シングル『The Key』インタビュー
AFOC 佐々木亮介が問う、バンド音楽に対する問題意識「ラップにこそロックの歴史が息づいている」
a flood of circleが、4月24日にニューシングル『The Key』をリリースした。同作にはTVアニメ『群青のマグメル』(TOKYO MXほか)のエンディングテーマである表題曲「The Key」のほか、東京事変「群青日和」のカバーなど全4曲が収録されている。
バンドは今年3月にも、最新アルバム『CENTER OF THE EARTH』を発表したばかり。さらに、佐々木亮介(Vo/Gt)はソロ活動に加えて、盟友の田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)らと結成した新バンド・THE KEBABSでも旺盛な動きを見せている。驚異的な量産ペースを続ける背景には、ここ数年のバンドミュージックに対する問題意識も関係しているようだ。佐々木はロックの現状をどう捉えているのか? 自身やバンドを巡るトピックと共にじっくり語ってもらった。(小熊俊哉)
「the pillowsの海外での成功ぶりに刺激を受ける」
ーー今日はちょうど、the pillows結成30周年企画の映画『王様になれ』の撮影中なんですよね。
佐々木亮介(以下、佐々木):今回はa flood of circleではなく、THE KEBABSっていう遊びで始めたバンドの一員として出ていて。さっき生まれて初めて演技してきました(笑)。
ーー佐々木さんも含めて、the pillowsと縁のあるミュージシャンが本人役で出演されるとか。
佐々木:そうです、これからバンドの演奏シーンも撮るんですよ。
ーー佐々木さんは以前から、the pillowsをフェイバリットに挙げていますよね。最近だと、a flood of circle主催のライブ企画『A FLOOD OF CIRCUS 2019』に出演してもらったり。
佐々木:そうですね。
ーーどんなところにシンパシーを感じているのでしょう?
佐々木:the pillowsは昨年も北米ツアーに行ってますよね。自分たちの道を突き進んだ結果、向こうでもたくさんのお客さんが集まって、みんな日本語で合唱している。僕も今年ソロのレコーディングでシカゴへ行ったのもあり、そういう海外での成功ぶりには刺激を受けますね。あと、僕は思いついたことを全部やろうというタイプなんですけど、(山中)さわおさんもバンドを兼任してソロ活動もやってるじゃないですか。他人にどう思われるか気にせず、いろんなことにトライする姿勢が素晴らしいなと。
ーーいつ頃から好きなんですか?
佐々木:10代の後半くらいに『MY FOOT』(2006年)で知りました。あのアルバムに収録された「サード アイ」って少しThe Strokesっぽくて、メジャーでそういう感覚を持っているバンドは他にいなかったと思うし、サビはキャッチーで日本語ロックの良さもある。そこが格好いいなって。
ーー山中さんはよく“オルタナ”について語ってますけど、近年の佐々木さんも、だいぶオルタナティブな方向に進んでる印象です。
佐々木:それって褒め言葉ですよね?
ーーもちろん(笑)。『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』でもトラップビートを取り入れつつ、大胆なアプローチを連発してましたし。
佐々木:「コイツどこに行くんだ?」って思われてそうですよね(笑)。
ーージャンルではなく、言葉本来の意味で“オルタナティブ”であろうとしてるのかなと。
佐々木:僕は1990年代の、バンドがチャートを席巻していた時代を知っているので。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)やRadioheadもそうだし、あの頃はバンドが当たり前のように売れていた。でも、2010年代の後半は(チャート上に)バンドがいなくなってしまいましたよね。今はそもそも、バンドがオルタナティブな存在として機能していない。でも、日本のフェスだけ見ているぶんには、全然そんなふうに感じないんですよ。その捻れた感じをどう解決させたらいいのか、ずっと考えてます。
ーーこの場合、どうなると“解決”なんですか?
佐々木:うーん、僕はやっぱりバンドが好きなので。そこは捨てられないんですよ。たとえば、バンドを前進させるための手法としてよくあるのは、過去のスタイルを踏襲することですよね。僕らも長いこと、「THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのパクリじゃん」って言われてきたわけですけど(笑)。
ーーいやいや(笑)。
佐々木:それはそれでいいとして、もう一つ考えていることがあって。昔だったらオルタナティブと呼ばれそうな音楽が、今はメインストリームとしてアメリカのチャートに入っていますよね。そういう音楽にはリスナーとしても惹かれるし、そこを取り込めたら面白そうだなって。その両方を上手くやるのは誰もやってないはずだし。
ーーリアルサウンドによる過去のインタビューで、「『ロックンロールバンドって、下手したらすげえつまんねえものになるぞ』って焦ってきて」「今はギターが弱い時代だから」と話していましたが、そういった認識は今も変わらないですか?
佐々木:ちょっと変わったかな。昨年のアルバム『a flood of circle』に向かい合う前は、ギターとドラムが鳴る曲がまったく聴けなかったんですよ。Spotifyとかでギターのイントロが流れると、すぐスキップしてたくらい(笑)。でも、自分がバンドで作るとなったとき、悲観的なことばかり言ってても始まらないと思って。少し長期的な計画を立てようと思ったんです。
ーーというと?
佐々木:アオキテツ(Gt)が昨年加わったのもあり、a flood of circleの持ち味である“うるさいドラムとギター”を一周回って突き詰めたら武器になると思ったんですよ。でも一方で、「今の時代はバンドきついな」っていう感覚も正しいはずで。いつかその二つが交わったとき、新しいバンド像が見えてきそうな気がしたんです。ただ、テツが加わってまだ一年だし、あんまり焦る気もないから、自分たちの武器を一回出し切ろうと。だから、『CENTER OF THE EARTH』は何かの答えを提示するのではなく、バンドの成長過程をあえて見せたアルバムですね。
ーーたしかに、『CENTER OF THE EARTH』はものすごくラウドな作品でした。
佐々木:しかも、今までで一番テンポが速くなっちゃって。最近の音楽はBPM50〜60くらいが当たり前のなか、200くらいあるので恐ろしく速い(笑)。
ーーあのアルバムは、音楽面でどんなコンセプトがあったんですか?
佐々木:とにかくギターとドラムをうるさくすることですね。ウチは出身地も年齢もみんなバラバラだし、元々どんな生活をしていて、どんな音楽を聴いているのかも知らないんですよ。そういうバラバラな奴らが集まることで、奇跡が起きる瞬間こそがバンドの醍醐味だと思うので。その良さは捨てたくないなって。だから、俺がソロでやってるような世界観をメンバーとすり合わせるのではなく、メンバーの個性や必殺技を活かした作品にしようと。それがコンセプトでしたね。
ーーなるほど。
佐々木:あと思うのは、(演奏の)ズレとかヨレを一周回って格好良いものとして捉え直したいんですよ。以前、THE KEBABSのメンバーである新井(弘毅)さんと話をして。新井さんはDISH//というグループをプロデュースしてるんですけど、打ち込みで曲作りしていると、ギターだけどうしてもピッチがズレて気持ち悪いと。でも俺は、そのズレこそがバンドの良さだと最近思うんですよ。昔のロックにおける手法ばかり繰り返しても伝統芸能になっちゃうし、かといって単純にトラップビートのうえでギターを弾いても面白いものにならない。そのどちらとも違うアプローチで、ピッチがヨレてるドラムやギターの格好よさともう一回向き合いたいなって。