『20th Anniversary Album -rippihylosophy-』インタビュー

飯田里穂が語る、芸能活動20年で見出した音楽の届け方と人生哲学「今さら取り繕った私は魅力的に見えない」

変なプライドは2010年に一度捨てました

ーーそもそも、ひとつのことを10年続けるのも大変なことですよね。

飯田:本当ですよね。逆に私、飽き性だからこれ以外のことは何にも続いてないですから(笑)。

ーーそれって、人より好奇心が強い表れなんでしょうかね?

飯田:そうなのかなあ。わりとなんでも知りたいと思うから、気になったらすぐ「それ、やってみたい!」と口にしちゃいますし。

ーーそんな飽き性の飯田さんが、なぜこのお仕事を20年も続けてこられたんでしょう?

飯田:いや、それだけが本当に不思議で。特に最近は周りから「20年なんてすごいね!」と言われるんですけど、私としてはその実感もまったくないし。だって20年もやってきたつもり、全然ないんですよ。だから、テレビを観ていて「嵐さん、20周年なんてすごい!」っていう感覚ですから(笑)。

ーー自分もなのに?(笑)。

飯田:そう(笑)。「あ、私もか」って。そんな感覚ですもの。

ーーでは、その20年の間に辞めようと思ったことはなかったんですか?

飯田:つらいから辞めようというのはなかったんですけど、「大学卒業するし、就職しようかな?」というのは普通にありました。

ーーそれに関しても、過去のインタビューでは「新規の仕事が決まったおかげで、就職は断念した」とおっしゃっていますよね。

飯田:そうなんです。『ラブライブ!』のアニメが決まったので。なので、自分から「これがダメだったら辞めよう」と思ったことはなかったですね。

ーー変な話ですけど、仕事という感覚よりも「日々を楽しんでいる」感覚のほうが強いんですかね?

飯田:完全にそれですね。日々楽しくてしょうがない、みたいな。もちろんできないことやつらいことにぶち当たることもあるんですけど、一回落ち込んだらまたすぐ楽しくなって、「もっとやってみたい!」と気持ちが切り替わるので。まあそれも好奇心ですよね。

ーーでは、2010年に声優の世界に初めて飛び込んでいったときはいかがでした?

飯田:最初はいろいろ面食らいましたね。こういうお仕事をちっちゃい頃からやっていると、そこに対する変なプライドみたいなものもあるじゃないですか。でも、それを2010年に一度捨てましたから。

ーーそう簡単に捨てられるものではないですよね。

飯田:すごく捨てづらかったですけど、捨てないと学べないし。声優の世界では私のことを知らない人のほうが多いわけですし、知らない世界に飛び込むということは……敵を倒すためには敵を知るじゃないですけど、その世界のことを知らないとダメだと思って、もともとアニメはそんなに観るほうではなかったけど、当時は相当勉強しましたね。

星空凛ではない“今の飯田里穂”が歌う

ーーその声優という仕事も気づけば約10年。このアルバムに収録されている楽曲には、そこに関連づいたものも多いです。

飯田:たくさんありますね。こうやって振り返ると、声優さんを10年続けたことでいろんな作品に関わることができて。10年前に一度捨てたプライド以上のものをさらに得られたんだなって気づかされます。

ーー声優としての最初のお仕事が『ラブライブ!』というプロジェクトでした。2010年当時はまだアニメ化も決まってなかったですし、それこそ本作にも収録された「僕らのLIVE 君とのLIFE」をレコーディングした頃はどういう心境で声優という仕事と向き合っていましたか?

飯田:本当にあのときは何もわかってなくて、それこそ「キャラソンってなんですか?」ってもらった楽曲をただ歌うみたいなレベルだったので。当時はまだ高校生だったので、制服を着てレコーディングに通っていたくらいですから(笑)。でも、そんな「僕らのLIVE 君とのLIFE」は声優さんとしての原点でもあるので、今回入れさせていただきました。

ーー『ラブライブ!』も今年9周年という節目のタイミングを迎えましたが、そういう時期に飯田さんがこの曲を再レコーディングするというのは、すごく意味が大きいのではないでしょうか。

飯田:そうかもしれませんね。アレンジも原曲とはかなり違う感じで、おしゃれで大人っぽい雰囲気になっているので、原曲を聴き込んでくれている皆さんはたぶんイントロから「うわっ!」と驚くと思いますし。不思議なことに、この原曲で初めて星空凛として歌った私と、今『ラブライブ!』の曲を星空凛として歌う私の歌い方や歌声は全然違っていて。しかも、今回はその曲をリアレンジして、星空凛ではない“今の飯田里穂”が歌うという。いろんなパターンがあって、改めて歴史のある曲だなと感じますよね。

ーーそれこそ、キーを少し下げたことで原曲よりも落ち着いた印象になりましたものね。

飯田:せっかく再レコーディングするなら変化を大事にしていきたいなと思ったので、ちょっとキーを下げることでこのアレンジが活きるような形にしました。それこそずっと歌ってきた曲なのに、また新しい曲を歌っているみたいな感覚でしたね。

ーー「私の時計は逆回転!」も『ラブライブ!』があったからこそ生まれた1曲ですよね。これは同作やμ’sで一緒に活動したPileさんとのユニット、4to6として発表したオリジナル曲です。

飯田:実はこの曲って2人で一緒に歌ったことがなくて、ちょっとファンの間では幻の曲みたいになっているんですよ。でも、曲自体の人気は高かったので、今回はひとりで歌い直そうということになったんです。「なんだか懐かしいなあ」と思いながらレコーディングに臨んだんですが、2人で歌っていた楽曲をひとりで歌うのは大変なんだという新たな気づきもありました(笑)。

作品に対する愛情がなければこれらの楽曲は歌えない

ーーご自身が関わったアニメ作品の楽曲を選ぶ際、基準になったものはありましたか?

飯田:その作品と向き合っていたときにファンの方から「いい曲なんだよね」みたいによく言われていた曲は、わりと基準になっているかもしれませんね。今回のアルバムだったら「Reason of birth」とか「ユメノツバサ」、「Change the World」あたりはファンの方々の熱も強い曲ですし。今まで自分のライブで歌ったこともほとんどなかったし、飯田里穂をそんなに知らないアニメファンにも「こんな曲も歌えるんだよ」と私のことを知ってもらいたいなと思って選びました。と同時に、これまでのソロ活動では出してこなかったタイプの曲を、カバーという形でなら歌えるという楽しさも基準になっているかな。

ーーその選曲の中には、原曲をご自身で歌っていなかった楽曲も含まれていますよね。

飯田:「カラフルストーリー」はまさにそうですよね。これはevery♥ing!(※2014〜2017年に活動した木戸衣吹、山崎エリイのユニット)の楽曲なんですけど、2人がまだ高校生だった頃に私もこの作品(アニメ『レーカン!』)に声優として参加していたんです。当時、イベントとかで2人が歌っているのをすぐそばで観ていましたけど、まさか自分がカバーすることになるとは、びっくりですよね。当時からこの曲がすごく好きでしたし、自分の歴史の中でも『レーカン!』というアニメに携われたことはターニングポイントでもあったので、大事にしたいと思って選びました。

ーー携わった作品に対する愛情と、楽曲に対するリスペクトが大きいと。

飯田:それがすべての曲にありますね。どの作品に対しても、どの時代の私に対しても、その気持ちがなかったらこれらの楽曲は歌えないし、アルバムにも収録できなかったと思いますし。

ーーちょうどアルバムの真ん中あたりにご自身のオリジナル曲のセルフカバーも収録されています。

飯田:この収録曲順、実は時系列順になっていて。だから、自分の芸能生活でいったら真ん中ぐらいがちょうどソロデビューという感覚なのかな。

ーーそれ以前もキャラソンなどいろいろ歌っていましたが、改めて「歌手・飯田里穂」としてソロデビューします、ソロアルバムが出ますと伝えられたとき、歌手に対してどのような思いがありました?

飯田:キャラを背負っているのはもちろん大事なことなんですけど、それと同じぐらい「そこにとらわれない自由な、飯田里穂としてのパーソナルを思いっきり打ち出せること」に憧れを持っていました。でも、実際にやり始めてみたら意外と難しいもので、「“私の歌”ってなんだろう?」と考える時間はすごく必要でした。

ーーよく歌手活動をしている声優さんにお話を聞くと、皆さん「初めてソロ作品を制作するとき、それまではキャラクターという鎧があったからこそ表現できたものが、それを全部剥ぎ取って自分自身として歌うときに何を表現したらいいのか、そこでまず悩む」とおっしゃいますが、飯田さんもそういう壁に打ちあったったと?

飯田:まさに私も同じ経験をしました。難しかったです。

ーーそんな中で、どうやって飯田里穂として聴かせたい音楽、伝えたいメッセージを見つけましたか?

飯田:今20周年をこうやってお祝いさせていただいているんですけど、私はちっちゃい頃から飯田里穂というものをさらけ出していて。それこそ、成長する姿も皆さんにお見せしながら芸能活動を続けてきたので、今さら取り繕った私は魅力的に見えないだろうと思って、ありのままというか自然体で楽しんでいる姿を音楽で打ち出していこうと。それはデビューするときから今も一貫していますね。

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