4期生が踏み出した“乃木坂46”としての一歩 演技に特化した『3人のプリシンパル』を振り返る
『プリンシパル』シリーズの構造上、そもそも第二幕の演劇はひとつの作品として練り上げていくことが難しい。このとき、「それ以外ぜんぶ」役という存在によって、第二幕のキャストたちの立ち回りに常に見どころが生まれたことは、今回の『3人のプリンシパル』にオリジナルの成果だった。また、上演時間的にもある程度シンプルに展開する必要がある第二幕に関して、広く人口に膾炙しているクラシックな演目が選定されたことも、今後の『プリンシパル』への指針になりうるものだろう。
毎回、異なる演出家によってディレクションされる『プリンシパル』シリーズは、その公演ごとに性格を大きく変える。谷賢一が構成・演出を手がけた2019年の『3人のプリンシパル』は、第一幕のオーディションで複数の位相を「演じる」仕立てや、「それ以外ぜんぶ」役を効果的に用いながらの第二幕の簡潔なつくりに特徴がある。総じて、従来のプリンシパルに比して寄り道や脱線が少なく、演技に奉仕するストイックな『プリンシパル』として仕上げられていた。
あるいは、結成当初から乃木坂46が「演技する集団」としてあったことを思えば、そのねらいに最もストレートにアプローチしたのが今回の『プリンシパル』だったといえるかもしれない。いまや乃木坂46のメンバーは、東宝製作の大劇場ミュージカルをはじめ、舞台演劇で多くの成果を積み重ねる存在としてある。複数の位相を体現しながらあくまで虚構を「演じる」ことに注力した今年の『3人のプリンシパル』は、その偉大な先輩たちにつづくための第一歩に似つかわしい、タイトな性格の公演だったといえるだろう。
■香月孝史(Twitter)
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。
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