっちゃカラフルになるんです。でもだからこそ、たまに違う人とやると、「めっちゃいい!」みたいにもなるんですよね。「ケイタイモさん、最高!」とか「鈴木正人さん、さすが!」とか。浮気じゃないけど(笑)、そういう瞬間もすごく楽しいんです。
――まだここまで名前の挙がってない人で、「この人のサポートをしたことが、自分の音楽人生に大きな影響を与えた」という人を挙げてもらうことはできますか?
松下:たくさんいるんですけど……二階堂和美さんかな。僕「歌ものには合わないんじゃないか」って言われてた時期があったんですけど、ドラムにめちゃくちゃうるさいニカさんが、めちゃくちゃ全肯定してくれたんですよ。しかも、「なんかいいんだよね」って言い方をしてくれて、あの人は感覚が鋭い人だから、それが余計に嬉しかった。それがプルーフになってるというか、今でもたまに思い出して、「大丈夫、俺やっていける」って思いますね。