米津玄師「Lemon」はなぜ歌いたくなる? 徳永ゆうき、まふまふ、コバソロ&春茶のカバーを比較
コバソロ & 春茶
コバソロ & 春茶は、昨年2月にカバー映像を公開。同カバーでのアレンジは、原曲にも似た、コバソロによるフォーリズムとストリングス、春茶によるアコースティックギターを混じえた編成となっている。また、女声で歌われることで、楽曲のイメージも少し異なるものに。どこか神秘的にも感じられる。
それぞれのアーティストが独自の手法でカバーしている「Lemon」。一方で、サビのあるフレーズだけは、全アーティストが共通する“歌い回し”となっていた。それは、楽曲タイトルにも掲げられた“レモン”が登場し、サビのなかでも特に耳に残る〈胸に残り離れない 苦いレモンの匂い〉というワンフレーズだ。
同楽曲のAメロからBメロまでは、ゆったりとしたテンポで2小節を歌唱する。そこから勢いよくスタートするサビからはテンポも上昇。サビの冒頭には〈あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ/そのすべてを愛してた あなたとともに〉という2つのフレーズが用意されている。しかし、その勢いに反してここでは所々にブレスが挟まれており、各フレーズは一旦着地を見せる。そこからの〈胸に残り離れない 苦いレモンの匂い〉は、サビに入って初めてブレスを挟むことなく歌唱され、歌っていて最も開放感を感じる瞬間となる。同フレーズが楽曲を通じて最も盛り上がる箇所となるのも頷ける。また、楽曲で描かれる苦しみの感情を、“苦いレモンの匂い”とメタファーによって直接的に表現しないことも、日本人的な感覚にマッチしているのかもしれない。
カラオケやアーティストによるカバー音源など、様々な場所で歌い継がれていく「Lemon」。同楽曲が多くのリスナーに愛される理由はドラマとの親和性の高さ、ストーリー性のある歌詞はもちろんのこと、楽曲として純粋に魅力的なところにあるのかもしれない。
(文=青木皓太)