『ラブライブ!』キャストが示す声優音楽の多様さ 三森すずこ、内田彩、久保ユリカ作品から考察
内田彩『Sign/Candy Flavor』
内田彩の音楽にも驚かされた。まず、アニメ作品とのタイアップがほとんどなく、「So Happy」「Bright way」、そして最新曲「Sign」のわずか3曲だけということ。彼女の知名度や立場を考えると恐ろしく少なく、ほぼ全ての楽曲が彼女のために作られているという徹底ぶりだ。コンセプトミニアルバムも2作制作されていることもあり、声優業に対する思いの強さと同じくらい、彼女が音楽に対しても妥協なく貫こうとする意志が見える。
最新シングル『Sign/Candy Flavor』を見てみよう。「Sign」は、キックドラムとベースラインが強調されたR&Bテイスト。シンセサイザーと打ち込みサウンドが施され、メロディラインも上下動が少なく、チルテイストなダンスナンバーとなっている。また、内田彩の歌声にも注目したい。もともと彼女の声は、軽やかなソプラノの声色で、ハイトーンになると絶妙に掠れ気味になるのが特徴的だ。同曲では、そんな彼女の歌声とオートチューンが施された変声との2種類が絶妙に併用されており、楽曲の魅力をより引き立てている。
また、エレクトロサウンドが全開になった「Candy Flavor」では、『ICECREAM GIRL』でも成功したサウンドメイキングで、ベースサウンドとキックドラムがグルーヴィに絡む1曲に仕上がっている。
久保ユリカ『VIVID VIVID』
続いては、2月に発売された久保ユリカによるミニアルバム『VIVID VIVID』だ。彼女は、μ'sが活動を休止した2016年の2月に先んじてソロデビューを果たしたものの、2017年5月に歌手活動を休止した。その後、2018年5月31日に音楽活動を再開を宣言した。
活動再開一発目となる今作『VIVID VIVID』では、5曲中4曲がEDM系~エレクトロサウンドへ変化し、1stアルバム『すべてが大切な出会い ~Meeting with you creates myself~』で感じられた“ナチュラルな空気感”とはまた異なる一面を見せている。これは久保本人が「EDMっぽい曲で歌ってみたい」というリクエストしたのだという(参照)。例えば、「Instant@Heart」は、フレンチハウス楽曲となっていて、Daft Punk「Harder, Better, Faster, Stronger」を彷彿とさせるボイスネタも取り入れている。また、ヒゲドライバーが作詞、烏屋茶房が作曲を手がけた「しかししかじか」は、久保ユリカのニックネーム「しかこ」をモジった電波系ソング。ヒゲドライバーのお株を奪う8ビットサウンドを思わせるようなエレクトロ曲だ。
そして何よりも、本作の顔はタイトル曲の「VIVID VIVID」である。EDM系のダンスナンバーとして仕上がったこの曲。MVでは、カジュアルなストリート系ファッションを身に纏い、4人のダンサーを引き連れて歌い踊っている。EDM系のカラフルなダンスミュージックや、ファッション、メイクなど……TWICEをはじめとする現行K-POPの影響が感じられる。
三森はこれまで注力してきたビックバンドジャズをさらに進化させ、内田はチルテイストなダンスミュージックアレンジに挑戦。久保はEDM系~エレクトロサウンドを取り入れつつ、K-POPの要素も取り入れた音楽性へと変化を遂げている。三森らがリリースした楽曲は、声優音楽シーンの“多様さ”を示しているのではないだろうか。この3名のような活躍を、逢田ら『ラブライブ!サンシャイン!!』出演声優にも期待したい。
■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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