10thアルバム『マラドーナ』インタビュー

韻踏合組合が“内情”を交えて語る、10作目で辿り着いた制作スタイルの変化 MVの秘話も

パッと壁を見たら、マラドーナのユニフォームが目に入って(ERONE)

——固い韻が韻踏合組合の持ち味ですが、今回はライミングに関してどのような意識/スタイルの変化がありますか?

ERONE:たぶん踏み方のスタイルがより柔軟になってますね。自然とそうなった。結構ダメ出しもしあったんです。リリックが書き上がった時点で、ちょっと違うなとか言い合って書き直したりしてる。そうして何回か書いてるうちに韻よりは聞きやすさとかメッセージの方が強くなった曲もあるかもしれないです。

——ライミングに関してもダメ出しをするんですか?

ERONE:韻とかフロウに対するダメ出しじゃなくて、もっと雰囲気の違う感じで、みたいな感じですね。テーマがあって4人それぞれに書いてきたけど、方向性がバラバラやったりしたら言い合うし、4人の中でひとつ良いトピックがあったら、そのトピックを採用してそこを広げようとか。だからダメ出しというよりは、良いところを伸ばしていく作業ですね。

HIDADDY:アカンとなって変えるけど、それも違うなとなって元に戻るときもあるんです。だから変えるのがダサいというわけじゃないんです。1回みんなで意見を言い合ってみようっていう。

——より良いものにするための作業だと。

SATUSSY:そう。若いとケンカになったりもするんですけど、僕らもうおじさんなんで。そのへんは大丈夫。人の話をちょっとは聞こうっていう(笑)。

遊戯:でも、そこで深い傷を負って家に帰ることもありますけどね(笑)。

ERONE:内情(笑)。

SATUSSY:僕らの段階でそういう煮詰める作業があって、それがプロデューサーの手に渡ってさらにもう1回精査されるというか。「ここはこうした方がいい」って返ってくることもあるし、何段階か経て曲が仕上がっていくんですよね。

——その作業が以前と比べて今回は多かった?

SATUSSY:多かったですね。手間暇感が絶対違いますね。今回の方が手間暇かかってる。

ERONE:でも「マラドーナ」は一発OKでしたけどね。サビもすぐ降りてきて、バースもみんなで8小節書いて「これでOK!」って。すらすらできた曲と煮詰めた曲と、両方入ってますね。

——「マラドーナ」は、曲とアルバムタイトル、どっちが先ですか?

SATUSSY:曲です。“マラドーナみたいに手を挙げて騒ごうや”っていうアイデアを僕が言ったんです。マラドーナみたいに神の手を挙げろっていう。

ERONE:マラドーナはもう7、8年前からSATUSSYのアイデアとして出ていたんです。何かトラックをもらうと「これ、マラドーナにどう?」とか常々言ってたんです。けど、「違うな、違うな」が続いて。で、今回のオケをPUNCH & MIGHTYからもらったときに、「これでマラドーナはどう?」って。サビも「マラドナ、マラドナ」って感じでいいんじゃない? って。オケをもらってきたその日にテーマが決まって、みんながバースを書き合って一気にできたんです。

——そのワードをアルバムタイトルにした経緯は?

ERONE:最初はさすがにダサすぎるだろって話になってたんです。毎回アルバムタイトルは何個もアイデアを出すんですけど、イマイチ今回は決まらず。韻踏の事務所でミーティングしてるときにパッと壁を見たら、マラドーナのユニフォームが目に入って、背中に「10」と書いてあって。「10枚目だし、これでいいやん」って。

HIDADDY:事務所にあったマラドーナのユニフォームのバックプリントですね。「マラドーナ 10」と書いてあって。それがもうCDのジャケットに見えたんですよ。

ERONE:マラドーナは神の手だし、サッカー界の王じゃないか! と。「王手」と言っておいて、いきなり次が神になった(笑)。

遊戯:さすがの後付けですね(笑)。

HIDADDY:でも、今の10代の子たちは“神の手”ってわかるんですかね?

ERONE:わからないと思うよ。なんでマラドーナで、サッカーなのに手なん? みたいな。

SATUSSY:でも、わからないから調べて掘り下げていくっていうのがヒップホップですよね。ディグ精神。「マイクリレー」のジャケットもそういう感じなんですけど、初心者にはディグしてもらって、深く知ってる人にもより楽しめるような仕掛けもしてるっていう。わからなくていいけど、わかったらより楽しめるよっていう。

——アルバム曲に話を移すと、「Champ Road」には4人組バンド、noTOKYOのボーカルLINDAさんを迎えています。

ERONE:これは“王道”っていう意味なんです。

SATUSSY:「王手」から繋がってて。俺らが進んでいるのは王道だぜっていう。

——でも、リリックは、かつての暴走族向け自動車雑誌・オートバイ雑誌『チャンプロード』の世界を彷彿させました。

ERONE:そう。アレです。

HIDADDY:チャンプロードと聞くとあの雑誌を想像するじゃないですか。それを匂わせつつ、王道をただ英語にしてみた、くらいの感じです。

SATUSSY:でも、イメージ的には全員特攻服を着てるような感じ。背中に「韻踏合組合」って刺繍入ってるみたいな(笑)。

——noTOKYOとのコラボはどのような経緯で?

HIDADDY:ラッパ我リヤと「ヤバスギルスキル10」を発表したときに、ライブでバンド編成バージョンを披露したことがあるんです。そのバックバンドがnoTOKYOやったんです。

SATUSSY:それもあるし、「ヤバスギルスキル10」のトラックを作ったのがnoTOKYOなんですよ。そこで僕らは初めて知り合って。で、向こうも僕らを気に入ってくれて「是非一緒に何かやりたい」って。

遊戯:こういうロックっぽいテイストも1曲欲しいなって、だいぶ前から言ってたんです。で、たまたまカチッとはまるバンドと出会えました。

——「イカれてる イッちゃってる 異ノーマル feat. NIPPS, 漢, Moment Joon」は、まさに異能でアブノーマルなメンツを集めた曲ですね。

ERONE:いいでしょ、これ(笑)。

SATUSSY:イカれてる人を集めようと。それがいちばんわかりやすいかなと。

——サビで歌われているタイトルのフレーズは、BUDDHA BRAND「人間発電所」の一節からの引用ですね。

ERONE:サビのアイデアは前からあって。1回作りかけたけど完成まで至らずだったんです。で、今回、DJ PANASONICからトラックが来た時点で「これや。もう1回あのテーマでやろう」と。一方で「この曲はフィーチャリングを入れてもいいんじゃないか」って話していて、何人か名前が挙がった中でこの3人を集めたんです。伝説のNIPPS師匠が入ってますからね。気付きました? 最初にNIPPSさんが「韻踏組合」って言うんですよ。間違ってるんですよ(笑)。最初エンジニアの人が消したらしいんですけど、SATUSSYが「消さんといてください」って。

SATUSSY:そう。ここがポイントなんですよって。「でも間違えてますよ」「大丈夫です。戻してください」って(笑)。

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