細野晴臣 50周年記念公演で音楽ルーツと現在地を実感 東京国際フォーラム2日間をレポート
(2日目/『イエローマジックショー3』)
12月1日の公演『イエローマジックショー3』は、音楽バラエティ番組『イエロー・マジック・ショー』がステージ上で繰り広げられる公演。細野晴臣に加えて、安部勇磨(never young beach)、伊賀航、伊藤大地、小山田圭吾、清水ミチコ、清水イチロウ、ジョイマン、高田漣、高橋幸宏、豊崎愛生、野村卓史、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、水原希子、水原佑果、宮沢りえ、U-zhaan、Little Glee Monster、ロッチが出演。さらに坂本龍一と星野源がVTRで参加し、ナイツが声で出演するなど、豪華な内容となった。
ステージにかけられた紅白の幕が落とされると、舞台には“茶の間”のセット(“黄色魔術”と記された書が飾られている)、そして庭先には細野バンドのメンバー(高田漣/Gt、伊賀航/Ba、伊藤大地/Dr、野村卓史/Key)の姿が。バンドが「福は内鬼は外」(はっぴいえんど)のインストバージョンを奏でた後、「みんな〜お昼ごはんよ。日曜だからってお昼まで寝ちゃって」と母親役の宮沢りえが登場、お茶の間コントが始まる。メンバーは細野晴臣(お父さん)、高橋幸宏(おじいちゃん)、水原希子(娘)、そして、ネコ役のハマ・オカモト、イヌ役の安部勇磨。水原がテレビをつけると、映画『NO SMOKING』がはじまり、「確か50周年なのよね」(宮沢)、「細野さんがいかに海外で人気があるかわかる映画だった」(水原)、「あんなにユーモラスでおちゃめでカッコいい人いない」(ハマ)、「個人的に音楽を作ったりするから、どうしても細野さんの影響があります」(安部)と細野さんをまつわるトークを展開。細野が顔芸(ニコニコ笑顔→真顔→怒った顔を一瞬で変えるギャグ)で盛り上がったあと、「勇磨は“お手”以外に何が芸できるの?」(宮沢)と振られたイヌの安部が「じゃあ、歌います」と庭先に移動。バンドとともに「恋は桃色」(細野晴臣『HOSONO HOUSE』収録)を披露した。
さらに“パリでバリスタ修行中”の息子・源(星野源)の話題に。「源はお腹が弱いから。心配でしょうながいから、行ってこようかな」と細野が“火星歩行”で移動。細野がパリにいる源のもとを訪ねる(という設定の)VTRが映し出される。特に何をやるわけでもなく、二人でコーヒー豆を手挽し、入れるだけ。それ以外ほとんど何も起こらないユルさも『イエローマジックショー』らしい。
家に戻ってきた細野は、家族にパリのお土産を渡す。お母さん(宮沢)にはスカーフ。「懐かしいわ。ハネムーンを思い出すわ」(宮沢)「楽しかったな。“Santa Fe”」(細野)というまさかのやり取りの後、イヌの勇磨がおもむろに立ち上がり、バンドとともに「Honey Moon」をゆったりと歌い上げた。
20分の休憩を挟んだ後半も、コントと歌を中心に展開。高校生に扮した水原希子、水原佑果、豊崎愛生がベンチに座って細野の魅力を語り合い、「やっぱりいちばんいいのは“声”だよね〜」と盛り上がっているところに細野が登場。さりげなく声をアピールしていると、今度は“ウソノ晴臣”(ハマ・オカモト)が姿を現し、「本物の細野晴臣だよ」と言い放つ。「私たちのために演奏してもらえませんか?」という女子のお願いに応え、「細野はどんな楽器でも弾けるんだけど、今日はベースを弾こうかな」と、ハマ(Ba)、伊藤(Dr)、高田(Gt)、野村(Key)、安部(Vo)のラインナップで「はいからはくち」(はっぴいえんど)を演奏。貴重なセッションが実現し、大きな拍手が巻き起こる。
続いては、清水ミチコ、清水イチロウ、U-Zhaanが登場。「私が心を込めて地声で歌ってもしょうがないので、ユーミンさんを降ろそうかと思います」と、ユーミンの声マネで「卒業写真」(荒井由実)を披露(この楽曲のレコーディングには細野が参加している)。現在のユーミンの声に寄せた清水ミチコの歌声に、観客は笑いながら唸っている。さらに清水イチロウが細野、清水ミチコが矢野顕子のマネをして「絹街道」(『トロピカル・ダンディー』)も。エキゾチックなグルーヴを生み出すU-Zhaanのタブラ演奏も素晴らしい。
“声の出演”のナイツが“細野晴臣50周年”ネタの漫才を披露した後(「今日は“細野を見る会”に来てくださってありがとうございました」に笑いました)、舞台には某国営放送の『のど自慢』を模したセットが。合格の鐘を叩く役目は細野。バンドは小山田圭吾(Gt)、U-Zhaan(タブラ)、野村(アコーディオン)。司会役の高橋が「細野さんの大ファンという女の子5人組です!」とLittle Glee Monsterを呼び込み、「君に、胸キュン。」(イエロー・マジック・オーケストラ)をアカペラで歌い上げる。続いては、ハマ、伊賀による“ベース兄弟”が「ライディーン」をベース2本で演奏。ハマが主メロ、伊賀がベースラインを弾くという(絶対にここでしか観られない)超レアなセッションが実現した。クスクス笑いながら観ていた観客はもちろん、演奏が終わったとたんに拍手喝采!
リトグリが細野バンドとともに「風の谷のナウシカ」を歌った後も、あまりにも貴重なシーンが続く。吉本新喜劇のテーマ曲が流れ、細野、高橋がスーツ姿で登場。さらに坂本龍一の映像もステージに上がり、YMOの3人が揃う。“かわいい女の子がスタジオに入ってきたとき、なぜか髪を触る坂本龍一”のマネを細野が披露した後、「じゃあ、何かやろうか」(細野)「何が聴きたいですか?『ライディーン』?」(高橋)というトークから、「Cosmic Surfin‘」「Absolute Ego Dance」を3人でセッション。収録された坂本の演奏、細野、高橋のリアルタイムの演奏が融合したステージが繰り広げられた。坂本がメインのメロディを弾き、正確かつタイトな高橋のドラム、抑制の効いたグルーヴを生み出す細野のベースが響き渡るシーンは、今回のイベントの最大の見どころだったと言っていい。
凄いものを見てしまった……という感動を打ち破ったのは、この後の“学校コント”。
ロッチのコカドケンタロウが先生役で、生徒(高橋、清水姉弟、小山田、ハマ、安部、水原姉妹、豊崎、リトグリ、U-zhaan)の前で「細野が転校することになって、挨拶にきてます」と告げると細野と母親役のロッチ・中岡創一が登場。生徒たちが“細野くんを何と呼んでいたか”を話し(リトグリのかれんは“ダンディ音楽辞典”、清水ミチコは“シロキクラゲ”、と呼んでいたそうです(笑))、細野が答える(内気なので、母親役の中岡に耳打ちしてしゃべってもらう)とユルいやりとりが続いた。
細野バンド×小山田×U-zhaanによる「FIRECRACKER」(これも超貴重なセッション!)の演奏から、最後の出し物。ジョイマンが登場し、「Here we go! イエローマジックショー、松尾芭蕉、おねしょ」とラップネタを披露。さらに水原姉妹、豊崎、リトグリもジョイマン・高木さんと同じ白シャツ、黒パンツで“なななな〜”とラップネタに加わる。最後は細野を含む出演者全員が登場し、“ななななな〜”をしながらステージを去った。アンコールを求める拍手が鳴りやまない中、そのままイベントは終了した。
4日間に渡って行われた『祝!細野晴臣 音楽活動50周年×恵比寿ガーデンプレイス25周年『細野さん みんな集まりました!』』(10月11、13〜15日/東京・恵比寿ザ・ガーデンホール)、50周年のキャリアを網羅した記念展『細野観光1969-2019』(六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー)、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の公開、そして、今回の『細野晴臣 50周年記念特別公演』『イエローマジックショー3』と続いた50周年関連のイベントもひとまず終了。インタビューや会見、MCなので何度も「ずっとやってれば誰でも50年になるんですよ。大したことじゃない」と発言していた細野にとっては、この1年も通過点。最新アルバム『HOCHONO HOUSE』以降の活動にも大いに期待したい。
(取材・文=森朋之/写真=関口佳代)